様々なiPS細胞作製のドナー特定を飛躍的に効率化  アイ・ピース、ジーンクエスト

特定の遺伝型のiPS細胞製造効率向上や創薬・移植医療開発加速

 アイ・ピース、ジーンクエストは、共同でジーンクエストの持つ数万人規模のゲノム情報を基に特定の遺伝子特性を持ったドナーを同定し、実際に特定の遺伝子型のiPS細胞をアイ・ピースの量産化技術で作成可能なことを実証した。
 これまでの実験と分析を基にした労働集約的なドナー同定に代わり、データドリブンの手法を用い短期間に多数のドナーベースから特定の遺伝子型を持つドナーを同定することで、特定の遺伝型のiPS細胞の短期間での効率的な作製が可能になった。
 ジーンクエストの持つドナー遺伝子型特定技術とアイ・ピースの持つiPS細胞量産化技術を組み合わせることで、ジーンクエストの持つ膨大なゲノムデーターから特定の病気や体質、HLA(ヒト白血球型抗原)等の様々な特徴の遺伝子型を持つドナーを迅速かつ効率的に特定。
 これらのドナー候補からのソーシンングにより多品種のiPS細胞を迅速に作製できるようになり、HLAホモiPS細胞ストックの更なる充実や希少疾患の創薬研究を促進する。

17日からの第21回日本再生医療学会総会で発表

 アイ・ピースとジーンクエストの両社は、17日より横浜で開催される第21回日本再生医療学会総会において、共同で同件についての発表を行う。
 この特定遺伝子型のドナーを効率的に特定しiPS細胞を量産するスキームは、希少疾患や発症前の疾病予備群など様々な特定遺伝子型への応用が可能であるが、今回の発表では、特定の遺伝子型のiPS細胞が作製できることを検証する目的で、ヒトの免疫機構に関わるHLA遺伝子の特定のタイプを対象として研究を行った。
 HLAタイプはその組み合わせが非常に多く高いレベルでの検証が行えるだけでなく、臓器移植の際には拒絶反応を防ぐためにも欠かせない遺伝子だ。また、様々な疾患にも関わっているため、創薬分野でも大きな貢献が期待されることから今回検証対象に選ばれた。
 ジーンクエストの持つデータの中から、遺伝子型推定システムに基づき特定のHLAタイプと予測されるドナーをリクルートし、そのうち7人のドナーの血液をシーケンス分析により目的の遺伝子型と一致するか確認した。
 その結果、HLA遺伝子の7座両アレル、合計98座中92座が事前の推定タイプと一致しており、93%以上の一致率であった。
 また、ドナーの血液から実際にiPS細胞の樹立も確認した。この特定遺伝子型のiPS細胞作製システムを応用すれば、ジーンクエストの持つゲノムデータの中からHLAタイプだけではなく特定の病気や体質等の幅広い特定の遺伝型を持つ方々の推定と同定を迅速に行い、ドナーソーシングをしてのiPS細胞量産が可能となる。
 これにより様々な種類の疾患特異的iPS細胞をストックし、また、同じ疾患でも数多くのドナー由来のiPS細胞ライブラリーを作製できるため、iPS細胞を用いた創薬研究を飛躍的に促進できるようになる。

移植医療における遺伝子型特定の意義

 移植医療の理想は自家iPS細胞由来分化細胞を基にした細胞・臓器移植であると考えられるが、iPS細胞由来の細胞医療は未だ臨床試験あるいはその前段階にある。
 一方、他家細胞・臓器移植においては免疫抑制が今なお大きな課題だ。国内の他家ドナー由来iPS細胞ストックも、日本人の40%程度しかカバーできていないと言われている。
 今回アイ・ピースとジーンクエストが用いた遺伝子型推定システムの活用により、ゲノム情報を基にHLAタイプの予測が可能となった。ジーンクエストの持つ大規模なゲノム情報の活用により、様々なHLAタイプに関するiPS細胞の潜在的ドナーソースを有することになる。
 今回実際に、日本人で出現頻度が大きいHLAホモドナーについて、順位1番は342名、2番は107名、3番目は55名、4番目は31名、5番目は13名、その他6番目、9番目14番目、15番目、20番目などについても複数の潜在的ドナーの同定に成功した。
 これは、これまでのHLAホモストックプロジェクトを補完し、日本における人口カバー率の大きな増大を可能にするものだ。血液の提供を依頼し、その細胞を基にアイ・ピースの技術によってiPS細胞由来分化細胞を作製し、細胞医療に活用する手法により移植医療の推進が可能となる。
 希少疾患の治療薬の開発における最大の課題は、研究に協力していただける患者を特定しその協力を得る点にある。
 また、希少疾患でありながら複数の原因遺伝子変異のタイプがある場合はすべてのタイプについての研究や治験の実施は非常に難しくなる。さらに、疾患患者を特定しても疾病の進行状況によっては協力の依頼が身体的あるいは心理的に非常に難しい場合もある。
 ジーンクエストの持つ大規模なゲノム情報を活用し特定遺伝子型推定システムの適用により、希少疾患患者あるいは潜在的患者の容易な特定が可能になり、多数の患者への研究協力依頼や、その血液を基にアイ・ピースの技術でiPS細胞由来分化細胞を作製し、創薬研究の効率を飛躍的に高めることが可能となる。

タイトルとURLをコピーしました