医療情報をわかりやすく発信するプロジェクト成果発表シンポ開催 埼玉県立大学

 埼玉県立大学3月16日、「『医学系研究をわかりやすく伝えるための手引き』~手引きの改善と発展~」をテーマとしたシンポジウムをウェビナーで開催した。
 同シンポジウムは、日本医療研究開発機構の令和4年度研究開発推進ネットワーク事業「『医学系研究の成果をわかりやすく発信する手引き』の普及と改善の提案」の成果発表を目的としたもの。当日は、臨床研究支援病院、大学等研究機関、大学病院、患者団体、一般人など約170名が参加した。
 シンポジウムでは、まず山田恵子埼玉県立大学准教授が「事業成果の概要」として、同事業の背景や狙い、2022年度行った事業内容や普及の現状、今後の課題等について報告。続いて4人の登壇者が、それぞれの普及活動の成果報告を行った。シンポジウム後には、「手引きが継続的にアップデートされ、さらなる周知が進むことを期待する」という要望が数多く寄せられた。シンポジウムの内容は次の通り。

◆山田恵子埼玉県立大学 保健医療福祉学部准教授 

山田氏

 「医学系研究をわかりやすく伝えるための手引き」は、医学系研究者側の情報発信を改善し一般の方々の理解が深まることで、医学系研究の一層の発展や国民の健康増進に繋げることを目的としている。そのために幅広い背景を持つメンバーが本プロジェクトに参加し、議論を重ねた上で2021年度に完成させた。
 そこで2022年度は、手引きが現場からのフィードバックを受けて改善することを前提にして作られたことも踏まえ、手引きの普及と改善に取り組んだ。手引きを基にした動画制作やワークショップを行ったほか、2021年度に引き続きコーパスを作成し、どのような言葉が医学系研究者と一般の方との間で誤解を生むのか、等について言語研究の手法を用いた分析を行ったり、最終的な情報の受け手である一般の方々向けにポイントを整理しリーフレットにして公開したりした。
 今後は、手引きで得られる効果の測定やワークショップ方法の確立、SNSでの情報発信状況の把握・比較等について議論を重ねていく必要があるのではないかと考えている。

※コーパス:新聞やTVニュースアーカイブを基にした大規模用語データベース

1)動画及び一般向けリーフレットの作成と今後の展望
東京大学医学部附属病院 企画情報運営部 特任研究員 早川雅代氏

早川氏

 今年度、本プロジェクトではサイエンスコミュニケーションギャップの解決のアプローチとして、講義型の動画と一般の方向けのリーフレットを作成した。リーフレットを作る際には、「医学系研究の情報にレベルがあること」をどのように伝えるかについて多くの議論があった。
 エビデンスと聞くと専門家はエビデンスピラミッドと呼ばれる図を思い浮かべるが、それを限られた紙面で一般の方に伝えるのは難しいことがわった。エビデンスの話でよく問題となるのは、コロナの情報で見られたように、専門家個人の意見や専門家でない人の体験談が広まった点であることから、「情報自体がどこからでているのか」に焦点をあてて図にまとめることにし、一般の方にもわかりやすく伝えられるように工夫した。
 今後の展望として、動画を自己学習として教育機関や研究機関での勉強会での活用や、リーフレットの応用編や発展編を作成することが期待される。

2)大学院教育等で手引きを取り入れていくには
帝京大学大学院 公衆衛生学研究科 研究員、ヘルスライター 小川留奈氏

小川氏

 手引きを用いて、様々なバックグラウンドの大学院生にワークショップ型の授業を行った。読みにくいプレスリリースを手引きのチェックリストを基にグループで改善してもらうという内容で、参加した学生からは「わかりにくい表現を気づかないで使っている可能性に気づけた」「自分は医療職だが、総務部など一般の人に近い感覚を持っている人に文章を確認してもらおうと思った」などの嬉しい反応があった。
 一方で、初回から完成度の高い修正を求めるのは難しいとも感じた。手引きを教材として使う場合、例えばチェックリストの理解をすれば良いのか、それとも理解して活用するまでを求めるのか等、教育目標の設定が重要だと思われる。
 さらに、知識があることでそのわかりにくさに気づけない「知の呪縛」に注意して授業の構成等を考えていくことが必要とも思っている。

3)一般の人と医学系研究者の間の誤解を埋めるための手引き
認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML 理事長 山口育子氏

山口氏

 今回の手引きの改訂にあたって一般の方とのディスカッションを行った。一般の人と医学系研究者の言葉に対するイメージの違いとして、例えば、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という用語は、一般の人にとっては「元の生活に戻れるように努力する」という意味で使われていることが多いと思うが、医療者側は必ずしもそう考えてはおらず、また医療者によってもそのイメージが異なることがあるようだ。
 また、20代で「質のいいこだわった物に囲まれて生活する」ことをQOLが高いと表現している人もいて、年代によって言葉の意味も変化していくのだと痛感した。
 患者への説明文書を読んでいると、非常に難解な用語が羅列されていることが未だに多く、このような用語を見ただけで拒否反応を起こしてしまうということがある。
 また、血管の走行や神経の障害など、日常に使わない表現が使われているのが、研究の現場だと思っている。これらのようなことを研究者の人たちに理解いただいて、患者への説明に活かしていただければと考えている。

4)医学研究用語のよりよい理解に向けて −新聞コーパスとTVニュースアーカイブを用いた分析から−

青山学院大学文学部 准教授 田中 祐輔氏

田中氏

 医学・医療をめぐる言葉の研究や取組について、これまで、高齢化や国際化の流れの中で難解な言葉や不自然なカタカナ語をわかりやすくする必要が指摘され、医療現場における医師と患者とのコミュニケーション上の実態調査などが行われてきた経緯がある。
 現在では、言語的マイノリティへの支援、医学系研究の社会還元等の文脈でも議論が進められ、そうした流れの中に本事業は位置付けることができ、新たな取り組みが展開されている。
 2022年度は、言語調査として、医学系研究の発信に不可欠でありながら誤解を招きやすい用語に着目し、一般的な用いられ方との相違を考察した。具体的には、書き言葉と話し言葉とをバランスよく収集するために新聞データベースとTVニュースアーカイブからコーパスを作成し、文脈や用例の抽出のための解析を行った。
 その結果、各用語がどのようなトピック・文脈で使われているかについて一定程度の解釈可能な結果が得られ、医療用語がどのような文脈や場面、いかなる状況、どのような相手とコミュニケーションでいかに使われているかを示すことができた。
 手引きは、医学系研究の発信や、理解の促進、より豊かで適正なコミュニケーションのための1つの手立てになると考えられる。

井手氏

 続いてのパネルディスカッションでは、井出博生東京大学特任准教授がコーディネーターを務め、「一般の方と医学系研究者の言葉に対する理解の違いはどこにあるのか」「医学系研究者に対する教育の展開方法と効果測定」「理解の違いを埋めるための研究とは」などについて活発な意見交換が行われた。
 特に、「使われる用語やその意味は刻々と変化するので、データに基づく改善を常に加えてゆく必要がある」、「具体的な理解のギャップを示す事例集があると良いのではないか」、さらに、「外国人の人々の増加など情報の受け手の多様化にも即した調査や研究が必要なのではないか」について議論が展開された。

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