40Hzγ波による認知症予防・進行抑制目指したテクノロジープロジェクト発足で発表会 ウェルネス総合研究所

古賀氏

 ウェルネス総合研究所は18日、東京都内で「ガンマ波テクノロジー 認知機能ケアプロジェクト」発表会を開催した。
 同発表会は、40Hzγ変調技術の実用化に向けた正しい情報発信および社会実装を推進する「ガンマ波テクノロジー 認知機能ケアプロジェクト」発足に伴い開催されたもの。同プロジェクトは、塩野義製薬と筑波大学発のベンチャー企業であるピクシーダストテクノロジーズ(PxDT)の2社を中心に展開していく。 

 2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症とされる日本社会において認知症への対策は国を挙げた重要課題になっている。また、発症後は根治が難しい認知症は、その予防の重要性が高まっており、「Nature」、「Cell」といった最も権威のある科学誌等に掲載された40Hz明滅光やパルス音による認知機能改善効果の論文が世界的に注目を集めている。
 こうした中、同発表会では、40Hzパルス刺激によって生じるガンマ波による認知症予防の可能性について古賀良彦杏林大学医学部名誉教授が基調講演した。さらに、塩野義製薬とPxDTが共同で開発した40Hz変調音を日常生活でも楽しめる独自のガンマ波変調技術と研究結果を報告。その技術を核とした通信事業者、保険事業社、介護施設事業社、不動産事業社4社のパートナー企業との共同による認知機能改善、認知症予防への貢献を目指す同プロジェクトの構想と展望も紹介された。
 「認知症予防における 40Hz-ガンマ波の可能性」をテーマに基調講演した古賀氏によれば、SDGsが2030年達成を目指す17ゴールの一つである「すべての人に健康と福祉を」に該当するのが、最近注目されているWell-Beingだ。
 人生100年時代の幸せの持続には、脳の健康が不可欠で、「高齢者の脳の健康」は重要なテーマである。わが国は、超高齢社会の到来によって認知症患者数は増加の一途を辿っており、2012年で65歳以上の6人に1人、2025年には5人に1人が罹患すると推計されている。認知症の7割はアルツハイマー型で、その要因は‟アミロイドβ”で、このたんぱく質が蓄積して神経変性が進行して脳が委縮する。
 2019年、WHOが「認知機能低下・認知症リスク低減」について発表したガイドラインの手法の一つに「脳に刺激を与えることで予防を図る」認知的介入というアプローチが挙げられている。人が取得する情報の7割が目から入るもので、「視角」、「聴覚」に頼りがちであるが、WHOの提言では、嗅覚、味覚、触覚の5感をうまく使って脳の活性化を図るという狙いがある。
 触覚刺激は、折り紙が脳全体にとってバランスの良い刺激になっている。嗅覚・味覚刺激は、珈琲の香りによる脳機能の活性化が報告されている。中でも「聴覚(音)刺激」の研究は、国内の様々な機関で進んでおり、東京電機大学が「超高周波音が認知症患者の精神症状(不穏症状:BPSD)を緩和する可能性」を示唆している。
 関西福祉科学大学では、オトバンク社との共同研究により、音と「運動」を同時にすることで従来の認知症予防トレーニングと同等の脳血流効果が得られる結果が確認されている。
 東北大学は、低出力パルス波超音波治療(LIPUS)が早期アルツハイマー型認知症患者に安全・有効である可能性を示唆している。
 海外における音刺激による認知症予防の最新研究では、マサチューセッツ工科大学のDr.Tsaiの五感刺激による認知症予防研究が、最近複数の権威ある学術誌で発表された。
 同研究成果は、2016年にNature (マウス/光刺激)、2019年にCell (マウス/音刺激、音刺激・光刺激)、2022年にPLOS ONE(ヒト/音刺激・光刺激)において掲載されている。
 Dr.Tsaiの音刺激に関する研究では、マウスに40Hz周期の断続音を聞かせることで「γ波」の脳波が聴覚野と海馬で発生することが確認された。
 γ波の発生により、アルツハイマー型認知症と関連の深い「アミロイドβタンパク質」が有意に減少し、目的地へ向かう・戻る時などに機能する「空間記憶」が改善した。
 脳波は、複数の周波数成分によって構成されており、周波数が8~13Hzのα波などが一般的には知られている。γ波は、周波数30Hz以上の高周波で、認知(情報処理)プロセスで増加する。
 一方、アルツハイマー型認知症の患者は、健常者と比べて認知プロセスで生じるγ波が減少する。すなわち、γ波は健常者の脳に多く、認知症患者の脳では減少している。
 「40Hz周期の断続音」は「1秒に40回」のペースで周波数1kHzの音のオン・オフを繰り返し提示するもので、40Hz周期の断続音によって“γ”波帯域の脳波がシンクロして発生することが確認されている。
 その後、Dr.Tsai創設のCognito Therapeutics社が40Hz周期の断続音・断続光を発するデバイスを開発し、2022年には薬物の治験で必要な「三相試験(三段階の臨床試験)」のP3まで差し掛かっている。
 これまでの試験結果としてP1試験では、健常者・若年層、健常者・高齢層、軽度のアルツハイマー型認知症患者を対象に40Hz周期の断続音と断続光を同時に与えたところヒトの脳内でのγ波発生が確認された。
 P2試験においては、同様に40Hz周期の断続音と断続光を同時に与えることで、脳室の拡大と海馬の萎縮抑制が報告されている。
 古賀氏は、「γ波による認知症の予防・進行抑制の研究は緒に就いたばかりで、今後さらに効果・安全性の検証が進み、早期に商品・サービスとして社会実装化されることが望まれる」と強調。その上で、「社会実装化されれば、認知症予防を始めとする中高年層の適用ばかりではなく、若年層の生産性向上も含めた幅広い層に‟人生100年時代”のウェルビーイングをもたらすものと考えられる」と期待を寄せた。

