軽度認知機能障害の画像診断や認知症予防を見据えた糖尿病治療などについて報告  第21回日本抗加齢医学会総会

 第21回日本抗加齢医学会総会(会長:内藤裕二京都府立医科大学教授)は、「何でものみこむアンチエイジング-京都から世界へ-」をメインテーマに25~27日の3日間、京都国際会議場で開催され、日本の現状課題を整理し、抗加齢医学の未来に向けたメッセージが発信された。
 その中で、超高齢社会におけるアンチエイジングドックに対する提言として「高齢者健康のゴールは要介護認定者の減少とそのための要支援認定者の減少」、「メタボ(生活習慣)は可避で、今後は一見可避に見える加齢現象への介入が不可欠」の2点が強調された。
 また、加齢現象への対応の具体策として、「認知症対策」、「動脈硬化対策」、「サルコペニア・ロコモ・フレイル対策」、「ホルモン不均衡対策」を列挙。認知症対策では、認知症予防を考慮した糖尿病治療について報告され、「中年期から適切な血糖や動脈硬化危険因子の管理、運動、栄養、社会面での多因子介入を実施する」重要性が強調された。

 厚労省の健康意識に関する調査で、「健康が犯される」要因として、「生活習慣病を引き起こす生活習慣」、「インフルエンザなどの感染症」、「加齢や遺伝」、「精神病を引き起こすようなストレス」、「花粉症、アトピーなどのアレルギー」、「災害や交通事故といった不慮の事故」などが挙げられている。
 一方、要介護の要因は、「認知症」、「脳血管疾患」「高齢による衰弱」、「骨折・転倒」となっており、こうした要因の予防が、要介護認定者や要支援認定者の減少に繋がると考えられている。
 こうした中、伊賀瀬圭二氏(愛媛大学医学部脳神経先端医学講座)は、3T MRIを用いた軽度認知機能障害(MCI)の画像診断の有用性を紹介した。
 認知症は、早期診断が重要で、特に前段階であるMCIでの発見が治療に直結する。伊賀瀬氏らは、MCIの画像診断として、脳萎縮の判定に利用されるVSRADを用いて早期にMCIの診断が可能かどうかの検討を、2018年5月から2020年4月までの2年間、物忘れを主訴に来院し、MCIの補助診断ツールであるミレニア社の「あたまの健康チェック」を施行できた91例を対象に実施した。
 具体的には、導出されるMPIを用いて、MCIの閾値であるMPI50.2以上を正常群(N群)、閾値以下をMCI群(M群)として分類。3T MRIは、Discovery750wを使用し、VSRADソフトウエアを用いて、萎縮度の指標となるz-SCOREを算出し、比較検討した。
 その結果、MPI閾値で分類すると、N群33例(36%)、M群58例(64%)であった。単変量解析で、M群は有意に高齢、低い教育歴、z-SCORE高値を示した。年齢、教育歴を補正した相関では、MPIはz-SCOREと有意な負の相関(r=-0.50;p<0.001)を示した。ROC解析では、MCI判定におけるz-SCOREのcut off値は1.19であった。
 これらの結果から、VSRADのz-SCOREを用いることでMCIを早期に画像診断できる可能性が示され、今後の認知症治療への応用が期待されている。
 また、高齢化とともに、認知症を合併した糖尿病患者の増加が大きな社会問題となっている。糖尿病患者は、認知機能障害や認知症を起こしやすく、アルツハイマー病は約1.5倍、血管性認知症は約2.5倍のリスクがある。糖尿病では、記憶、遂行機能、注意力、視空間認知などの領域の認知機能が障害されやすく、注射や服薬などのセルフケアの障害に繋がっている。
 荒木厚氏(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)は、認知症の観点から糖尿病治療のあり方について講演。「認知症とフレイルは、適切な血糖コントロール、動脈硬化危険因子の治療、レジスタンス運動を含む身体活動、栄養サポート、社会参加などの共通の対策を立てる重要性」を訴えかけた。
 また、薬物治療に関しては、「メトホルミン、DPP-4阻害剤、チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などが認知機能に好影響をもたらす」との報告もあるが、一致した見解は得られていない。
 荒木氏は、「少なくとも未治療とならず、糖尿病薬剤できちんと治療することが予防において重要である」と断言。
 その上で、「糖尿病における認知症の予防には、中年期から適切な血糖や動脈硬化危険因子の管理、運動、栄養、社会面での多因子介入が不可欠である」と訴えかけた。

DHEAの適切な利用で加齢による様々な症状を改善

 デヒドロエピアンドステロン(DHEA)分泌は、加齢とともに漸減低下するため、安定型DHEA-sはホルモン年齢の指標として利用されている。DHEAの分泌低下は免疫力の低下、心身ストレス抵抗力の低下に関与するとともに、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、骨粗鬆症などの発症・進展との関連が示唆されている。DHEAの作用機序については不明な点が多く、動物実験や臨床研究においても明確な結論が得られていない。

米井氏


 そこで、米井嘉一氏(同志社大学生命科学部アンチエイジングリサーチセンター、糖化ストレス研究センター)らのグループは、日本鋼管病院アンチエイジングドックを受診した665例(男252例、女413例、56.2±3.2歳)を対象にDHEA-s値を切り口にデータ解析を行った。
 ホルモン(DHEA-s、IGF-1、cortisol[Cor]、estoradiol[E2]、insulin[IRI])の年齢推移は単純ではなく、相関係数は決して高くない。各年代でDHEA-s低値者が観察された。
 年齢と最も相関が強かったのは、Cor/DHEA-s比であった(女性r=0.41)。この値は、ストレスにより増加するため、心身ストレス指標として利用している。
 糖代謝との関連をみると、DHEA-s低値者(1200mg/dl未満)では、FBS、HbA1c、IRI、HOMA-R高値を示す頻度が高かった。
 DHEA低分泌が原因でインスリン抵抗性が上昇した例では、DHEA補充により抵抗性は改善する。とはいえ、インスリン抵抗性が全て改善するわけではない。
 閉経後女性の大部分でE2は検出されない(10pg/ml未満)。E2検出者では、DHEA-s高値者が多いのではないかと仮説を抱いている。その根拠は、DHEA補充によりE2が検出できるようになるからだ。
 米井氏は、「加齢に伴う退行性変化の一部は、DHEA分泌低下に起因しており、それは低DEHA症候群と呼ぶべきであろう」と明言。
 さらに、「低DHEA症候群の症状は多彩で、DHEA処方により心の疾患や血管の緊張、骨密度低下などの症状を改善する可能性がある。だが、臨床データはまとめ難く、論文になり難い」と指摘し、「DHEAについて知識を深め、症例ごとに丁寧に向き合い、適切に利用する必要がある」と呼びかけた。

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