ドクタートラストは、「2022年度 外部相談窓口サービス[アンリ]相談状況レポート」を公表した。同レポートは、2022年4月~2023年3月に当社の外部相談窓口サービス[アンリ]に会員企業の従業員から寄せられた相談を分析したもの。
その結果、「メンタルヘルス、ハラスメントの相談は増加した一方で、新型コロナウイルスに関する相談は激減」、「最も多かった相談内容は‟上司・先輩との関係”」、「増加率が最も大きかった相談内容は‟同僚や部下との関係”」、「LGBTQ、障害者雇用など、相談者属性の多様化が進む」などが浮き彫りになった。
外部相談窓口サービス[アンリ]とは、ドクタートラストが提供する外部窓口サービス・EAPサービスである。ドクタートラストに所属する産業保健師、公認心理師、精神保健福祉士、管理栄養士、保育士が相談員として契約企業の従業員からの相談を受けている。
各ハラスメント防止法令で定められた「相談窓口」としての要件を満たしている。同レポポートの詳細は次の通り。
1、相談内容の内訳~社内の人間関係の相談が大きく増加~
2022年度の全体の相談件数は、2021年度にくらべて増加していた。中でも増加率が大きかったのは「メンタルヘルス(前年比113.2%)」、「ハラスメント(同比119.6%)」であった。
これは2022年4月から規模を問わず全企業のハラスメント対策が義務化、相談窓口の設置が進んだことが要因であると考えられる。
また、内容で大きく変化があったのは、新型コロナに関する相談で、件数は4件(前年比11.1%)と激減していた。
職場にかかわる相談内容で最も多かったのは、2021年度同様に「上司・先輩との関係」であった。
一方、2021年度からの増加率でみると「部下・後輩との関係(前年比170.4%)」と「同僚との関係(同比146.8%)」が大きく伸びていた。部下の勤務態度や同僚の言動など、相談内容は多岐にわたり、上下関係のみではなく、横のつながりにおいても、困惑が生じやすい状況がうかがえる。
実際の相談内容(一部)
<メンタルヘルス>
・ 精神的不調があるが、受診をしたら良いのかわからない
・ 親、友人、同僚で亡くなった人がいる(自殺含む)
・ 在宅勤務で、他者とのコミュニケーションが取れず、業務が上手くいかない
<ハラスメント>
・ 会議など皆の前で上司から叱責される
・ 職場で無視をされる、他者との反応が違う
・ 断続的に男性の同僚から誘われ、困っている(女性の方からのご相談)
<健康>
・ 持病にまつわる相談
・ 月経や更年期障害がつらいが周囲の理解がない
2、相談方法の内訳~その場でアドバイスできる電話が最も多い~
外部相談窓口サービス[アンリ]では、相談方法に「電話」「メール」「WEB(オンライン面談)」の3通りを用意している。相談方法の内訳としては、「電話」57%、「メール」約36%、「WEB」約8%であった。電話での相談を希望する人が多い状況だ。
電話相談のメリットは、その場でご相談者の状況を詳しく聞くことができ、すぐに返答・アドバイスできる点にある。また、声の状態も含めて相談者の様子をうかがえるのも利点に挙げられる。
一方、メール相談のメリットについては、匿名性がより高く、相談者の好きな時間に相談でき、自身のペースで悩みを書きつづるなかで問題整理ができる点が挙げられる。
WEB面談は、リモートワーク環境にいる人、自宅で仕事をしている人、SEの人など、オンライン環境に慣れている人が利用する割合が高い。相談内容としても、オンライン面談は頭脳労働をされている人からの相談が多い傾向がある。
WEBでの相談においては、相談者の表情が直接見れるので、言葉だけでは伝わりにくい感情面を共有しやすい点が特徴である。
3、相談者への対応~およそ130名に医療機関の受診勧奨~
相談者の中には、「死にたい」、「消えたい」などの気持ち(希死念慮)を抱いている人などもいる。このまま労働することがリスクになると考えられる場合は、速やかに企業、産業医との連携を行っている。
2022年度は、129名の人への医療機関の受診勧奨、さらに57名の人に産業医面談を受けるように提案した(すでに医療機関などを受診している人を除く)。
2022年4月から規模を問わず、全企業にハラスメント対策が義務づけられたため、外部相談窓口サービス[アンリ]を開設する企業が大きく増加した。
外部相談窓口サービス[アンリ]では、ハラスメントはもちろん、メンタル、フィジカル、食事、育児などの相談対応も行っている。
ハラスメント分野では、「上司部下間でのハラスメント」といったステレオタイプなものだけではなく、「部下への対応に困っている」、「顧客からのプレッシャーで押しつぶされそう」など、非常に多岐に渡る相談を受けている。
加えて、職場でのダイバーシティ推進の影響もあり、LGBTQ、パート社員、アルバイト、障害者雇用など、さまざまな属性の人からの相談も増えている。
窓口に多様な相談が寄せられるようになったのは、従業員の間で相談窓口がケアとして効果的であると認識が広まっている証左といえる。
一方、従業員の悩み幅が従前にくらべて広がったことを示しているともいえ、企業にとっては課題が増えたものとしても捉えられるだろう。
また、相談を受けていても、メンタル不調発生が多い、ハラスメントの風土が改善しにくいなど、状況に変化が見られない企業では、離職率、休職者率が高止まりしてしまう。
企業にとって労働力の確保は喫緊の課題とされている中、どれだけ従業員のメンテナンスをできるかが、企業競争での勝ち残りにつながるものと考えられる。
なお、今回のレポートの解説及び分析担当者の略歴は次の通り。
◆解説担当:笹井 裕介氏
ドクタートラスト 看護師/精神保健福祉士/公認心理師
大学卒業後、精神保健福祉士として、精神科クリニックで心理相談、生活相談を担当。その後、看護師資格を取得し病院勤務となる。呼吸器内科・腎代謝科で従事し、ターミナル(終末期)や慢性期の患者さんと関わる。病院勤務を通して、予防医学に興味を持ち、株式会社ドクタートラストに入職。
現在は、電話相談窓口でのハラスメント・メンタル・健康相談対応、企業の人事担当者への提案やコンサルティングを行っている。
◆分析担当:福田 築
ドクタートラスト 公認心理師/臨床心理士
大学院卒業後、公認心理師/臨床心理士として、児童精神科や療育機関に勤務する。幼児期から学童期を対象に、プレイセラピーやソーシャルスキルトレーニング、心理検査を担当。発達の多様性に応じられる職場作りに興味を持ち、株式会社ドクタートラストに入職。現在は、電話相談窓口でのカウンセリングを行っている。