

左:CMCなどの脂質構造を確認するWAXS像
右:IF(中間径フィラメント)繊維を確認するSAXS像
ロート製薬は8日、ヘアケア研究において、ヒアルロン酸カリウムの「うねり戻り」抑制効果を確認し、高湿度下での「うねり戻り」抑制に寄与することを見出したと発表した。
ヘアケア研究は、日常的に感じる髪悩みに寄うためび毛髪内部構造に着目したもの。今回の研究では、「うねり戻り」に着目し、3GeV 高輝度放射光施設「ナノテラス」で毛髪内部構造を解析した。
その結果、日光照射により毛髪内部の CMC(細胞膜複合体)を含む脂質構造にダメージ(CMCダメージ)が生じ、さらに高湿度下で「うねり戻り」が起こりやすくなることを確認した。
また、スキンケア領域で培ってきたヒアルロン酸研究の知見をもとに素材探索を進める中で、ヒアルロン酸カリウムが日光による CMCダメージを防ぎ、高湿度下での「うねり戻り」抑制に寄与することを見出した。
この研究成果は、日光や湿度といった日常環境下で起こる髪悩みに対し、毛髪内部から髪のまとまりや質感にアプローチする新たな「質感コントロール」発想につながるもので、今後、ヘアケア製品の研究開発に活かしていく。
朝整えた髪が、時間の経過とともに再びうねる「うねり戻り」は、多くの人が実感する髪悩みのひとつである。見た目の変化にとどまらず、髪のまとまりにくさやスタイリング維持の難しさにもつながる課題だ。
これまで、うねり髪に関する研究や、それを整えるためのヘアケア技術の開発は進められてきたが、日中に再発するうねりの発生要因については、毛髪内部構造の観点から十分に整理されていなかった。
そこで同研究では、日光と湿度の影響に着目し、日光が毛髪内部構造に及ぼす影響、その変化と高湿度下での「うねり戻り」との関係、それらに有効に働く素材の探索を進めた。
その中で、スキンケア領域で培ってきたヒアルロン酸研究の知見や顧客から寄せられた声も手がかりに、毛髪への応用可能性を評価した。研究成果のポイントおよび詳細は次の通り。
【 研究成果のポイント】
◆「うねり戻り」研究の新視点。日光による毛髪内部構造の変化を確認。
◆日光照射により CMC(細胞膜複合体)を含む脂質構造が損なわれ、高湿度環境下で「うねり戻り」が生じやすくなることを確認。
◆ヒアルロン酸カリウムが、日光による CMC ダメージを防ぎ、高湿度下での「うねり戻り」を抑制することを確認。
【研究結果の詳細】
1、日光照射により、IF ではなく CMC に変化が見られることを確認
ナノテラスにて、放射光 X 線散乱測定を行い日光照射前後の毛髪内部構造を比較解析した。SAXS(小角 X 線散乱)では、IF 繊維(中間径フィラメント)のような大きなタンパク構造への顕著な変化は認められなかった。
一方、WAXS(広角 X 線散乱)では、CMC の脂質構造に由来するピークが日光照射後に消失し、日光照射によりCMCを含む脂質構造が損なわれることが確認された(図 1)。

試験方法:
未処理の毛髪に耐候性試験機にて765W/m2、20h照射した。サンプルをNanoTerasuのビームラインBL08WにてX線散乱測定をおこなった。(ナノテラス実施)
2、日光ダメージを受けた毛髪は、高湿度下で「うねり戻り」が生じやすいことを確認
CMCは、毛髪内の水分移動を制御する重要な脂質構造である。日光照射の有無で毛束を比較し、高湿度条件下に静置したところ、日光照射毛束では非照射毛束と比べて、より強いうねり・広がりが確認された(図2)。
これは、日光照射により CMC を含む脂質構造が損なわれることで毛髪内の水分バランスが乱れ、高湿度環境下で毛髪が膨らみやすくなるためと考えられる。

図2:日光照射の有無による、高湿度下での毛束の外観比較
試験方法:
健康な毛髪と耐候性試験機にて765W/m2、20h照射を行った毛髪を、それぞれ湿度70%で2時間加湿処理を行い、毛束の形状を目視確認した。(ロート製薬研究所実施)
3、ヒヒアルロン酸カリウムが、日光による CMC ダメージを防ぎ、高湿度下での「うねり戻り」を抑制
日中の「うねり戻り」を抑制する有効な素材を探索するため、多種多様なヒアルロン酸を比較評価した結果、ヒアルロン酸カリウムを有効な素材として見出した。日光照射により CMC を含む脂質構造が損なわれた毛髪は、高湿度環境下においてうねりや広がりが生じやすくなることがわかった。同研究では、ヒアルロン酸カリウムを用いることで、日光による CMC ダメージが抑えられ、高湿度条件下においても「うねり戻り」が抑制されることを確認した(図3、図4)。
さらに、ヒアルロン酸カリウムのダメージ毛への浸透性と毛髪の硬さへの影響を評価した(図5、図6)。その結果、ヒアルロン酸カリウムを処理した毛髪では、日光照射による毛髪の硬化が抑えられることが示された。

試験方法:
未処理の毛髪及びヒアルロン酸カリウム処理を行った毛髪に耐候性試験機にて765W/m2、20h照射した。サンプルをNanoTerasuのビームラインBL08WにてX線散乱測定を行った。(ナノテラス実施)

試験方法:
耐候性試験機にて765W/m2、20h照射を行った毛髪と、日光照射後にヒアルロン酸カリウムを塗布した髪の毛それぞれに湿度70%で2時間加湿処理を行い、毛束の形状を目視確認した。(ロート製薬研究所実施)

試験方法:
耐候性試験機にて765W/m2、20h照射を行ったブリーチ毛に蛍光標識を行ったヒアルロン酸カリウムを塗布後、毛髪の断面を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。(ロート製薬研究所実施)

試験方法:
未処理の毛髪とヒアルロン酸カリウムを処理した毛髪に、耐候性試験機にて765W/m2、20h照射した。処理したサンプルを用いて引張試験を行い毛髪のヤング率を算出した。(n=10、平均値+標準偏差)(ロート製薬研究所実施)
今回の研究では、日光照射による IF 繊維の顕著な変化は認められなかった一方で、CMC を含む脂質構造に変化が見られた。この結果から、日中の「うねり戻り」には、日光による CMC ダメージと、その後の高湿度環境が関与する可能性が考えられる。
さらに、ヒアルロン酸カリウムは日光による CMC ダメージを防ぎ、高湿度下での「うねり戻り」を抑制することが確認された。同成果は、朝整えた髪のまとまりが日中に崩れてしまう「うねり戻り」に対し、表面を整えるだけでなく、毛髪内部構造に着目して髪のまとまりや質感にアプローチする新たな「質感コントロール」発想につながるものだ。
今回の研究成果は、日光と湿度という日常環境の中で起こる毛髪変化に対し、毛髪内部構造からアプローチする新たな可能性を示すものである。今後は、ヒアルロン酸カリウムを活用した毛髪内部からの「質感コントロール」技術の研究をさらに深め、処方設計や製品開発への応用を目指す。

