「菌がうつる」代表事例や腸活ポイント解説 大野博司理化学研究所 生命医科学研究センター 粘膜システム研究チーム チームリーダー

ドアノブを介しても腸内環境が変化

大野氏

 旅行先や寮生活などの生活環境が変化した時、おなかの調子を崩した、もしくは変わったなと感じた経験の持ち主は少なくない。こうした体験は、腸内細菌が関係している可能性がある。大野博司理化学研究所 生命医科学研究センター 粘膜システム研究チーム チームリーダーは、「腸内細菌はヒトにうつる」と指摘する。そこで、大正製薬は、大野氏による「菌がうつる」事例についての解説を紹介した。大野氏は、菌がうつる代表的な事例として次の3項目を挙げている。

① 赤ちゃんは母親のおなかの中にいるときは無菌の状態であるが、生まれる際、産道を通る中で母親の菌に触れて出てくる。そのため、赤ちゃんは母親と共通の腸内細菌であることが多い。

② 子どもと両親が一緒のお風呂に入る家族の方が、別々に入浴する家族よりも共通の腸内細菌が多いという報告がある。

③ 寮生活で同じ部屋に暮らすようになったことで、ドアノブなどの共有物を介して菌がうつり、ルームメイトたちの腸内環境が似てきたという報告もある。 

 腸には約1000種40兆個以上もの腸内細菌が生息し、健康維持に重要な役目を果たしている。ただ、どんなに気を付けていても、食べる食事で腸内環境は変化し、生活環境が変わることで菌はうつり変わっていく。ちょっとした生活の変化で変わってしまうからこそ、日頃から大崩れしない腸内環境をつくることが重要だ。そのために心掛けたいのが、日々の「腸活」である。
 「腸内に定着し分裂を繰り返す腸内細菌がある一方、定着できない菌は通過していくだけなので、2~3日で腸からいなくなる。そこで『ビフィズス菌』や『乳酸菌』などの有用な菌、さらにはそれらのエサとなる水溶性食物繊維を毎日継続して摂取し、善玉菌が優位な腸内環境を保ってあげることが重要だ。
 そうすることで、体にいい働きをしてくれるとされている「短鎖脂肪酸」をこれらの菌が産生し続けてくれる。重要な「腸活」のポイント、そして腸内にいる「菌」の働きについてまとめた。   
【ステップ① 「腸活」に大切な善玉菌~「乳酸菌」「ビフィズス菌」を摂る!】 善玉菌の代表格といわれている「乳酸菌」や「ビフィズス菌」。腸内で悪玉菌の侵入や増殖を防ぐほか、腸の運動を促すことによって、おなかの調子を整える。チーズ、キムチ、ぬか漬け、納豆、ヨーグルト、整腸剤などに多く含まれている。毎日の摂取を心掛けよう。

【ステップ② 善玉菌のエサになる「水溶性食物繊維」を摂る!】
 たんぱく質や脂質、炭水化物などは、消化管の中で消化酵素によって分解 され、小腸から体内に吸収されるため、善玉菌のエサになりにくい傾向にある。
 一方、食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されている。消化されずに大腸まで届くため、「ビフィズス菌」などの腸内細菌のエサになり、人体に良い影響を与える「短鎖脂肪酸」を産生する。
 食物繊維には、「水溶性」と「不溶性」の 2 種類がある。どちらも腸内環境を整える働きがあるが、特に善玉菌が好むのが「水溶性食物繊維」だ。もち麦や大麦、根菜類やきのこ類、海藻類、納豆、ごぼうなどの摂取がおすすめである。

