「企業規模別サポート状況」をストレスチェックデータから算出 ドクタートラスト

一人ひとりの考えの尊重風土や責任ある仕事を与える環境には規模の影響なし

 ドクタートラストのストレスチェック研究所は、2022年度にストレスチェックの実施を受託した41万人のうち、該当する規模の企業に所属するおよそ25万人分のデータを用いて、企業規模別に従業員サポート状況を分析した。
 その結果、規模の小さい企業にくらべ規模の大きい企業のほうが「職を失う恐れがある」では9.9%、「自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている」では4.0%良好傾向にあった。 また、一人ひとりの考えを尊重する風土や、責任のある仕事を与える環境には、規模の影響がないことが判明した。
 ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促し、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定され、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。
 同分析ではストレスチェック受検対象者数に基づいて「従業員数50名未満」「従業員数1000名以上」に企業を区分し、当該企業で実際にストレスチェックを受検された方のデータを集計、分析している。
 今回は、組織サポートに関わる設問に着目し、規模別に組織サポートの違いについて算出が試みられた。
 ストレスチェック項目で「組織サポート」に関する尺度(カッコ内は、ストレスチェックでの設問)は、次の通り。】

(1) 職場環境(私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない)

(2) 経営層との信頼関係(経営層からの情報は信頼できる)

(3) 変化への対応(職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている)

(4) 多様な労働者への対応(職場では、(正規、非正規、アルバイトなど)色々な立場の人が職場の一員として尊重されている)

(5) 個人の尊重性(一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ)

(6) 失敗を認める職場(失敗しても挽回するチャンスがある職場だ)

(7) 成長の機会(仕事で自分の長所をのばす機会がある)

(8) キャリア形成(意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている)

(9) ほめてもらえる職場(努力して仕事をすれば、ほめてもらえる)

(10) 公正な人事評価(人事評価の結果について十分な説明がなされている)

(11) 経済・地位報酬(自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている)

(12) 安定報酬(職を失う恐れがある)

 これらのうち(1)は働く上で土台となる「労働環境」に関わる項目、(2)~(5)は行動やモチベーションに影響を及ぼす「風土・方針」に関わる項目、(6)~(8)は周りからの信頼につながる「責任感・自主性」に関する項目、(9)~(10)は従業員の意欲を引き出す「称賛」に関する項目、(11)~(12)は従業員の安心感に繋がる「賃金・将来性」に関する項目である。
 今回は、組織として従業員に提供する事柄を総称して「組織サポート」と位置づけており、次の結果概要が判明した。

1、 規模の小さい企業(従業員数50名未満)のほうが、作業環境に配慮できている

 ストレスチェックは、各設問に対して「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4択形式で回答する。同分析では「そうだ」「まあそうだ」を良好な回答群、「ややちがう」「ちがう」を不良な回答群として算出している。
 図1は従業員の「労働環境」に関わる設問への回答内訳です。規模の大きい企業にくらべ規模の小さい企業のほうが9.4%良好傾向にあることがわかった。

図1

 内閣府が発表している「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、コロナ流行を背景に、規模の大きい企業では、規模の小さい企業にくらべてオフィス勤務からテレワークに勤務形態をシフトした企業数が多かったものの、感染収束に伴い、テレワーク実施率が一気に下がっていることがわかった。
 一方で規模の小さい企業では、コロナが流行した当初からテレワーク実施率が低く、現在に至るまでも大きく増減していないことから労働環境の変化によるストレス影響が小さかったのではないかと推測される。

2、 規模の大きい企業(従業員数1000名以上)のほうが教育体制や表彰の場が設けられ、その結果、報酬にもつながっている

 図2は、従業員の「スキルアップ」に関わる設問への回答内訳です。規模の小さい企業にくらべ規模の大きい企業のほうが12.8%良好傾向にあり、組織サポートに関わる設問の中で最も差が見られた。

