塩野義製薬の手代木功会長兼社長は31日、2022年度中間決算説明会で会見し、開発中の新型コロナ経口治療薬「ゾコーバ」について、「第2/3相臨床試験のPhase 3 partにおいて主要目的を達成した。現在、厚労省およびPMDAと連絡しながら一日も早く承認して貰えるように尽力している」と報告した。
ゾコーバは、緊急承認制度による承認を巡って7月に開かれた薬事・食品衛生審議会において、「提出されたデータから有効性が推定できない」との理由で継続審議となっている。国際共同第2/3相臨床試験のPhase 3 partの結果が明らかになった後に、改めて承認の可否が審議される。
一方、開発中の新型コロナワクチン「S-268019」に関しては、「年内に承認申請する」と断言。その上で、「従来株に対応するワクチンの承認を得た後に、オミクロン株にも対応する2価ワクチンの開発について当局と話し合いを進めて行く」考えを強調した。
ゾコーバの第2/3相臨床試験のPhase 3 part試験結果においては、軽症/中等症患者において、重症化リスク因子の有無にかかわらず、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状が消失するまでの時間(発症前の状態に戻るまでの時間)をプラセボに対して有意に短縮し、主要評価項目を達成した。
加えて、投与4日目(3回投与後)におけるウイルスRNA量を有意に減少させ、優れた抗ウイルス効果が確認された。
手代木氏は、「多くの人が第8波の不安を抱える中で、一日も早くゾコーバを医療現場に提供したい。そのためには、緊急承認など、承認制度の形式には拘っていない」と強調した。現在、今後の承認審査ならびに審議について、厚労省およびPMDAと鋭意協議を進めている。
ゾコーバの海外実用化の動きについては、韓国では、ILDONG社とのサブライセンス契約を締結し、承認申請に向け当局と協議を進めている。中国では、平安塩野義が承認申請に向けて資料提出を開始している。中国について手代木氏は、「当初のジェネリックや大手薬局チェーンと組みながらのビジネス展開から、ゾコーバを中心とした新薬事業に方針転換した」と断言。
7億錠の生産能力(1億人分)を有する平安塩野義の製剤工場と2つの原薬工場でゾコーバを現地生産し、セールスプロモーションを組むことで、中国国内で完結するビジネスを構築する。
欧米においては、FDA、EMA、MHRAと承認申請に向けて協議を継続している。低中所得国には、国連が支援する公衆衛生機関であるMedicines Patent Pool(MPP)と、薬事承認取得後に、低中所得国(LMICs)に広く提供するライセンス契約を締結。117か国への提供に向けた活動を展開している。
ゾコーバの供給に関しては、既に100万人の生産を完了し、4月以降、自社で年間1000万人分の供給に向けて生産を拡大。さらなる供給拡大に向け、前述の中国や米国での製造を計画している。
手代木氏は、「ゾコーバは、昨年の12月より製造を開始している。ゾフルーザ(抗インフルエンザ薬)と同等に6年間の極めて高い安定性を裏付けるデータがある」と明かし、「ゾコーバ専用に工場投資をしていない。ゾフルーザと上手くマネージしながら製造している」と説明。さらに、前もって製造しているのは、「承認されれば、すぐに安定供給しなければならないから」と述べた。
新型コロナウイルスの体内生存期間と痴呆症等の脳関連後遺症との関係にも言及し、「なるべく早く消失させた方が後遺症が少ないという仮説は立てられるものの、それを科学的に裏付けるデータを長期臨床試験で取得していきたい」と語った。
今年中に申請する新型コロナワクチンについては、「青少年から検討を開始し、学童における用量検討を実施している」。さらに、「追加免疫時の中和抗体はコミナティによる追加免疫時の中和抗体と同程度であることを確認している」。 手代木氏は、S-268019の特徴として、「追加摂取で良いデータを取得している」、「冷蔵庫で普通に保存できる」、「2人用包装で7から8人揃わなくても摂取できる」などを挙げた。
また、2022年度中間期のトピックスとして、「ゾフルーザ、ラピアクタの返品」について説明した。
今年度内に使用期限が切れる約53億円(ゾフルーザ約48億円、ラピアクタ約5億円)の返品を計上したもので、「2シーズン連続して流行の未発生で、両剤とも製品使用期間が短い」と指摘する手代木氏。
その上で、「必要な時に必要な量の製品を生産し、供給することが急性感染症の流通の理想像である」と強調し、「これまでの状況を一旦生産し、売りを透明化(売上≒処方量)するとともに、在庫のトレーサビリティー向上を目指したい」と抱負を述べた。