世界初のリストバンド型生体センサによる脳内アミロイドベータ蓄積予測モデル開発 大分大学とエーザイ

 大分大学とエーザイは26日、世界で初めてリストバンド型生体センサを用いた脳内のアミロイドベータ(Aβ)蓄積を予測する機械学習モデルを開発したと発表した。
 同モデルにより、普段の生活において生体データと生活データを収集するだけでアルツハイマー病(AD)の重要な病理である脳内Aβの蓄積に関するスクリーニングが可能になると期待される。
 なお、この成果は2023年12月12日に査読付学術専門誌であるAlzheimer’s Research & Therapy誌オンライン版に掲載された。
 認知症の原因の6割強を占めると言われているADでは、発症の約20年前からAβが脳に溜まり始めるとされている。このため、Aβを標的とした新たな治療薬の開発が進められ、国内においてヒト化抗ヒト可溶性アミロイドβ凝集体モノクローナル抗体が承認された。この治療効果を最大限に引き出すには、発症前の軽度認知障害において脳内のAβ蓄積を検出することが鍵となる。
 現在、脳内のAβ蓄積は陽電子放出断層撮影(アミロイドPET)や脳脊髄液検査(CSF検査)で検出することができるが、実施できる施設が限られており、高額な検査費用や身体への侵襲性などが課題とされている。従って、アミロイドPETやCSF検査が必要な方を安価で簡便に識別するスクリーニング法の開発が求められている。
 ADの危険因子としては、運動不足、社会的孤立、睡眠障害などの生活習慣や、高血圧、糖尿病、心血管疾患などの疾患が知られている。だが、これまでに認知機能検査、血液検査、脳画像検査を用いた脳内Aβ蓄積を予測する機械学習モデルの報告しかされておらず、「生体データ」や「生活データ」に着目した初めての研究となる。
 同研究では、リストバンド型生体センサによる身体活動、睡眠、脈拍などの「生体データ」と、問診による家族との同居、就労、外出頻度、移動手段、地域活動への参加などの「生活データ」に年齢、教育歴、飲酒歴、既往歴(高血圧、脳卒中、糖尿病、心疾患、甲状腺疾患)などの「当事者背景」を組み合わせて脳内のアミロイドPET検査による陽性者を予測する機械学習モデルを構築し、その性能を評価した。
 その結果、「生体データ」、「生活データ」、「当事者背景」による予測モデルの評価指標であるArea Under the Curve(AUC)は0.79であり、スクリーニングに適した性能と評価された。
 今回開発した機械学習モデルは、簡便に利用できる非侵襲的な変数を使用して脳内のAβ蓄積を予測できる。このため、アミロイドPETやCSF検査へのアクセスが難しい地域在住者の事前スクリーニングとして広く利用でき、当事者の費用および身体的負担を軽減するとともに、臨床試験の費用の軽減に繋がるものと期待される。
 超高齢化社会を迎えた我が国においては65歳以上の認知症患者数は増加傾向にあり、認知症の原因で最も頻度の高いADに対する新たな治療薬の開発は喫緊の課題となっている。
 運動不足、社会的孤立、睡眠障害などの生活習慣や高血圧、糖尿病、心血管疾患などの病気はADの危険因子として知られている。近年、Aβを標的とした薬剤の開発が進み、本年、国内においてヒト化抗ヒト可溶性アミロイドβ凝集体モノクローナル抗体が承認された。
 この治療効果を最大限に引き出すには、発症前の軽度認知障害において脳内Aβが蓄積した可能性の高い個人を特定することが重要となる。
 これまでに認知機能検査、血液検査、脳画像検査を用いて脳内のAβ蓄積を予測する機械学習モデルは報告されているが、生体データや生活データに着目した研究はない。同研究は、リストバンド型生体センサを用いて収集した活動、睡眠、発話、心拍などの「生体データ」と問診による「生活データ」を用いてアミロイドPET検査陽性者を予測する機械学習モデルを世界で初めて構築する試みである。
 リストバンド型生体センサによる脳内アミロイドベータ蓄積予測モデル開発では、2015年8月から2019年9月まで大分県臼杵市で実施した地域在住の認知症ではない65歳以上の高齢者を対象とした前向きコホート研究のデータが利用された。
 軽度認知障害または主観的な記憶障害のある122人(男性54人、女性68人、年齢中央値75.50歳)がリストバンド型生体センサを3カ月ごとに約7日間装着し、問診による生活データの収集、アミロイドPET検査(年1回)を3年間施行した。
 リストバンド型生体センサによる身体活動、睡眠、脈拍などの「生体データ」と、問診による家族との同居、就労、外出頻度、移動手段、地域活動への参加などの「生活データ」に、年齢、教育歴、飲酒歴、既往歴(高血圧、脳卒中、糖尿病、心疾患、甲状腺疾患)などの当事者背景を組み合わせて、サポートベクターマシン、Elastic Net、ロジスティック回帰の3つの機械学習技術を用いて予測モデルを構築し、その性能を評価した。
 例えば、Elastic Netを用いたリストバンド型生体センサによる「生体データ」から構築した予測モデルのAUCは0.70であったが、「生活データ」と「当事者背景」を追加して構築した予測モデルのAUCは0.79と性能が向上した。
 リストバンド型生体センサを用いて収集した活動、睡眠、発話、心拍などの「生体データ」と、問診による「生活データ」および「当事者背景」を用いた、脳内のAβ蓄積を予測する機械学習モデルの構築は世界で初めてとなる。
 さらに、Aβ蓄積の予測に寄与する複数の因子を最先端のアルゴリズムで特定し、3つの機械学習技術で共通した22個の因子を見出した。具体的には、身体活動、睡眠、心拍数、会話量、年齢、教育期間、子どもとの同居の有無、移動手段、病院への付き添いの有無、コミュニケーションの頻度、外出の回数などが特定されている。

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