図2

 一般に規模の大きい企業のほうが、選任の教育担当者を社員で設定することもでき、なおかつスケールメリットの観点から、一人当たりの教育研修費用を安価に抑えられるほか、豊富な研修機会を提供できると考えられる。
 実際、産労総合研究所の「2022年度 教育研修費用の実態調査」によると、2021年度における従業員1人あたりにかかる研修予算費用は、規模の小さい企業のほうが高い結果であった。こうした点も大きく差が開いた要因ではないかと考察される。
 規模の小さな企業では、社外研修を取り入れるなど、外部リソースを上手く活用していく必要があるだろう。

 図3、4は、従業員の「意識向上」に関わる設問への回答内訳である。

 規模の小さい企業にくらべ規模の大きい企業のほうが「人事評価の結果について十分な説明がなされている」では4.3%、「努力して仕事をすれば、ほめてもらえる」では4.2%良好傾向にあることがわかった。

図3

図4

 東京商工リサーチの「人手不足」に関するアンケート調査によれば、規模の大きい企業で約8割が人手不足問題を抱えている。特に、規模の大きい企業では優秀な人材を確保するためにも従業員の功績を讃える場を設けること、管理職研修や人事評価制度を強化してきているのではないかと推測される。
 図5、6は従業員の「将来性」に関わる設問への回答内訳である。規模の小さい企業にくらべ規模の大きい企業のほうが「職を失う恐れがある」では9.9%、「自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている」では4.0%良好傾向にあることがわかった。

図5

図6
 倒産やリストラのリスクを考えると、規模の大きい企業にくらべ規模の小さい企業のほうが将来性・安定性へのリスクが高いと推測される。また、一般的に規模の大きい企業のほうが給料水準は高く、規模の小さい企業では管理職との距離が近いがゆえに評価・査定がシビアになりやすいのではないかとも推測される。

3、 規模の大きい企業(従業員数1000名以上)の方が経営層と従業員間の信頼関係が構築されている

 図7は、従業員の「忠誠心」に関わる設問への回答内訳である。規模の大きい企業にくらべ規模の小さい企業のほうが4.6%不良傾向であることがわかった。

図7

 企業規模の小さい企業の特徴として、経営層との距離が近いためにコンセンサスはとりやすい一方で、意思決定の過程などが間近で見えることから、反発が生まれやすい環境とも考えられる。社員との何気ない日頃のコミュニケーションが信頼関係の構築には欠かせないだろう。

4、 風土・方針や責任感は企業規模に影響されない

 図8、9は組織の「風土・方針」、従業員の「責任感」に関わる設問への回答内訳である。この2問同様に、風土や責任感に関する設問である「職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている」、「一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ」、「仕事で自分の長所をのばす機会がある」でも企業規模による回答傾向に差は見られなかった。

図8

図9
 こうした結果を踏まえると、従業員一人ひとりの考えを尊重するのが難しい、自身の成長速度が望ましくない理由として規模の大小を挙げるのは適切ではない。
 また、一番のポイントが「責任のある仕事の有無や自身が成長する機会、従業員の意見を尊重する風土は企業規模に影響されないのにもかかわらず、規模の大きい企業のほうが教育体制は整っていること」である。教育体制が不十分だとノウハウが蓄積されずせっかく責任の大きい仕事を任されてもミスが多発してしまうだろう。

◆総括
 コロナ流行以来、我々の働き方は柔軟になり、自身のキャリアを見つめなおす時間が増えることで転職へのハードルも下がったと感じられる。この影響を受け、社員の離職率はさらに増していくだろう。今回、企業規模別に回答傾向を見ていくことで課題点が浮かび上がってきた。仕事に対するモチベーションや会社への愛着心は人それぞれであり、会社側がすべてを補うことは不可能である。
 だが、今置かれている状況を把握し、「企業が従業員にできるサポートとは何か」を意識し、従業員に対する姿勢や在り方について検討していくことは必要不可欠である。
 その結果、従業員の離職防止につながり、優秀な人材確保、ひいては企業に利益をもたらすだろう。

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