寝づらい熱帯夜… 良質な睡眠のための食事・環境・マインドフルネス 睡眠で脳も肉体も効率よく回復させる方法 山下あきこ氏(今村病院神経内科、マインドフルヘルス代表)

 記録的な猛暑で寝づらい夜が続き、快適な睡眠確保に悩んでいる人は多い。大正製薬が本年7月、全国の20代以上の男女1000名にインターネットを通して実施したアンケート調査結果によれば、夏の夜に快眠を得るための手法は、「クーラーをつけっぱなしにする」(519名)、「扇風機をつけっぱなしにする」(304名人)、次いで「照明を真っ暗にする」(235名)、「規則正しい生活を送る」(181名)、「夜遅くに食事をしない」(155名)が上位5項目となった。
 脳神経内科医の山下あきこ氏(医学博士)は、「夏の暑い夜に良質な睡眠を確保するためには、適切な食事、環境を心がけ、リラックス効果のあるルーティンを取り入れる」ことを推奨する。そこで、同氏の、マインドフルネス思考を取り入れた快眠テクニックを紹介したい。

山下氏

◆体内時計とホルモン分泌の正常化の基本、“朝日を浴びる”
 朝日を浴びながらウォーキングなどの軽い運動をすることで、体内時計を整えることができる。特に、太陽が昇りきる前の時間帯、できれば朝9時頃までに窓を開け、朝日を浴びて頂きたい。朝15分くらいの日光浴をするのがもっとも理想的なので、涼しい時間帯の散歩も推奨される。

◆良質な睡眠のための食べ方と栄養
 良質な睡眠のためには、意識的に特定の栄養素の摂取や、サプリメントの摂取も有効な場合がある。

◆食事のタイミング
 朝、たんぱく質をたっぷり摂ることで、夜のメラトニン生成が促進されると考えられる。夕食は軽めにして、お腹いっぱい食べるのは避けるのが得策である。脂質の多い食事も夜は避けよう。睡眠時に胃腸に負担がかかり、睡眠の質を下げてしまう。

◆寝る前に、飲むといいもの・悪いもの
 寝る前にはカフェインを含む飲み物を避けよう。ただし、カフェインを含むものでも玉露の緑茶はカフェインの覚醒効果を打ち消すテアニンを含むため、適量ならば睡眠を妨げないと言われている。温かいノンカフェインのハーブティーなどはお薦めで、冷たい飲料は胃腸の負担になるので避けよう。
 アルコールは、一時的に眠気を誘発するので眠るために飲んでしまうという人もいるようだが、深い睡眠を妨げるため、寝酒は避けよう。アルコールは睡眠の質を低下させ、夜中に覚醒しやすくなる。

◆睡眠の質の向上に有効な栄養素・成分
 脳の疲労回復を促進するグリシン
 グリシンは、血管を拡張し体温を調節することで、睡眠を促してくれる効果があるといわれている。特に、脳疲労の回復のキー成分の1つである。不足すると不眠の原因になる可能性がある。グリシンを多く含む食品は、エビ、カニ、ホタテ、牛すじ、鶏軟骨、豚足などである。グリシンは、実はコンビニのおにぎりにも保存料として使われることがある。
また、脳の疲労回復とは、睡眠の質の向上を意味する。

◆肉体の疲労回復を促進するタウリン
 グリシンに加え、タウリンの摂取によって肉体の疲労回復の効率が向上することが期待できる。タウリンは、筋肉の回復を助け、疲労を解消する可能性がわかっている栄養素で、2024年3月には、国立長寿医療研究センターと北翔大学、大正製薬が共同で行った研究で、40歳以上を対象に8年間の体力変化とタウリン推定摂取量の関係を評価したところ、タウリン推定摂取量が多い人ほど脚の筋力を維持しているという研究結果も発表されている。
 そのほか、肝機能の改善など、内臓の疲労回復もサポートすることがわかっている。タウリン摂取により、睡眠中の全身の回復が促進されると考えられる。睡眠で疲れが取れない場合には、タウリンを含む魚介類(特にイカやタコなど)を積極的に摂ることもお薦めである。
 睡眠の質を改善するサプリメントには、グリシンを主成分とするものが多いが、脳や神経を休めることに役立つと言われるグリシンのみでなく、筋肉などの臓器の細胞に作用するタウリンも併せて配合されているものの方が、脳と身体への相互の相乗的なアプローチが期待できる。

◆興奮した神経を落ち着かせるGABA:
 GABAはγ-アミノ酪酸というアミノ酸の一種で、もともと哺乳類の脳や脊髄に存在し、神経伝達物質としての役割を果たしている。活動時に優位になる交感神経を抑制する働きがあり、心理的なストレスを和らげてスムーズな眠りを促します。穀物や野菜、果物に多く、例えば発芽玄米やお茶、カカオ、トマト、キムチなどに多く含まれる。