【ステップ③ 腸内細菌が生み出す「代謝産物」=「短鎖脂肪酸」を増やす!】
 近年、腸内細菌は、細菌そのものだけでなく、生成される代謝物も健康に影響を与えるということが分かってきた。「乳酸菌」は小腸に、「ビフィズス菌」は大腸にすみつき、代謝産物を生成する。この代謝産物が腸内環境を整えるのに重要な役割を担う。
 中でも最近注目されるのが「短鎖脂肪酸」である。「短鎖脂肪酸」は「ビフィズス菌」などの腸内細菌が、食物繊維やオリゴ糖などをエサとして食べることで産生される「代謝産物」の一つだ。
 「短鎖脂肪酸」にはいくつかの種類があるが、中でも代表格は「酢酸(さくさん)」「酪酸」「プロピオン酸」の 3 つで、その中でも最も多く産生されるのが、「ビフィズス菌」などから産生される「酢酸」である。

【短鎖脂肪酸」の 1 種「酢酸」が免疫システムをパワーアップ!】
 我々の周りには、数多くのウイルスや細菌などの異物が存在する。私たちの身体には、体内に入ってきたそれらの異物を排除するために働く免疫システムがある。
 そのひとつが免疫グロブリンだ。抗体の機能を持っているタンパク質の総称で、 IgA、IgGなど大きく5種類に分類される。中でもIgAは、全身の 60%以上が腸管に存在していて、腸粘膜の表⾯でウイルスや細菌などの病原体の毒素を中和し、体内への侵入を防いでくれる。
 短鎖脂肪酸の一種である「酢酸」は、その IgA の働きを助け、大腸へ病原体が侵入するのを防いでいる。つまり、「酢酸」によって免疫システムがパワーUP される。
 健康な人の腸内では、腸内細菌が十分な量の「短鎖脂肪酸」を産出している。だが、病気になったり、体調を崩したりすると、腸内環境が乱れて、「短鎖脂肪酸」の産生量が減少することがある。腸内環境を元気にして、「短鎖脂肪酸」をつくるためには、善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌と、そのエサになる水溶性食物繊維やオリゴ糖を一緒に摂ることが重要だ。腸内細菌のバランスが良くなり、「短鎖脂肪酸」を増やすことができる。
 腸内環境が崩れる理由は人それぞれ。食べ過ぎや飲み過ぎなど 明らかな要因もあれば、カフェオレを飲むとおなかが緩くなるなど、食習慣から初めて分かる場合もある。
 おなかの調子が悪かった日に何を食べたか、何が起こったかなど「腸活日記」に簡単に書き留めておくだけで、自分の腸内環境が何に弱いのかを気づくことができ、腸活対策に有効である。
 腸内環境は乱れやすいもの。大崩れしないよう日頃から善玉菌の摂取はもちろん、腸によいとされる食事を心掛けよう。腸内環境を整えて、「短鎖脂肪酸」を絶やさずつくり続けることが、免疫細胞のバランス調整につながり、健康を維持する鍵になると言えそうだ。
【乳酸菌」と「ビフィズス菌」の役割について】

「乳酸菌」・・・アシドフィルス菌、フェーカリス菌など
 主に小腸にすみつく。腸内で「乳酸」をつくり、腸内環境を酸性にし、悪玉菌の増殖と腐敗を抑える。腸の働きをサポートして排便を促す。

<アシドフィルス菌>
 乳酸菌の中でも特に乳酸を多くつくる能力に優れ、有害物質をつくる悪玉菌の増殖を抑える。

<フェーカリス菌>
 腸内で速やかに増殖し、腸内フローラを整える。他の菌に⽐べて特に増殖スピードが優れている。また、ビフィズス菌やアシドフィルス菌など他の善玉菌の増殖をサポートする。

「ビフィズス菌」・・・ビフィダム菌、ロンガム菌など大腸にすみつく。腸内で「乳酸」に加えて「酢酸」の2種類を作り出し、悪玉菌の増殖を抑制する。

<ビフィダム菌>
 ビフィズス菌の中でも定着性に優れた菌種で、ビフィズス菌の代表。一部のビフィダム菌では、コレステロール値の低下作⽤や花粉症などのアレルギーへ良い影響を与えることが報告されている。

<ロンガム菌>
 乳幼児から高齢者まで、幅広い年齢層の腸内で見つけやすい菌。家族間で伝播するともいわれている。整腸作用に加えて、免疫力アップや感染防御など健康維持を助ける菌として期待されている。

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