男女の消化器外科医による手術成績は同等 京都大学などの研究グループが調査

女性消化器外科医のさらなる活躍に向けて

 大越香江京都大学大学院医学研究科客員研究員、野村幸世東京大学大学院医学系研究科准教授、河野恵美子大阪医科薬科大学助教、吉田和弘岐阜大学学長、北川雄光日本消化器外科学会理事長らの共同研究グループは、日本消化器外科学会による日本最大の手術データベースNational Clinical Database(NCD)を利活用した研究において男女の消化器外科医が執刀した手術の短期成績を解析した結果、男女の消化器外科医による手術成績は同等であったことを公表した。
 日本の消化器外科医における女性の割合は6%程度と少ないが(2016年当時)、年々増加傾向にあるが、指導的立場の女性消化器外科医は未だ少ないのが現状だ。そこで、男女の消化器外科医による手術成績に差があるのか、女性が外科医として十分活躍できる存在であるのかを調査することを目的として同研究を行ったもの。
 研究の結果、女性消化器外科医は全体として男性よりも医籍登録後の年数が短く、腹腔鏡手術執刀の割合が少ないものの、よりリスクの高い患者を手術していたことが分かった。
 また、病院の規模や患者の背景を調整して比較した合併症や死亡率の調整リスクには、男女間で有意差はなかった。すなわち、女性消化器外科医の手術短期成績は男性消化器外科医と同等であると言える。今後、女性医師がさらに消化器外科領域で研鑽を積んで活躍するために、男女外科医に均等な教育の機会を提供するとともに、より多くの女性外科医を育成するための環境づくりが期待される。
 これらの研究成果は、本年9月28日(現地時刻)にイギリスの国際学術誌「The BMJ」にオンライン掲載された。
 日本の消化器外科医における女性の割合は6%程度と少なく(医師・歯科医師・薬剤師調査:2016年当時)、指導的立場の女性外科医はさらに少ないのが現状であり、女性が十分に活躍できているとは言えない。
 それに比べて、カナダ、アメリカ、イギリスの一般外科医に占める女性の割合はそれぞれ、27.9%、22.0%、32.5%(カナダ医師会、アメリカ医科大学協会:いずれも2019年、イギリス国民保健サービス(NHS):2017年)であり、さらに、アメリカやカナダでの先行研究では、女性医師や外科医の治療成績は男性医師と同等かそれ以上であることが示されている。
 このように、日本では女性外科医の割合が少なく、他国と比べて女性外科医が働くための環境が整っていないと考えられてきた。また、これまで、男女の消化器外科医による手術成績に差がないことを示したうえで、女性が外科医として十分活躍可能なことを明らかにする研究も行われて来なかった。
 そこで、女性の消化器外科領域への参画を促進したいという考えのもと、日本最大の手術データベースであるNational Clinical Database (NCD)を活用し、男女の消化器外科医による執刀数や術後合併症などを比較する研究を計画した。
 なお、同研究グループはこれまでにNCDを使用して、女性消化器外科医一人当たりの手術執刀数が男性消化器外科医よりも少ないことを明らかにしている。(Kono E, Isozumi U, Nomura S, Okoshi K, et al. Surgical Experience Disparity Between Male and Female Surgeons in Japan. JAMA Surg. Published online July 27, 2022. doi:10.1001/jamasurg.2022.2938)
 同研究では、2013年から2017年にかけて登録されたNCDおよび日本消化器外科学会の会員データを使用して、幽門側胃切除術(DG: 184,238症例)、胃全摘術(TG: 83,487症例)、直腸低位前方切除術(LAR: 107,721症例)の手術症例の患者背景や病院の特徴、患者の術後短期成績を執刀した外科医の性別や医籍登録後の年数などを分析した。
 この3つの術式はNCDに患者背景や合併症の有無などが詳細に記録されており、かつ女性消化器外科医の執刀数が比較的多い術式である。手術死亡率、手術死亡率と術後合併症の組み合わせ、膵液漏(DG/TGのみ)、縫合不全(LARのみ)を解析の対象とした。
 患者、外科医、病院の特徴など、術後死亡率や合併症に影響する様々な要因で調整した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、男女の消化器外科医による手術の手術関連死亡率および術後合併症との関連性を検討した。
 その結果、女性消化器外科医は男性消化器外科医よりも医籍登録後(医師免許取得後に厚生労働省の帳簿に登録すること)の年数が短く、腹腔鏡手術に携わる割合が少ないものの、よりリスクの高い患者を手術していたことが明らかになった。病院の規模や患者の年齢や併存疾患などを調整して比較した手術死亡率の調整リスクには男女間で有意差はなかった。
 これらの結果から、女性消化器外科医の手術短期成績が男性消化器外科医と同等であることが示された。

 既存の多くの先行研究では、メディケアなどの請求データベースを使用しているが、同研究では患者の術前状態や手術成績の精度が高い臨床データベースを用いているため、選択した個々の術式について患者関連因子で交絡因子を調整することができた。
 同研究の解釈において注意すべき点として、女性外科医の数が男性外科医の数よりかなり少ないため、ひとりの女性外科医のアウトカムが全体のアウトカムに大きな影響を与えるというバイアスが存在する可能性がある。
 だが、全体として女性消化器外科医の手術成績は男性消化器外科医と同等であり、今後さらに手術経験を男性医師並みに増やすことで、女性消化器外科医のさらなる活躍が期待できる。そのためには、公平な教育の機会を提供するための体制や、優秀な女性外科医を育成するための環境づくりが望まれる。

◆大越香江氏のコメント
 女性は、手術を執刀するのに適していないと考えられ、外科医になりたいと思っても歓迎されないという話がよくあった。だが、今回の分析では、術後死亡率や合併症率に執刀医の性別による有意な差はなく、女性も同様に手術スキル向上に成功していることがわかった。
 今後、手術トレーニングの機会や執刀数、昇進の機会などにおいて男女の平等が実現すれば、女性消化器外科医の技術はさらに向上すると思われる。

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