健康食品として市販される有機ゲルマニウムの鎮痛作用メカニズム解明 近畿大学薬学部

難治性疼痛治療薬開発への応用に期待

 近畿大学薬学部の川畑篤史医療薬学科病態薬理学研究室教授、田邉元三有機薬化学研究室教授、浅井ゲルマニウム研究所島田康弘氏らの研究グループは、健康食品として市販されている有機ゲルマニウムの鎮痛作用メカニズムを解明した。
 有機ゲルマニウムに生体内で知覚神経興奮作用を有する硫化物を捕捉すれば、鎮痛作用をもたらすことを明らかにしたもの。同研究により、様々な生理活性を有する有機ゲルマニウムの作用メカニズムの一端が解明され、今後、難治性疼痛治療薬として応用できる可能性が示唆された。なお、同研究成果は、2022年12月15日、オランダの国際学術誌 “Redox Biology”にオンライン掲載された。

 有機ゲルマニウムは、鎮痛、免疫賦活、抗炎症などの効果をもたらし、がんや慢性肝炎などいくつかの疾患に対して治療効果があることが知られている。
 健康食品や化粧品として一般に発売されているが、どのように効果をもたらすかは未解明な部分が多く、メカニズムの解明が求められている。
 こうした中、近畿大学薬学部医療薬学科病態薬理学研究室では、先行研究で難治性疼痛の発症メカニズムを解明しており、そのなかで硫化物によるT型カルシウムチャネル(Cav3.2)の活性上昇が、発症に関与することを明らかにしている。
 その成果をふまえ、有機ゲルマニウムが硫化物と反応することで鎮痛効果をもたらすのではないかという仮説をたて、浅井ゲルマニウム研究所、山形大学医学部と共同研究を進めてきた。
 研究グループは、まず、有機ゲルマニウムの加水分解物(THGP)が硫化物と反応して、硫黄を取り込んだ反応生成物を生じることを構造解析により明らかにした。
 また、硫化物によるT型カルシウムチャネルの活性上昇をTHGPが抑制することを電気生理学的研究により証明した。これにより、有機ゲルマニウムが硫化物を捕捉し、T型カルシウムチャネルの活性上昇を抑制していることが示唆された。
 さらに、マウスにおいて、硫化物を注射した場合に生じる痛みや、体内で硫化物が過剰に産生されて生じる膀胱炎や膵炎に伴う内臓痛に対して、THGPは強力な抑制作用を示すことを明らかにした。
 これらの結果より、加水分解された有機ゲルマニウムは、硫化物によるT型カルシウムチャネルの活性上昇が原因で起こる様々な痛みを抑制することが明らかとなり、難治性疼痛の治療薬として有用である可能性が示唆された。
 同研究において、ゲルマニウムの硫黄との高い親和性に着目した研究グループは、痛みの発現に関与する気体メディエーターのH2Sと反応することで作用する可能性について検討した。
 まず、有機ゲルマニウム化合物(poly-trans-[(2-carboxyethyl)germasesquioxane]、Ge-132;アサイゲルマニウム)の加水分解物である3-(trihydroxygermyl)propanoic acid(THGP)と、H2S 供与体である硫化物NaSHを混和し、反応生成物の構造解析を行ったところ、THGPからOH基が2つ取れ、Geに硫黄が1つ結合した化合物が生成されることが判った(図1)。

図1 有機ゲルマニウムGe-132の加水分解物THGPと硫化物NaSHの推定される反応

 H2Sは哺乳類の生体内において、L-システインからシスタチオニン-γ-リアーゼ(CSE)などの酵素により産生されるが、炎症などが発生した病的状態ではCSEの発現が増加し、過剰に産生されたH2Sが、痛みを伝える知覚神経のT型カルシウムチャネルCav3.2の活性を促進し、神経の興奮性を高めて痛みを引き起こす。
 そこで、Cav3.2の遺伝子を導入してタンパクを発現させた細胞を用いてTHGPの効果を調べたところ、硫化物のNa2SによってT型カルシウムチャネル依存性電流(T-current)が増大し、THGPはこれを顕著に抑制した(図2)。

図2 有機ゲルマニウムGe-132の加水分解物THGPは、Cav3.2発現細胞におけるT型カルシウムチャネル電流(T-current)に対する硫化物Na2Sの増大効果を濃度依存的に抑制した

 

 マウスにおいて、Na2Sを足底内に投与し発生させた痛みは、THGPの前投与により有意に抑制された(図3A)。また、CSEの発現誘導によってH2Sが過剰に産生され、知覚神経のCav3.2活性が上昇した状態にあるシクロホスファミド(CPA)誘起膀胱炎モデルマウスにおける膀胱痛様行動(図3B)や、セルレイン誘起膵炎モデルマウスにおける腹部関連痛覚過敏(図3C)に対しても、THGP投与は顕著な抑制効果を示した。

図3 マウスにおいて、THGPの腹腔内投与(i.p.)は、Na2S足底内投与による痛覚閾値の低下、シクロホスファミド(CPA)誘起膀胱炎による膀胱痛様行動およびセルレイン誘起膵炎による腹部関連痛覚過敏を抑制した
(A:Na2S足底内投与の30分前にTHGPを腹腔内投与、B:膀胱炎モデルマウスの膀胱痛様行動、C:膵炎モデルマウスの腹部関連痛覚過敏)
 

 これらの結果より、有機ゲルマニウムGe-132は、THGPに加水分解された後、硫化物を捕捉すればCav3.2の活性亢進が関与する様々な痛みを抑制することが明らかとなり、難治性疼痛の治療薬として極めて有用であることが示唆された。

◆川畑篤史近畿大学薬学部医療薬学科教授のコメント

 がんの痛みはモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬で抑制できるが、モルヒネがあまり効かない神経障害性疼痛や特殊な内臓痛に対する治療薬の開発が喫緊の課題となっている。
 我々は、ある種の難治性疼痛の発症に生体内で産生される硫化物(硫化水素ガスなど)によって誘発される知覚神経の過剰興奮が関与することを明らかにしてきた。
 今回の研究では、有機ゲルマニウムがこの硫化物を捕捉することで痛みを抑制できることを証明し、難治性疼痛の治療薬として応用できる可能性を示唆した。

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