若年層はシニアよりそしゃく力に課題あり 日本歯科医師会が歯科医療意識調査

 日本歯科医師会は、全国の15歳〜79歳の男女1万人を対象に、8月26日から8月28日まで、「歯科医療に関する一般生活者意識調査」をインターネットで実施した。同調査は、日本歯科医師会の広報活動の趣旨である「歯科医療に対する国民の認知度・理解度向上」および「歯科医師や診療に対する評価・イメージの向上」のため、現状の歯科医療を取り巻く環境や生活者の意識を把握し、今後の広報展開に役立てることを目的としたもの。2005年からほぼ隔年に実施しており、今回で9回目となる「歯科医療に関する一般生活者意識調査」では、次の調査結果概要が得られた。

①歯や口の悩み実態

歯や口の悩み 若年層は「歯の色」「歯並び」などの見た目、40代以上は「ものが挟まる」がトップに

・歯や口で気になること、1位「歯と歯の間にものが挟まる」37.2%、2位「歯の色」30.6%、3位「口臭」「歯並び」21.8%。

・10代・20代の悩みは「歯の色」「歯並び」などの見た目。40代以上は「歯と歯の間にものが挟まる」悩みを実感。

②若年層の口腔意識・行動

口腔意識の低さ? 10代・20代の6割以上が「歯の定期チェック受診をしていない」

・「口腔を清潔にするとインフルエンザへの感染リスクが低下すること」など口腔と全身の健康の関係について、若年層で認知度が低い。

・10代の61.2%、20代の56.6%が、自分がいつか「歯を失う」ことをイメージしたこともない。

・歯の定期チェック受診率は10代35.7%、20代36.2%、全体平均(45.3%)より約10ポイントも低い。

・かかりつけ歯科医がいる割合、10代・20代では全体より約10ポイント低い。10代・20代の3人に1人はかかりつけ歯科医が「いない」。

③若年層の口腔機能の実態

10代の2人に1人が口腔の問題を経験。 4割が「硬い食べ物を噛み切れない」などそしゃくに課題も

・若者に口腔機能の発達不全の疑い?10代48.3%、20代40.6%と半数近くが、「滑舌の悪さ」「食べこぼし」などの問題を1つ以上経験。

・全体の2人に1人が「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」、4人に1人が「子どもの頃から硬いものを食べる習慣があまりなかった」と硬い食べ物離れが顕著に。

・10代の53.6%は「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」、40.3%は「硬い食べ物を噛み切れないことがある」。また、10代の48.3%は「食事で噛んでいると顎が疲れることがある」と答え、70代の2.7倍も多い。シニアより10代の方が「噛むこと」に課題あり。

・好きな食感ランキングでは、30代以降は「さくさく」が1位だが、10代・20代は「もちもち」が1位。若年層は食感も柔らか志向?!

④歯を失う影響

歯を失うと、食べること以外にも影響が? 若年層ほど、歯と「笑顔」「QOL」の関連性を重視している

・歯を失うことで失うと思うもの、1位「食事の楽しみ」、2位「食に対する意欲」、3位「見た目の若さ」、4位「全身の健康」、5位「笑顔」。

・年代が上がるほど「全身の健康」「寿命」への影響を予想。若年層では「笑顔」「QOL(生活の質)」を失うと予想する割合が高い。

■第9回「歯科医療に関する一般生活者意識調査」結果の詳細および、それを踏まえた日本歯科医師会の解説は、次の通り。

【歯科医療に関する一般生活者意識調査結果の詳細】

①歯や口の悩み実態

◆歯や口の悩み 若年層は「歯の色」「歯並び」などの見た目が気になる

◆40代以上になると、「歯と歯の間にものが挟まる」がトップに

 全国の10代〜70代男女1万人を対象に、歯科医療に関する意識調査を行った。
 まず、歯や口の中のことで悩みや気になることを聞くと、1位「歯と歯の間にものが挟まる」(37.2%)、2位「歯の色が気になる」(30.6%)、3位「口臭がある」「歯並びが気になる」(同率21.8%)の順となった[図1-1] 。

 年代別に見ると、10代〜30代の若年層では「歯の色」「歯並び」など見た目を気にする割合が高いのに対し、40代以降は「歯と歯の間にものが挟まる」が悩みのトップとなっている[図1-2]。