柳川氏

 続いて、柳川達也氏(塩野義製薬新規事業推進部ビジネス創出グループマネジャー)が「40Hzの日常利用を可能にする変調技術と人の脳におけるガンマ波惹起の研究結果」について講演した。柳川氏は、塩野義製薬とPxDTとの共同研究のコンセプトとして「薬の研究開発で磨き上げたエビデンス創出力や疾患理解とアカデミア発の空間認識や五感刺激技術」による「薬ではなく五感刺激による生活に溶け込んだ認知症ケアサービスの開発」を訴求した。
 同サービスの開発により、「日常生活を送るだけで、長期に渡って五感による介入が自然に行われ、周辺症状を含む認知症など高齢者の困りごとを解決しQOLが向上する世界を目指す」
 柳川氏は、Tsai博士が立ち上げたCognito Therapeutics社の現況についても言及し、「40Hz間隔の光/音刺激デバイスを医療機器として開発中である」と紹介。
 さらに、「記憶に関連する脳波の惹起を促すとともに、認知機能への効果が示唆されるエビデンスを獲得し、2021年にFDAからbreakthrough therapy指定を受けている」と報告した。
 同デバイスは、3つの主要評価項目について全てを達成できていないものの、一部の認知機能や周辺症状に関して40Hz刺激による改善の可能性を示している。
 また、重篤な有害事象は報告ないが、「半年にわたって毎日1時間、耳も目も塞がれる状態は被験者の負担が相当に大きい」、「音はパルス状で情報がなく、非常に不快」等の理由で3割の被験者が脱落している。
 そこで、塩野義製薬とPxDTは、共同研究によって不快度と不自然さを低減した変調法、出力法として、「ガンマ波変調技術」を開発した。
 変調技術とは、ラジオのAM放送やFM放送のよううに、電波に音声を乗せて送ることを意味する。
 今回開発されたガンマ波変調技術は、音声に40Hzの変動を乗せて、「TVで流れているようなコンテンツや音楽でも40Hz脳波を惹起/同期する」ものだ。
 今後は、日常にありふれた音を「ガンマ波帯域脳波を惹起できる音」に変換し、日常生活の中で「認知機能の改善」、認知症の「ながら予防」が可能な社会の実現を目指す。

長谷氏


 一方、長谷芳樹氏(PxDT事業本部シニアエンジニア)は、両社の共同研究の成果として、①40Hz周期のパルス音ではなく、40Hz変調(包絡線の操作)を施した音でもガンマ波が惹起あるいは同期された、②ニュースや音楽の音源の背景音のみを40Hz変調した音源でも脳波が惹起あるいは同期された、③高齢者であっても若年者と同様の40Hz脳波惹起あるいは同期が見られたーの3項目を指摘。
 その上で、「引き続き多数の研究が進行中で、より聞きやすくより高い効果の期待される音や、他の応用についても複数の機関等と研究している」と紹介した。

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