体外衝撃波治療とは、音波の一種である「衝撃波」を体内の組織に伝達することで、疼痛改善や組織修復を促す治療法である。
カールストルツ・エンドスコピー・ジャパンの衝撃波デバイスチーム(本社:東京都)では、体外衝撃波治療器を取り扱っており、体外衝撃波治療をより多くの人に知って貰うために、この治療を行っている医療関係者識者によるインタビューを本年12月から4回シリーズ実施する。
第1回目は、熊井司氏(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)に「長引く痛みへの体外衝撃波治療による新アプロ―チ」について聞いた。
体外衝撃波治療とは、音波の一種である「衝撃波」を体内の組織に伝達することで、疼痛改善や組織修復を促す治療法である。日本ではまだ聞き慣れない治療法ではあるものの、海外では1980年代にドイツで開発されて以降、筋肉や腱、骨などいわゆる運動器系の障害に対する新しい非侵襲的な治療法として、広く医療現場で用いられてきた。
本邦においては2008年に医療機器として承認が下り、2012年より難治性足底腱膜症に対する保険診療が可能となった。この体外衝撃波治療法はスポーツ障害に用いられることが多いため、各種競技の国際大会でメディカルサポート機器として設置されたり、さらには、チームで導入しているという例も少なくない。
とは言え、「衝撃波」という単語だけ聞くと「身体に使用して大丈夫なのか?痛くないのか?」と不安に思われる人も多くいるだどう。カールストルツ・エンドスコピー・ジャパンでは、そのような人のために実際の医療現場で体外衝撃波治療を行っている熊井氏に次のインタビューを実施した。
■体外衝撃波治療との出会い
熊井先生が体外衝撃波治療をお知りになったきっかけ、使ってみようと思われたきっかけを教えてください。
熊井 私が最初に体外衝撃波治療のことを聞いたのは確か2008年頃だったと思います。FCバルセロナのチームドクター、欧州における自転車競技チームのチームドクターなど、海外のプロアスリートを診るチームドクターたちと交流を持つ中でこの治療法を耳にしました。
また、同時期にヨーロッパで開催された学会に参加した際に、スポーツ障害に関する講演の中でこの治療法について言及がいくつかありました。当時すでにヨーロッパ諸国では、豊富な臨床データに基づいてアスリートの治療にこの体外衝撃波療法を用いていたようです。
同じ頃日本でも厚労省の認可が下りたようですが、私が本格的に体外衝撃波治療器を導入したのはその数年後です。導入の決め手は、やはり日本国内で既にこの治療法を取り入れられていた先生方の評判が大きいです。体外衝撃波治療をファーストチョイスにされているという事例もありましたからね。
■体外衝撃波治療とは
先生はこの体外衝撃波治療をどのような治療法だと考えており、どのように使用されているのでしょうか?
熊井 私は、体外衝撃波治療を「積極的保存治療の1つの手段」と捉えています。体外衝撃波治療には集束型体外衝撃波と拡散型圧力波の2種類の装置があります。集束型は局所に対して衝撃波エネルギーを集めるため、その焦点に比較的強いエネルギーを照射することができる装置です。
一方、拡散型は皮膚表層から深部へ向かってに放射状にエネルギーを伝えていきます。このことから深部に進むにつれて徐々にエネルギーが弱くなっていきます。
これら2つの治療装置のそれぞれの特徴をよく理解して、症例や使用法を検討していく必要があります。
私は、主にアスリートの治療にこの体外衝撃波を用いておりますが、集束型は短期的な除痛効果が期待できることから、アスリートを休ませることなく、プレーを続行させながら治療できることにメリットを感じています。拡散型は筋膜の滑走性や筋肉に対する効果も期待できることから、パフォーマンスを上げるといったコンディショニング目的での使い方もできるのではと考えています。
■難治性足底腱膜症への体外衝撃波治療の効果について
実際に難治性足底腱膜症に集束型体外衝撃波治療をおこなって効果を実感されていますか?
熊井 過去に阪奈中央病院で、足底腱膜症の患者55名を対象に、痛みの評価スケールであるNRSが体外衝撃波治療施行前と施行後でどのように変化したかというデータを取りました。
すると、多くの症例においてNRSが下がり(グラフ参照)、施行前後で大きな有意差が見られました。このことからも難治性足底腱膜症の疼痛改善に体外衝撃波治療は一定の効果を示すと考えています。
また、印象に残っている症例として、あるマラソン選手に体外衝撃波治療をおこなった一例があります。オリンピック出場を目指していたほどの選手なのですが、非常に難治の足底腱膜症になってしまい、あまりに長引くので一時はリタイアも考えていたようです。
そんな中、藁にもすがる思いで集束型体外衝撃波治療をおこなってみたところ、これまで何をやっても取れなかった疼痛が徐々に改善し、完治してしまったのです。結果的にその選手はオリンピックに出場することができました。
■日本運動器SHOCK WAVE研究会について
熊井先生は、日本運動器SHOCK WAVE研究会の代表世話人をされておられますが、研究会ではどのような活動をされているのでしょうか?
熊井 日本運動器SHOCK WAVE研究会(JOSST)は、本邦における整形外科領域での体外衝撃波治療の発展を目的として、基礎研究に長年携わってこられた先生方や、継続的な臨床研究をされてきた先生方が中心となって2016年に設立されました。
我々は、この治療法のメカニズムやエビデンスをしっかりと理解した上で臨床使用していくことが患者様の安全にもつながると考えており、学術集会やセミナーを通して、国内での正しい情報の発信と活用法の提供といった啓蒙・教育活動を広くおこなっています。
このような学術集会やセミナーにおいては、医師のみでなく、理学療法士や柔道整復師などの幅広いセラピストの方々の知識を集めて非常にオープンな議論をおこなっております。
なお、日本運動器SHOCK WAVE研究会は国際衝撃波治療学会(ISMST)の提携学会として認定されています。
■国際衝撃波治療学会(ISMST)について
体外衝撃波治療の国際学会である国際衝撃波治療学会(ISMST)とはどのような組織なのでしょうか?
熊井 まず、国際衝撃波治療学会(ISMST)の前身である欧州衝撃波治療研究組織(ESMST)が、体外衝撃波治療のエビデンスを構築することを目的として、1997年にオーストリアのウィーンで設立されました。当初は主にテニス肘、踵骨棘、肩石灰性腱炎、偽関節の4つの運動器疾患を対象として基礎研究・臨床がおこなわれていたようです。
その後、診療科問わず様々な症例へと適用が広がりまた、世界中に体外衝撃波治療が広まるに従って、2007年に現在のISMST(The International Society for Medical Shockwave Treatment)が設立されました。設立当初8か国のみで構成されていたこの組織は、現在60か国以上の国から登録された会員から構成されています。
国際衝撃波治療学会(ISMST)は、毎年学術集会を開催しているほか、体外衝撃波治療の認定コースを設けており、知識と技術両面での体外衝撃波治療のエキスパートの育成を図っています。
【本邦では、集束型体外衝撃波は難治性足底腱膜症でのみ薬事承認されている】
■体外衝撃波治療は比較的新しい治療ではあるものの、実際の臨床現場においてその効果が実証されているだけでなく、国内外で研究会・学会が設立されており、継続的にエビデンス構築が進められているということが良く分かりました。