 歯や口の中に関して、若い世代では特に見た目を気にする傾向にあるようだ。

②若年層の口腔意識・行動

◆「口腔の清潔とインフルエンザ感染リスク低下」など、口腔と全身の健康の関係について若年層の認知が低い

 歯や口の中に関して、特に見た目が気になる10代・20代の若年層に、口腔と全身の健康意識について聞いてみた。口腔と全身の健康に関して知っているものを選んでもらうと、「歯周病の予防には定期的な管理が必要」は全体では4割弱(36.3%)が認知しているが、10代は19.5%、20代は24.0%と認知率が低くなっている。
 「糖尿病と歯周病の関連」については、10代10.0%、20代11.7%と1割しか認知していない。また、これからの流行が懸念される「インフルエンザ」に関しても、口腔の清潔が感染リスクを下げることを知っているのは、10代14.1%、20代14.7%にとどまっている[図2]。

◆10代・20代の半数以上が「歯を失う」ことをイメージできず、定期チェックしているのは4割弱

 次に自分が「歯を失う」ことをイメージできているか聞くと、10代では61.2%、20代では56.6%が「自分に起こることをイメージしたこともない」と答えており、半数以上が自分が歯を失うとは想像すらしていない[図3]。

 また、歯の定期チェックの実施について聞くと、全体では45.3%がチェックを行っている。だが、10代では35.7%、20代では36.2%と、定期チェックの実践率は全体よりも約10ポイント近く低くなっている[図4]。

◆10代・20代の3人に1人は「かかりつけ歯科医」がいない

 これまでに歯科治療または歯の定期チェックを受けた経験がある人に対し、かかりつけ歯科医の有無を聞くと、全体では76.2%と4人に3人はかかりつけ歯科医がいる。だが、10代は66.9%、20代は66.1%にとどまり、3人に1人はかかりつけ歯科医がいない[図5]。

◆若年層の口腔機能が十分に発達していない疑い?

◆10代48.3%、20代40.6%と半数近くが、「滑舌の悪さ」「食べこぼし」などの問題を1つ以上経験

 「食べる」「話す」「笑う」などは口腔機能と呼ばれ、滑舌が悪くなったり、食べこぼしをしたりすることは「口腔の機能不全」が疑われる症状である。口腔の機能不全の疑いがある6つ(図6-1の①~⑥)の症状を提示し、「経験がある」ものを答えてもらった。その結果、年齢が高くなるとともに経験する人が増えているが、10代・20代の若年層でも症状を経験している人が一定数いる。中でも「滑舌が悪くなることがある」と経験する10代は30.3%、20代は26.5%と多くなっている[図6-1]。
 また、これらの症状のうちどれか1つでもあてはまる人を算出すると、10代では48.3%、20代では40.6%と、若年層の半数近くが何らかの症状を経験しており、口腔機能が十分に発達していないことが疑われる[図6-2]。

③若年層の口腔機能の実態

◆若年層は「噛む力」にも問題あり? 10代の半数は「食事で顎が疲れる」、70代の2.7倍に上る

 半数近くが口腔機能に何らかの問題を感じている若年層ですが、「噛む力」も未発達な傾向にあるようだ。まず、全体に普段の食事について聞くと、全体の2人に1人が「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」(47.0%)、4人に1人が「子どもの頃から硬い物を食べる習慣があまりなかった」(25.1%)と答えた。現代人の「硬い食べ物離れ」が広がっているようである。
 さらに年代別に見ると、「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」と答えたのは10代が53.6%と最も多く、また、「硬い物を食べるときに噛み切れないことがある」のも10代が40.3%と最多である。柔らかい食事を好む10代だが、半数が「食事で噛んでいると、顎が疲れることがある」(48.3%)と答えており、その割合は70代(18.0%)の2.7倍にも上る[図7]。10代のそしゃく力には課題が大きいようだ。

好きな食感 30代以降は「さくさく」、10代・20代は「もちもち」 若年層は食感も柔らか志向?!

 好きな食感について聞くと、全体では「さくさく」(56.3%)、「しゃきしゃき」(48.2%)、「もちもち」(48.0%)がトップ3であった。年代別に見ると、30代以降は「さくさく」がトップだが、10代・20代では「もちもち」がトップ。上の世代に人気の「しゃきしゃき」は、10代ではランク外[図8]。硬い食べ物が苦手な10代は、食感にもより柔らかさを求めているようだ。

④歯を失う影響

◆歯を失うと、食べること以外にも影響が? 若年層ほど、歯と「笑顔」「QOL」の関連性を重視している

 最後に、歯が抜ける・なくなるなど「歯を失う」ことによって、歯以外に失うものがあると思うか聞いてみた。すると、「食事の楽しみ・おいしい物を食べる機会」(57.4%)、「食べることに対する意欲」(51.2%)、「見た目の若さ」(43.8%)、「全身の健康」(36.7%)、「笑顔」(27.4%)などが歯とともに失われるものとして上位に挙げられた。
 歯を失うことで、食に対する関心だけでなく、健康や笑顔までも失ってしまうと考えられているようだ。年代別に見ると、「全身の健康」や「寿命」は年代が上がるほどスコアが高くなり、「笑顔」「メンタルヘルス」「QOL(生活の質)」は若い世代の方がスコアが高くなっている[図9]。

