日本人の腸内に生息するバクテリオファージの全貌と宿主・環境因子との関連を同定 早稲田大学などの共同研究

ファージによる特定の腸内細菌制御に基づく疾患の治療法開発に期待

 早稲田大学ナノ·ライフ創新研究機構の西嶋傑次席研究員(現:欧州分子生物学研究所)らの研究グループは、Japanese 4D (Disease, Drug, Diet, Daily life) マイクロバイオームコホートの大規模データを用いた解析から、腸内に生息する膨大な数のバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)を網羅的に同定して新規ファージグループを発見し、全貌を解明した。さらに、腸内ファージコミュニティーに影響を与える宿主・環境因子を多数発見した。
 同研究により、ヒトの腸内に豊富に存在しているにも関わらず、今まで知られていなかった「未知のファージグループ」が多数発見された。この「未知のファージグループ」を膨大な臨床情報と関連解析した結果、年齢、性別、食習慣、病気、薬剤摂取などの様々な因子が、腸内のファージコミュニティに影響を及ぼしていることが見出された。今後、同ファージによる特定の腸内細菌制御に基づく疾患の治療法開発が期待される。
 同研究成果は「Nature Communications (IF: 17.7)」に掲載された(現地時間2022年9月6日公開)。
 今回の研究成果は、日本人を対象とした大規模ショットガンメタゲノムデータを用いてヒトの腸内に生息するファージコミュニティの全貌を明らかにしたもの。ヒトの腸内に生息するファージは腸内細菌叢の形成や機能に大きな影響を与えていると考えられている。
 だが、その多様性や生態系に関する知見は非常に限られており、ヒト腸内における「ダークマター」と呼ばれている。今回、4198人の被験者を対象とした大規模解析を行うことで、ヒト腸内に生息するファージの全貌が明らかとなり、微生物生態系における細菌とファージの相互作用の理解、さらにはファージによる特定の腸内細菌制御に基づく疾患の治療法開発につながることが期待される。
 なお、同研究は、西嶋の他、理工学術院の木口悠也博士課程学生(現: 東京大学)、服部正平教授(現:東京大学名誉教授)、永田尚義東京医科大学消化器内視鏡学分野准教授、河合隆教授、小島康志国立国際医療研究センター消化器内科医長、植木浩二郎糖尿病研究センターセンター長、秋山徹感染症制御研究部特任研究部長、上村直実国府台病院名誉院長らの共同研究により実施された。

◆西嶋氏のコメント
 ヒトの腸内環境は我々にとって非常に身近にも関わらず、まだわかっていないことが多い生態系である。我々が使用したような大規模メタゲノムデータや臨床情報、さらには個々の腸内微生物を単離培養する技術等様々な技術を組み合わせて研究することで、複雑な腸内微生物叢を理解し、やがては我々の健康増進や疾患予防・治療に役立てられると考えている。

◆永田氏のコメント
 細菌を宿主とするバクテリオファージに関する日本人の知見はかなり乏しく、これまで500人を超える研究はなかった。今回、4000人以上を解析対象とし、西嶋氏・服部氏らの卓越したバイオインフォマティクスの知識と技術があったことで、4000以上のファージが同定できた。
 また、バイオインフォマティクスのプロと臨床現場で診療する医師がタッグを組んだことで、臨床的な目線も含めた解析ができたと考えている。
 どのようなファージが日本人に特徴的か?どのような環境因子や宿主因子がファージの変動に影響を及ぼすのか?どのような菌種にどのようなファージが感染するのか?などの新知見は、マイクロバイオームを研究する基礎研究者や臨床研究者にとって有用と考えている。

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