多くの感染症に対応して地域医療に貢献する街の薬局目指して グラムスキー薬局

 多くの感染症に対応して地域医療への貢献を目指ざす「グラムスキー薬局」が2月1日に名古屋市東区でオープンした。同薬局には、「薬剤耐性問題について、街の薬局・薬剤師が何ができるのか。専門性が求められる薬剤師職能の中で、感染症に特化した薬局を開設して地域医療に貢献したい」という開設者の瀧藤重道氏の強い思いがふんだんに詰まっている。
 感染症に特化した薬局作りの切っ掛けは、瀧藤氏が街の薬局薬剤師として勤務する中で、「老人ホームの在宅医療で、医師に抗生物質の提案をすることの難しさを痛感した」ことに端を発する。

瀧藤氏


 医師は、スペクトルの広い抗生物質を処方しようとする傾向が強い。薬剤師として狭いスペクトルの薬剤を推奨すれば、効能範囲の狭さを心配する医師が多く、「今までの抗生物質の処方パターンを変えるのは困難であった」
 瀧藤氏は、「その不安をどのようにして払拭すれば良いかと考え、グラム染色検査をして細菌を推定し、適切な抗生物質処方を医師へ提案する取り組みを行うようになった」と話す。
 その背景には、「繁用投与されているスペクトルの広い抗生物質は、耐性化している可能性があるため、できるだけそのリスクを下げたい」という薬剤師としての願望があった。
 このように瀧藤氏は、2013年からグラム染色の細菌検査を用いて、尿や痰、鼻水、目脂などを染色して感染症を惹起する細菌を推定することで医師へその細菌に合った抗生物質を提案するという取り組みを行ってきた。
 病院では、感染症の治療効果を高め、耐性菌の出現を抑えるために、検査や抗菌薬について支援するチーム(AST)が活動しているが、市中の診療所、外来レベルではなかなか対応できていないのが現状だ。そこに、薬剤師としての職能を見出したのが「グラムスキー薬局」である。
 同薬局では、服薬指導や健康相談の中で、膀胱炎や肺炎、皮膚感染症などの患者から検体を貰い、臨床研究でグラム染色検査をして細菌を推定する。その検査結果をもとに、細菌に適正な抗生物質を医師にフィードバックしたり、患者への受診勧奨を行っている。
 「昨今の新型コロナ禍において、感染症治療のみではなく感染対策の重要性を改めて認識した」と強調する瀧藤氏。日本で初めての試みは勿論保険点数は付かないが、「言われたからやるのではなく、医療の担い手としての感染症対策の必要性を考えてスタートした。その実績が認められて、将来的に保険点数が付くようになれば嬉しい」と訴えかける。

全個室対応


 グラムスキー薬局の特徴の一つとして、「感染者疾患専用」と「一般」の二つの入り口の設置が挙げられる。受付で患者をトリアージした後に入り口を振り分け、すぐに専用の待合室、個室へ案内することで他の患者や職員への感染を防ぐ。
 感染防止やプライバシーを配慮した全室個室対応も見逃せない。来局後感染症の有無に関わらず個室へ案内し、隔離用個室では、服薬指導、薬の譲渡から会計まで全て完結する流れを実現した。一般の個室の会計は受付で行われ、いずれの個室の患者もクレジットカードや電子マネーの使用が可能だ。
 個室は4つあり、そのうちの一つが隔離用個室で、隔離用個室は感染者疾患入り口と直結している。患者同士や職員が被爆しないようにするため、どの個室内も常時空気が流れる換気システムも導入している。
 発熱患者は、完全隔離個室で対応し、PCR検査も可能だ。瀧藤氏は、「隔離用個室を活用して、コロナの無料PCR検査も行っていく」考えだ。

検体測定室


 検体測定室には、グラム染色を安全に行うために病原体検査用陰圧Box「DANTECT for Pt / Pt Plus」という作業者が検体から感染しない設備を導入している。
 また、同薬局では、風邪の漢方相談やOTC薬の販売、海外渡航者への感染対策のサポートや虫除け製品の販売も行っている。
 「風邪も感染症の一つの領域なので、セルフメディケーションをアシストしたい」と明言する瀧藤氏。その上で、「OTCで対応できない場合は、受診勧奨して地域の架け橋的な役割が担えればと考えている」と話す。

漢方薬・OTC展示棚


 こうした感染症に特化した薬局作りには、普通に薬局を開くよりも個室や空調で初期費用がかかる。しかも、医療機関前の門前薬局ではなく、面で院外処方箋を応需するため、収支が安定するまで時間がかかることが予想される。
 そこで、開設時にクラウドファンディングを実施し、目標金額の300万円を達成した。グラムスキー薬局の概要は、延べ床面積:68㎡、個室1:2.6㎡、個室2:2.8㎡、個室3:3.3㎡、個室5(完全隔離鼓室)1.6㎡、調剤室:10.2㎡、検体測定室:3.4㎡。総費用は、2000万円強である。
 最後に瀧藤氏は、「私は38歳の中堅薬剤師であるが、一つの薬局・薬剤師の専門性の形として感染症に特化した薬局を後輩薬剤師に示すことができた。この方法が良いと思われる人は、取り入れて貰えば良い」と明言。
 さらに、「これからの薬剤師は、今までと同じことをやっているだけではダメだと思う。別の手法で薬剤師職能を発揮するやり方もある。若い薬剤師さんには患者さんのために新しいことにチャレンジしてほしい」とエールを送る。

グラムスキー薬局見取り図
タイトルとURLをコピーしました