【日本歯科医師会が解説】「口腔機能の発達不全」とは

 日本歯科医師会では、近年次々と明らかになっている「口腔(こうくう)の健康が全身の健康と密接に関わり、口腔健康管理の充実が健康寿命の延伸につながる」というデータを発信するとともに、歯や口腔の健康への国民の皆様の関心や理解度を把握するために、10年以上にわたり本意識調査を実施している。
 今回は、経年で聴取している歯科医療に関する基礎的な調査項目を伺ったほか、各世代の口腔健康への意識についても改めて聞いた。その結果を踏まえ、本リリースでは、「若年層」における口腔健康意識や歯科医療の実態に着目した。

◆若年層の「口腔機能」や「噛(か)む力」の発達が不十分な傾向 口腔機能への意識も低いことが明らかに

 調査結果では、10代と20代の6割以上が歯と口の定期チェックを受けておらず、全体と比べて約10ポイントの差があるという実態、また、口腔の健康と全身健康の関係性についての認知も乏しいことが明らかになった。
 さらには、若年層の半数近くが「滑舌の悪さ」「食べこぼし」など何かしらの問題を経験しており、口腔機能の発達が不十分な疑いも垣間見える結果が示唆された。
 中でも「噛む力」に関してはその傾向が顕著で、結果によれば、「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」と答えたのは10代が最も多く、「食事で噛んでいると、顎が疲れることがある」と答えた割合は70代の2.7倍にも上っている。
 また、若年層は、歯並びや歯の白さなど見た目には気を使っているが、口腔機能には意識が低いことがわかってきた。

◆そしゃく力の低下が、全身の健康状態にも影響するおそれあり。フレイル加速の要因になる可能性も

 日本人全体として、そして特に若年層のそしゃく力に関しては近年ますます問題視されてきており、食生活の軟食化をはじめとし、さまざまな要因から「噛む力」が弱まっている傾向が推察される。
 「噛む力」の低下は、噛む筋肉や顎の骨が十分発達せず歯並びの乱れや顎関節症を起こすだけでなく、食物繊維の多く含まれる歯応えのある食品や、噛み応えのある肉などタンパク質の摂取量の低下につながり、その結果、栄養不足や運動機能の低下にもつながっていく。
 一見なんでもないように感じられるが、「食べる」「話す」「呼吸する」など、口周りに関する基本的な機能が十分に発達していないか、正常に獲得できていない状態のまま年を重ねると、オーラルフレイルの状態を飛び越えて機能不全の時期が早まるだけでなく、全身の衰え(フレイル)を加速させる要因の一つとなる。
 生活の質を高め、そして健康寿命を延伸するためにも、早い段階からの口腔機能を健全な状態に保ち、それを継続することが大切である。

◆健全な口腔機能を守るためのトレーニング 「30回そしゃく」「口腔体操」「うがい」を習慣化しよう

口腔機能の低下を防ぐ対策方法として重要なのは、舌を含めた口周りの筋トレに取り組むことだ。難しくはなく、ものを食べるときには「よく噛むこと」を意識し、30回はそしゃくすることを心がけよう。唾液(だえき)で口内を常に潤わせることも大切なので、唾液の分泌を促すマッサージも良い。
 さらに、舌の動きをスムーズにして飲み込むパワーを強くすることも必要なので、「あいうべ体操」や「パタカラ体操」などの口腔体操を行えばよい。舌や舌の奥、ほおの筋力を高めるには、水を口に含み、ほお全体を思い切り膨らませたりすぼませたりするブクブクうがいや、口に水を含んだ状態で上を向き、喉の奥でガラガラするうがいもおすすめだ。早口言葉や砂糖不使用のガムを噛むのも有効である。
 口周りのトレーニングをする際のポイントは、できれば鏡を見ながら、どこを動かしているか意識しながら取り組むことだ。他にもさまざまな方法で対策ができるので、かかりつけの歯科医に相談してみるのもよいだろう。できることから毎日の習慣に取り入れてみてほしい。
 日本歯科医師会では、歯科医療の提供を通して国民の皆様の口腔健康の維持、ひいては、全身健康の延伸に貢献すべく活動を行っている。特に、今回のリリースにて着目してきた若年層が生きていく今後においては、「健康」な状態で長生きすることが、より重要になってくると考える。
 超高齢社会における医療提供者の一員として、国民が、人生において「楽しく、豊かな」時間を少しでも長く過ごせるよう、今後も適切な情報発信を行い、一層の努力を行っていきたい。

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