電気通信大学大学院情報理工学研究科の渡邉恵理子准教授らの研究グループは5日、In-line型位相シフトデジタルホログラフィを応用した生体組織越しのイメージング手法を開発したと発表した。生体皮膚やすりガラスのような散乱媒体越しに物を見る技術は、医療分野において注目されており、 今後はこのイメージング手法を利用した医療デバイスの開発が期待される。
散乱媒体は、霧が視界を悪くするように、物体像を不明瞭に見せるため光学分野に限らず幅広い分野で障害となっていた。散乱媒体は霧、すりガラス、皮膚といった多分野において存在するため、多くの手法が研究されている。だが、現在、盛んに研究されている手法では、光の振幅だけでなく位相や3次元情報といった空間的情報を一回の記録によって取得することは難しかった。
デジタルホログラフィによる手法は1960年代から行われきた。同手法は、スクリーンと見立てた散乱媒体に物体の情報が含まれた干渉縞を映し出し、レンズと撮像素子によって記録することで計算機上の画像処理において物体を再構成するというもの。
本来、デジタルホログラフィは観察対象の振幅・位相情報の再構成が可能であり、医療分野ではデジタルホログラフィック顕微鏡として注目されてきた。だが、従来のOff-axis型による散乱媒体背後イメージングは、再生像の解像度において重要になる記録可能な空間周波数帯域の制限や、散乱媒体の回転が必要であり、顕微イメージングが困難であった。
そこで、渡邉准教授らのグループは、In-line型位相シフトデジタルホログラフィを応用し、散乱媒体背後の物体を顕微的にイメージングできる手法をStuttgart大学と共同で開発した(図1)。In-line型位相シフト法によってこれまでの課題は改善され、すりガラスによって隠された約2.0 µmの物体を可視化するだけでなく、定量位相情報や3次元情報といった医療分野において細胞識別に有効な情報も取得できている。
さらに、このイメージング手法は、多数の散乱層を含んだラットの皮膚背後に置かれた2.0µmの物体も確認できた(図2)。同研究は、生体組織下にある従来の技術では確認できないような顕微物体を可視化する新しい手段となり、今後は、このイメージング手法を利用した医療デバイスの開発が期待される。
なお、同研究成果は、2019年11月13日にアメリカ光学会誌「Applied Optics」に掲載された。