医療従事者が現在の医療提供モデルに警鐘 「EYヘルスケアのグローバルボイス2023」調査結果公表

 EYは、医療従事者に関する新しい調査「EYヘルスケアのグローバルボイス2023」の結果を発表した。
 同調査は、日本を含む米国、オーストラリア、カナダ、ドイツ、英国など11カ国の医療従事者(医師および看護師など)、および医療機関の経営者を対象に行われた100件以上の緻密なインタビューに基づいたもの。
 同調査は、最前線に立つ医療従事者のペインポイント(悩みの種)、および世界中で医療従事者の不足を招いている要因を理解し、医療従事者をこれまで以上に惹き付け、職場に留まれるようにするためには、医療機関はどのように医療提供モデルを変化させていくべきかを理解することを目的としている。調査結果のポイントは、次の通り。

①医療従事者の42%が医療現場を離れる理由のトップに挙げているのが、自由度またはコントロール度の欠如

②医療従事者はデータ収集に追われていると感じているが、彼らも患者もデータ収集にメリットがあると考えていない

③医療従事者の40%が、医療提供モデルを改善するためには、より優れた予防医療が不可欠と回答

 「EYヘルスケアのグローバルボイス2023」調査では、医療従事者は、自身のQOLを犠牲にすることなく、患者を最優先にできる医療提供モデルを求めていることが明らかになった。
 医療従事者が臨床現場を離れようとする理由のトップ3は、コントロール度や自由度の欠如(42%)、仕事の負担(38%)、患者の安全への懸念およびモラルインジャリー(良心の呵責障害)(27%)だと回答している。
 また、医療従事者は、自身が安全な医療行為を行い、患者をケアし、彼らの治療目的を実現していると実感するためには、患者1人あたりの診療により長い時間をかける必要があると考えている。 
 同調査では、現在の医療提供モデルは、医療従業者が、これまで何世代にもわたって行われてきたように、長時間の勤務、無給で行われる書類作成や指導の時間、あるいは新人の医師や看護師の研修時間を、今後も続けていくという前提の上に成り立っていることも明らかになった。
 一方、インタビューを受けた医療従事者は、「仕事と私生活のバランスが重要である」という考え方で育ってきた。多くの場合、使命感が原動力とする医療従事者は、患者にとっても自分自身にとっても、より良いアウトカムとエクスペリエンスを希望していることが判明した。

◆Aloha McBride EY Global Healthリーダーのコメント 本調査によると、既存の医療提供モデルは、現代の医療従事者には合わなくなっており、未来の医療従業者にとっても機能しないものとなるだろう。我々は、逆境を乗り越えられるレジリエントな人材戦略を有していないことから生じる大きな代償を目の当たりにしてきた。
 我々に今必要なのは、医療従事者の声に耳を傾けることである。例えば、医療機関が時間を節約するためワークフローを改善する場合、新たに生まれた時間は、医療従事者と患者のエクスペリエンスを最適化するために使われているのだろうか。それとも、より多くの患者を受け入れるために使われているのだろうか。

危機的状況のマンパワー:

 重篤な患者の急増、医療機関の財政状況の悪化、労働コストの高騰への対処を同時に迫られた医療機関の経営者は、労働力不足に対応するため、報酬に焦点を置く傾向が見られた(39%がこの方法を取っていると回答)。
 また、医療従業者が自身の免許が許す範囲で最高の診療を行えるように徹底すること(33%)、教育パイプラインの施策(33%)、健康面の福利厚生(22%)も重視していた。
 だが、医療従業者に医療機関は将来どのように変わる必要があるか質問したところ、彼らが望む変化の上位には、予防医療の拡大、人員配置比率の改善、柔軟性の向上が挙がった。
 医療従業者は、医療関連デジタルツールの使用経験が、おそらくあまりないことを反映してか、医療機関を改善する可能性としてテクノロジーを挙げたのはわずか15%であった。
 一方、医療機関の経営者の47%が、テクノロジーを医療提供モデル修正の鍵と見なしていた。インタビューした医療従業者の多くが、患者1人につき複数のログインが必要なサイロ化されたアプリやプラットフォーム(異なるシステムやソフトウェアが互いに独立して機能し、データや情報の共有や連携が制限されている状態のもの)など、新たに導入された一部のデジタルツールの効率に不満を抱いていた。
 多くの医療従業者は、ベッドわきのタブレットPCや音声認識入力ソフトのほかにも、AI(人工知能)などを好例として挙げ、新しいデジタルツールが役に立つ可能性があると回答していた。
 だが、こうしたツールが恩恵をもたらすためには、「その設計が医療従業者の仕事の現状に即したものになっていなくてはならない」と述べていた。

データは過剰でも得られる洞察は非常に限定的:

 同調査によると、インタビューに応じた医療従事者の中で、自身の管理下にある患者に対するデータ分析がもたらす洞察にアクセスできると回答した人はいなかった。
 一方、同調査に参加した医療機関の経営者のわずか26%が、患者ケアパスウェイ(患者の状態やニーズに応じて、医療チームが提供するケアの手順やプロセス)の作成にデータ分析の洞察を使用していると、30%のみが人員配置の計画とマネジメントの目的で分析を使っていると回答。
 医療従事者は、アクセスできる患者データ量の大きさのあまり、「治療に必要な洞察を引き出せず、また、引き出すために必要なツールが提供されていないことに、時にはフラストレーションを感じている」と回答していた。

バーチャルケアの可能性と仕事の負担:

 同調査によって、医療従事者の大多数(88%)が、オンラインを活用したバーチャルでリモートな医療提供方法に可能性を感じていることが判明した。この方法で患者が最も恩恵を受ける領域としては、半数以上の医療従事者(53%)が、原発性疾患や慢性疾患を挙げており、その次に、遠隔地医療と高齢者医療(16%)が挙がった。
 医師に仕事の負担を軽減する方法について質問したところ、85%が治療タスクを他のチームメンバーに引き継ぎをしたり、事務的業務の負担を軽減するために、自身の仕事の一部をアシスタント、看護師、事務係など他の職種に委任する機会を見出していた。
 だが、看護師の場合、「自身の仕事の一部を他の人に委ねることができる」と考えていたのは、半数のみであった。多くのインタビューで、医師と看護師は、自身の仕事量が減ったとしても、「患者と接する時間が増えることにはつながらない」と回答していた。

◆McBride氏 のコメント 医療機関は、オンラインと対面の診療をシームレスに統合したハイブレット医療モデルを展開し、医療需要の軽減、予防医療の拡大、患者と医療従事者のエクスペリエンス向上を図ることで、継続する人員問題に対応することができる。
 データ分析の洞察は、このモデル転換をさらに発展させ、今の時代および未来の医療従事者にマッチした新しい医療モデルを実現させる出発点となり得る。

◆矢崎弘直EY Japan ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネスリーダーのコメント 長年にわたり、日本の医療提供モデルは世界トップクラスとされてきたが、近年になり多くの問題点も浮かび上がってきた。
 医師の不足・過剰労働問題もそのひとつであり、今回のEYの調査は医療提供サイドの問題意識を浮き彫りにし、今後の体制の方向性を考える上で多くの示唆を与えている。
 今後、医療データに焦点をあてたデジタル技術による新たな医療提供モデルが必要不可欠になるが、そのモデルは患者に焦点をあてることに加え、医療従事者の労働環境の改善も大きな要素となる。
 新たな医療提供モデルへの議論が日本においても高まることを期待している。

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