◆神経伝達物質を作るタンパク質
 肉や野菜、大豆などから摂取できるタンパク質は、神経伝達物質を作る重要な栄養素である。タンパク質を構成する成分のうち、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニンなどの必須アミノ酸は神経活動の伝達に必要不可欠な神経伝達物質を作る。
 トリプトファンは、セロトニンの材料となる成分。セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンの分泌の調整をしており、不足すると抑うつ状態や不安障害になりやすく、不眠などの睡眠障害との関連が示唆されている。トリプトファンは乳製品や大豆製品、魚類、ナッツ類、バナナや卵、小麦胚芽などに多く含まれる。

◆セロトニンの合成に不可欠なビタミンB6
 セロトニンの合成には、トリプトファンと合わせてビタミンB6も必要となる。ビタミンB6は玄米や牛・豚・鶏レバー、魚の赤身に多く含まれる。

◆脳神経の正常な働きを助けてくれるビタミンB12
 快眠を得るには、自律神経を安定させる必要があるが、そのために欠かせないのが脳神経の正常な働きだ。ビタミンB12はその働きをサポートする。ビタミンB12はシジミや赤貝などの貝類や牛・豚・鶏レバーなどに多く含まれる。

◆ドーパミンを作るのに必須といわれる鉄
 神経伝達物質の一つであるドーパミンは、主に筋肉に分布しており、快活さや元気さをもたらす。ドーパミンがしっかり分泌され、日中に元気に活動していれば、夜になるにつれて眠気がやってきて、自然に眠りにつくことができる。ドーパミンはフェニルアラニンやチロシンという成分から合成され、その過程で鉄が使われる。
 鉄は、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類に分かれるが、ヘム鉄は牛・豚・鶏レバーや牛肉、赤貝、マイワシ、カツオ、マグロなどに多く含まれ、非ヘム鉄はレンズ豆や納豆、枝豆、小松菜、ひじき、厚揚げ、サラダ菜などに多く含まれる。

◆ラクチュコピクリン:
 レタスに含まれる成分であるラクチュコピクリンには、睡眠を促進する効果があることがわかっている。特に、夜にレタスを食べると、寝付きが良くなる効果が期待できる。誰もが知るイギリスの有名なウサギのキャラクターの物語で「畑でレタスを食べたら眠ってしまった」というくだりがあるが、実はこれもラクチュコピクリンの効果かもしれない!?

◆サプリメントや漢方で摂れるシゴカ
 「シゴカ」とは、エゾコウギという植物の根茎の部分を使った生薬である。シゴカの主要な活性成分であるエレウテロサイドは、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを低下させ、身体の自然なリラクゼーションを促進する。これにより、入眠が容易になり、深い睡眠が促進される。

◆ストレスを軽減し胃腸に負担をかけない「マインドフルネスイーティング」
 ストレスを軽減し胃腸に負担をかけない食べ方としてお薦めなのが「マインドフルネスイーティング」と呼ばれる食べ物を使った瞑想です。食事中にスマートフォンを見たり、考えごとをしたりするのはいったん休止して、食べることに集中してみよう。アメリカでは、肥満や糖尿病の治療にも役立てられている。
 ここでは、タウリンやたんぱく質といった快眠におすすめの栄養素が豊富な魚のお刺身を例にやり方を説明する。お腹を意識して今の空腹度を確認したら、「目→手→香り→舌→喉→口の動き→耳→心→ストーリーを思い描く→自由に味わう」の順に意識を移していく。
 まずは、今日、「自分は初めて魚を食べることになった」という状況を想像し、お刺身の見た目はどんな印象かを目で確認。そしてお刺身を箸でつまみ、重みや感触、香りを感じたら、「ツヤツヤだぁ」とか、「脂が美味しそう」など、浮かんでくる感覚を頭で言葉にする。
 始めは醤油など何もつけずにそのままの味を感じると良い。一口目はお刺身を舌にのせて噛まずに味わい、舌である程度、柔らかくしたら飲み込んで喉で感じる。硬くて飲み込めない場合は無理をせず、少量ずつにしよう。
 醤油をつけてみて二口目を口に運んだら、お刺身を上下の歯で噛んですりつぶす動きを感じ、口の中の動きからくるもぐもぐ、ごくりなどの音を聞く。食べながら自分の感じる思い、美味しい、新鮮、もっと食べたい、好き、苦手、満腹などの感覚や思考が湧き上がってくるのに気づこう。
 次に、そのお刺身の魚のストーリーを思い描く。例えば、広大な海で漁師さんが網にかかった魚を引っ張って水揚げし、仕分けしている様子、箱いっぱいの氷の上の活きの良い魚、その箱を漁師さんが市場まで運ぶ姿。最近は漁獲量が減っており、魚はますます貴重な食糧である。我々は、いつでもスーパーに行けば新鮮な魚を買って食べることができるが、それは当たり前ではなく、とてもありがたいことだ。漁師さんの努力や、健康な体があることへの感謝の気持ちを持って魚を味わってみよう。
 三口目では自由に好きなように、五感をフルに使って、香りや味、音、口の中の感覚、浮かんでくる思いなどを感じて頂きたい。食べ物や自分自身に意識をしっかり向けて味わうことを楽もう。そして2、3回呼吸をしながら余韻を味わい、食べる瞑想は終了である。

