MSDは22日、開発中の新規アクチビンシグナル伝達阻害剤(生物学的製剤)のsotaterceptについて、肺動脈性肺高血圧症(PAH、WHO Group 1)成人患者を対象とし、安定した用量で実施中の基礎療法との併用療法を評価したP3相STELLAR試験で良好な結果を得たと発表した。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺小動脈の狭窄と肺循環系の血圧上昇を特徴とする進行性の命に関わる希少疾患である。
PAH患者数は、米国では約4万人。速く進行してしまうケースも多くあり、PAHにより心臓に非常に大きな負担がかかり、身体活動の制約、心不全、平均余命の短縮につながる。PAHの5年死亡率は約43%。
Sotaterceptは、STELLAR試験の主要評価項目であるベースラインから24週時の6分間歩行距離(6MWD)を40.8m延長し、運動耐容能を有意に改善した(95% CI, 27.5-54.1; p<0.001)。
また、副次評価項目においては、WHO機能分類(WHO FC)や肺血管抵抗(PVR)の改善など、9項目中8項目で統計学的に有意で臨床的に意味のある改善が示された。
追跡期間の中央値32.7週間において、臨床的な悪化や死亡のリスクはプラセボと比較して84%低下した(HR=0.16 [95% CI, 0.08-0.35]; p<0.001)。
Sotaterceptの安全性プロファイルは、これまでのsotaterceptの試験で確認された結果と概ね一貫していた。このデータは6日、World Heart Federation’s World Congress of Cardiologyと共同開催されたAmerican College of Cardiologyの第72回Annual Scientific Sessionで発表され、同時にThe New England Journal of Medicineにも掲載された。
PAH成人患者を対象としてアクチビンシグナル伝達阻害剤の基礎療法への追加療法としての有効性を評価する初のP3試験である3STELLAR試験の主な副次評価項目の結果は次のとおり。
◆24週時における複合項目の改善(6MWDの改善、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値の改善、かつ、WHO FCの改善またはWHO FC IIの維持)を示した患者の割合はsotatercept群がプラセボ群より有意に高くなった(それぞれ38.9% [n=63/163]、10.1% [n=16/160]; p<0.001)。
◆24週時におけるPVR(肺動脈圧、肺動脈楔入圧、心拍出量により算出)のベースラインからの変化について、sotatercept群は-234.6 dyn·sec·cm−5(95% CI, -288.4 to -180.8; p<0.001)と、プラセボ群と比較して統計学的に有意な低下が示された。
◆24週時におけるNT-proBNP値のベースラインから変化については、sotatercept群は-441.6(95% CI, -573.5 to -309.6; p<0.001)と、プラセボ群と比較して統計学的に有意な低下が示された。
◆24週時におけるWHO FCの改善および維持を示した患者の割合はsotatercept群がプラセボ群より有意に高くなった。WHO FCが改善した患者の割合はsotatercept群では29.4%(n=48/163)、プラセボ群では13.8%(n=22/160)であった(p<0.001)。
◆臨床的な悪化に関連するイベント(原因を問わない死亡、または死亡に至らない特定の臨床的悪化イベント)はsotatercept群で有意に低くなった。追跡期間の中央値32.7週間においてsotatercept群では163人中9人の患者、プラセボ群では160人中42人の患者に死亡または臨床的悪化イベントが発生した(HR=0.16 [95% CI, 0.08 to 0.35]; p<0.001)。
◆French Riskスコアにおいて低リスクスコア(低リスクの3項目をすべて達成または維持:WHO機能分類IまたはII、6分間歩行距離が440m超、NT-proBNP値が300pg/mL未満)を達成した患者の割合はsotatercept群でプラセボ群より有意に高くなった(それぞれ39.5% [n=64/163]、18.2% [n=29/160]; p<0.001)。
◆PAH-SYMPACTを用いた患者報告アウトカムにおいて、身体的影響の平均スコア(ベースラインからの変化:-0.26 [95% CI, -0.49 to -0.04]; p=0.010)および心肺症状の平均スコア(ベースラインからの変化:-0.13 [95% CI, -0.26 to -0.01]; p=0.028)はsotatercept群でプラセボ群と比較して有意に低下した。
◆PAH-SYMPACTは、疾患特異的な患者報告アウトカム指標である。ドメインスコアは0〜4で、数値が高いほど症状が重いことを示す。
◆PAH-SYMPACTによる認知/感情的影響の平均スコアは、sotatercept群とプラセボ群とで有意差はなかった(p=0.156)。
治験薬投与後の有害事象(TEAE)は、sotatercept群の90.8%、プラセボ群の91.9%の患者に発現し、重度のTEAEはそれぞれ12.9%、18.1%の患者に発現した。プラセボ群よりsotatercept群で発生頻度の高かった有害事象は、出血イベント、毛細血管拡張症、ヘモグロビン値の上昇、血小板減少症、血圧の上昇、浮動性めまいであった。
◆Marius Hoeper治験責任医師(Hannover Medical School、博士)のコメント
PAHは、進行が速く、衰弱を来たし、最終的には命に関わる希少疾患で、5年死亡率は43%である。
Sotaterceptは、主要評価項目の6分間歩行距離のほか、WHO機能分類や肺血管抵抗の改善など複数の副次評価項目において大きな改善を示した。この画期的な結果により、PAHの治療において、sotaterceptの可能性、血管の過剰増殖や病理学的リモデリングに関わる細胞シグナル伝達を標的とする治療の可能性が示された
◆Dean Y. Li MSD研究開発本部プレジデント(博士)のコメント
P3相STELLAR試験の結果は、医師や患者さんにとって非常に重要なもので、sotaterceptがPAH患者さんの運動耐容能をはじめとする意味のある臨床的アウトカムを改善する重要な役割を担いうることが示されている。
基礎療法に加えsotaterceptを投与した患者さんの臨床的な悪化または死亡のリスクが大きく低下し、説得力のあるデータが得られた。この新たな治療の選択肢を速やかに患者さんに提供できるよう、今回の重要なデータを元に保健当局と協議を進めたいと考えている。