中外製薬研究者3名が血友病A治療薬ヘムライブラ創製で米国科学賞「ラスカー賞」受賞

(左から、北沢氏、服部氏、井川氏)

 血友病A治療薬ヘムライブラ(一般名:エミシズマブ)の創製を主導した中外製薬の服部有宏氏(元中外製薬 シニアフェロー)、北沢剛久氏(中外製薬 研究本部副本部長)、井川智之氏(中外製薬 研究本部長)の3名の研究者が、世界的に権威のある科学賞である「ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞」を受賞した。
 血友病Aでは血液を固めるために必要なたんぱく質の一つである血液凝固第VIII因子が欠乏している。第VIII因子は活性化されると、活性化した血小板の表面において、活性型血液凝固第IX因子による第X因子の活性化を補佐する“橋渡し役”として働く。
 今回の受賞は、この第VIII因子の機能を、バイスペシフィック抗体で代替するという独創的な着想から、作用の持続性の向上と皮下投与による利便性の向上、第VIII因子インヒビター(抗体)の有無を問わない持続的な出血予防効果を実現し、血友病Aのアンメットメディカルニーズの解決に大きく寄与したことが高く評価されたもの。
 ラスカー賞は、医学研究の発展に大きく貢献した研究者や、医学・公衆衛生分野に顕著な功績を残した個人を称える米国の医学賞だ。基礎医学研究、臨床医学研究、公共サービスの各分野で授与される。
 1945年のラスカー賞授与の開始以降、日本人の臨床医学研究分野での受賞は2回目となる。また、同分野での日本人研究者3名による同時受賞も初めてとなる。
 エミシズマブは、中外製薬研究者が膨大な実験を重ねて創製した抗体医薬だ。従来の抗体医薬は病気に関わる特定の物質や細胞に対して、その働きを抑えたり、免疫機能を利用して標的となる細胞を除去したりする、「引き算」の作用によって効果を発揮する。
 それに対し、エミシズマブは、抗体そのものに、本来は別のたんぱく質が担う機能を持たせることで、不足する働きを補う「足し算」の発想を実現した世界初の抗体医薬である。
 同時に、異なる二つの標的に結合する世界初の遺伝子組換え完全長IgG型バイスペシフィック抗体医薬であり、創製の過程では、その商業製造を可能にする独自の抗体エンジニアリング技術ART-Igも開発して適用している。
 同治療の実現にあたっては、血友病の基礎研究と診療で豊富な知見を有する奈良県立医科大学と協働し、基礎・臨床の両面から研究を推進してきた。また、エミシズマブはロシュ社(スイス)に導出後、ロシュ社およびジェネンテック社(米国)と連携してグローバルでのP3試験の実施と承認申請を進め、ヘムライブラとして製品化に至った。
 2017年に米国、2018年に日本および欧州で承認後、現在では120を超える国・地域で承認されている。国際共同P3試験であるHAVEN1~4試験の統合解析では、第VIII因子インヒビターの有無、重症度、年齢を問わず、主要評価項目である試験全体での治療を要した24週間おきの年間出血率(ABR)は1.4回/年であった。
 また、副次的評価項目の治療を要した出血が0回であった方は投与1~24週では70.8%(277/391例)、その後24週ごとに経時的に解析し、投与121~144週時点では82.4%(140/170例)であった。
 安全性については、新たな懸念は確認されず、主な有害事象は注射部位反応(27.8%)であった。エミシズマブは第VIII因子に対するインヒビター(抗体)の有無によらず持続的な出血予防効果を発揮することに加え、新たな第VIII因子インヒビターが誘導されていないことや、皮下投与や投与間隔の延長といった利便性の向上を通じて新たな治療選択肢を提供し、これまでに3万人を超える血友病Aの方々に使用されている(2026年6月末時点、グローバル累計)。
 
◆奥田修代表取締役社長 CEOのコメント
 血友病Aの方々とご家族の負担を軽減したいという想いから生まれた独創的な発想と、それを実現した創薬技術が、このたび高く評価されたことを大変嬉しく思う。
 エミシズマブは、1週から4週に1回※の皮下投与によって投与の負担を軽減するとともに、第VIII因子インヒビターの有無や重症度、年齢を問わず持続的な出血予防効果を発揮し、血友病Aの方々とご家族に新たな日常をもたらした。
 困難な課題に挑み続けた3名の研究者の創造力とリーダーシップ、そして多くの関係者による研究開発の積み重ねに深い敬意を表し、心よりお祝い申し上げる。
 また、この研究成果をヘムライブラという製品へと結実させ、世界中の血友病Aの方々に届けることができたのは、臨床試験に参加してくださった方々、奈良県立医科大学をはじめとする医療関係者の皆さま、ロシュ社、ジェネンテック社との協働があったからこそだ。長年にわたり多大なるお力添えをいただいたすべての関係者の皆さまに、改めて深く感謝申し上げる。
 今後も、独自の技術とサイエンスをさらに高めるとともに、多様なパートナーとの協働を推進し、一人でも多くの患者さんに革新的な医薬品とサービスをお届けできるよう努めていきたい。

【受賞者コメント】

◆服部有宏氏( 血液凝固と抗体の知見を基に本着想を生み、研究プロジェクトを統括)
 多くの研究者や臨床の先生方と「世のため、患者さんのため」に力を尽くした成果が、今回の受賞につながったことを大変光栄に思う。この治療を必要とする世界中の患者さんに届けることが、私たちが引き続き取り組むべき課題だと思っている。

◆北沢剛久氏(薬理・生物学研究を主導し、候補抗体の探索と第VIII因子代替活性の実証を推進)
 多くの医療関係者の皆様や研究仲間との協働により、エミシズマブの創出に携わることができたことを光栄に思う。また、臨床試験に参加してくださった血友病Aの方々とご家族の皆様に、心より感謝申し上る。今回の栄誉が、次なるイノベーションを生み出す契機となることを信じ、今後も力を尽くしたい。

◆井川智之氏(エミシズマブのデザインおよびバイスペシフィック抗体を効率的に製造する技術の確立を主導)
 患者さんとご家族の負担を少しでも軽くし、より自由な日々を届けたいという願いが、困難な研究を前へ進めてきた。3名同時にこのような栄誉ある賞を受賞できたことを、心から光栄に思う。これからも自由な発想と科学の力で、人々の人生に貢献する医薬品の創出に挑み続けたい。

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