◆睡眠環境の整え方
 睡眠環境を整えることも、質の高い睡眠に不可欠だ。以下のポイントに注意して、快適な睡眠環境を作ろう。

【室温と湿度】
 夏の夜には、室温を16〜25度に保つことが理想的である。また、湿度は40〜70%の範囲で管理するのがお薦め。湿度が高すぎると不快感を引き起こし、自律神経が乱れやすくなる。

【寝具の選び方】
 寝具は、自分が触り心地が良いと感じる、リラックスできる素材を選ぼう。リネンやコットン製のシーツなど、汗を吸収しやすい素材が適している。シルクは天然素材だが、吸湿性が低くべたつきやすいのであまりおすすめはできない。色に関しては、薄い青色がリラックス効果が高い。

【照明】
 部屋を完全に暗くするほうが理想的な眠りを得られると考えられる。脳波はわずかな光でも影響を受けるため、真っ暗な環境で眠ることで、アルファ波が促進されるためである。

【香り】
 ラベンダーなどのリラックス効果のある香りを使うと、脳波が安定し、良質な睡眠が得られる。自分が好きな香りを選ぶこともポイントである。

◆良質な睡眠を得るための、マインドフルネス思考の睡眠前ルーティン
 マインドフルネスのメソッドを取り入れた、睡眠前におすすめのルーティンを解説する。入浴は、40度のぬるめの湯で、就寝の2時間前がおすすめだ。就寝時に自然に深部体温が下がり、眠りに入りやすくなる。熱いお湯の湯舟に浸かるのは避けよう。寝る直前に感情が高ぶると脳が覚醒してしまい、眠りが浅くなる。寝る1時間前からは静かに過ごし、リラックスする時間を持つことが重要である。パソコンやスマートフォンのブルーライトは脳を覚醒させてしまうので、電灯の下で日記を書いたり、家族と穏やかに話をするといった過ごし方がお薦めである。
 ふとんの中に入ってからぜひ実践してほしいのが、マインドフルネスに通じる、ボディースキャンと呼吸法だ。ボディースキャンとは、身体の感覚に意識を向ける瞑想のこと。CTスキャンで調べるかのように、自分の意識で身体をスキャンしていくのです。眠る前10分くらいの時間をかけて行う。身体のどの部分に緊張があるかに気付いて、そこをリラックスさせてあげることで、疲労の取れる効率的な睡眠を得る一助となるはずである。
 目を閉じて、呼吸に集中してゆっくり息をして頂きたい。ゆっくり吐き出すことに留意をしてみてほしい。二酸化炭素をゆっくり排出することで体内の二酸化炭素濃度が一定に保たれ、リラックスに繋がる。
 その後、左足の親指に意識を向ける。次に人差し指、中指、とそれぞれの指に意識を向けていく。そして、土踏まず、踵、足首へと意識するところを上げていく。吸った息が口から左の足先へと流れていくようにイメージしてみよう。さらに、ゆっくりと上の方へと意識が戻ってくるように、それぞれの足の部位に意識を向けてみよう。ふくらはぎ、すね、膝、太もも、骨盤まで来たら、今度は右足の親指に意識を移動させ、左足同様、意識を爪先から骨盤に向かってゆっくりと移動させていく。
 その後、おへその少し下のあたりに意識を向けて、呼吸とともにお腹が上下するのを感じてほしい。そのまま少し上のほうに意識を上げ、背中が布団に当たっているところを感じる。
 続いて、身体の中にある肺や心臓に意識を向けて、肩に意識を向ける。そこから、手のひら、前腕、上腕、肩、首、喉へと意識するところを上げていき、顔の口、鼻、目、耳、そして頭のてっぺんを意識する。頭のてっぺんにぽっかりと穴があき、息を吸うとそこからエネルギーが入り、吐くときは両足先から入ってきて頭のてっぺんから抜けていくようなイメージをしてみる。
 規則的な生活と神経も身体も緩ませ、メンテナンスしてあげる意識が、睡眠の質改善につながる。ぜひ実践して頂きたい。
  

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