患者と医師のうつ病症状・治療への期待、社会機能で共同調査研究 武田薬品とルンドベック・ジャパン

うつ症状の認識と治療への期待等で患者と医師の間で大きな認識の違いは無し

武田薬品とルンドベック・ジャパンは29日、「患者と医師のうつ病の症状、治療への期待、社会機能に関する共同調査研究」結果を発表した。
 同研究は、うつ病や統合失調症など精神疾患を専門にした治験支援機関(SMO)のCNS薬理研究所主幹で石郷岡病院理事長の石郷岡純氏(精神科医)とともに、うつ症状の認識と治療への期待に関する患者と医師の異同を検討するもの。
 同研究結果は、10日にNeuropsychiatric Disease and Treatmentに掲載されたほか、19日~21日に開催された第117回日本精神神経学会学術総会でも発表された。
 うつ病は、一進一退を繰り返しながら時間をかけて回復し、寛解に至っても6割の患者が再発するなど、回復の判断の見極めが非常に難しい疾患である。
 特に現役世代では、日本企業の9.2%がメンタルヘルスの不調により休職した従業員を抱えるといわれ、メンタルヘルスの不調を抱える患者の社会復帰の適切な支援は日本社会全体にとって大きな課題となっている。
 長引く休業期間に焦って復帰過程で出勤して悪化したり、出勤できても仕事が手につかないプレゼンティーズムの問題もあり、社会復帰のタイミングをどう判断するかは多角的な検討が求められている。
 そこで同調査研究では、うつ病患者と医師の「うつ病による現在の症状」、「改善していない症状」、「治療したい症状」、「社会機能評価」、「治療に期待すること」に関する認識の相違を理解する目的で、20歳から65歳の全国の患者と医師(解析対象回答828、患者828名、医師326名)を対象にインターネット調査を実施した。
 今回の調査結果から、同調査に回答したうつ病患者と医師において、全体として患者と医師の間でうつ病の症状や治療に関しての認識に大きな違いはないことがわかった。
 だが、病期によっては、「現在の症状」 「改善していない症状」「治療したい症状」に関して、患者と医師の間で認識の違いがあった。
 また、患者と比べて医師では、病期にかかわらず患者の職業機能や対人関係といった社会機能を低く評価する傾向がみられた。
 調査結果の主な概要は、次の通り。

◆現在の症状:各病期における現在の症状の患者と医師の認識

 気分、身体、認知症状のいずれにおいても現在の症状に対する認識に患者と医師の間で大きな差はなかった。「現在の症状」について、重症期では患者の87%、軽症期では患者の66%が認知症状があると考えているのに対して、医師ではそれぞれ82%、54%であった。患者に比べて医師では、これらの病期では認知症状があると考えている割合が少ないことがわかった。
 また、身体症状についても、軽症期の患者の91%が「身体症状がある」と回答しているのに対し、医師では85%にとどまり、患者に比べて医師は、身体症状があると考えている割合が少ないことが判明した。

◆現在の症状(認知症状のサブ解析):各病期における現在の認知症状の患者と医師の認識

 認知症状のいずれのドメインについても患者と医師の間で認識に大きな差はなかった。「現在の症状の有無」について、重症期では患者の35%、軽症期では患者の14%が集中困難の症状があると考えるのに対して、医師ではそれぞれ20%、8%と低く、患者に比べて医師では集中困難の症状があると考える割合が低かった
 また、軽症期において、患者の63%が物忘れ/記憶困難の症状があると回答しているのに対し、医師では51%で、患者に比べて医師は物忘れ/記憶困難の症状があるとする割合が少なくなった。

◆改善していない症状、治療したい症状

 「改善していない症状」では、軽症期と軽快期において、患者よりも医師は気分症状が改善していないと考えている割合が高く、また軽症期において患者よりも医師では認知症状が改善していないと考えている割合が高く、治療による症状の改善度は医師の方が低く考えていることが判った。

「治療したい症状」では、軽症期において、患者よりも医師は気分症状を治療したいと考えている割合が高く、軽症期と軽快期において、全ての症状に対し、患者よりも医師では治療したいと考えている割合が高い傾向があった。患者と医師では治療したい症状の認識に違いがあることがわかった。

◆社会機能の患者と医師の認識

 患者と医師との間で、社会機能に関する認識の相違を調べるため、FAST (Functioning Assessment Short Test:簡易社会機能評価)を用いた評価を行った。社会機能とは、個人が家庭や職場、学校といったコミュニティの中で、あるいは家族、友人といった社会的関係性において、相応の社会的役割を果たすために発揮するべき機能を指し、FASTにより、自律性、職業機能、認知機能、経済的問題、対人関係、余暇の6つのカテゴリー、合計24の評価項目から合計点を集計し、患者の社会生活における障害を評価した。
  FAST合計スコアでは、全病期において患者より医師の方が高い結果となり、医師では、病期にかかわらず、患者の社会機能を常に患者に比べて低く評価する傾向がみられた(左図)。

 また、FASTの6つのカテゴリーそれぞれについてFASTサブスコアを解析したところ、患者の病期にかかわらず、自律性、職業機能、認知機能、経済的問題、対人関係、余暇の全カテゴリーにおいて、医師は患者さんより社会機能の評価が低い結果となり、FAST合計スコアでの結果と同じ傾向が見られた(下図)。

◆治療に期待すること


 「治療に期待すること」では、医師は重症期から軽快期に向かうにつれて、「元の生活に戻れること」を考える割合が増えていく一方、患者は「副作用が起きないこと」を希望する割合が増える傾向があり、患者と医師では治療への期待に相違があることがわかった。

石郷岡氏

◆研究代表者である石郷岡純先生氏の今回の調査結果についてのコメント
 病期によっては、患者さんと医師で症状、社会機能、治療に期待することにおいてやや違いが見られたが、全体として、患者さんと医師の間で大きな違いが見られなかった。
 両者に違いが見られた職業評価・対人関係などの社会機能に関しては、患者さんが楽観的にとらえている、あるいは患者さんにとって症状、社会機能の回復の目標がイメージできていない可能性が示唆された。
 患者さんに対してうつ病の社会機能についての知識を浸透させるための啓発、および医師においてはスムーズな社会復帰のために患者さんと医師の間で認識に差があることを理解した上で診療に臨むことが期待される。

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