目の周りの皮膚老化の肌機能低下を取り戻すトリガーとなる研究成果発表  エスティローダー

 エスティローダーは17日、マイクロRNA「miR-146a」の減少によるコラーゲンの低下と「miR-146a」発現を増加させる特定の植物エキスを発見したと発表した。この研究成果は、目の周りの皮膚老化に対し、肌の機能低下を取り戻すトリガーとなる方法の開発につながるものとして注目される。
 同研究成果は、第79回米国研究皮膚科学会議のメカノバイオロジーに関するバーチャルシンポジウムで報告された。
 眼窩周囲の繊細な皮膚は、絶え間ない微小運動(マイクロムーブメント)による物理的ストレスに晒され、特にその影響を受け易くなっている。
 エスティローダーの研究所では、独自に開発した特殊なアイストレスシミュレーターを用いて、微小運動が皮膚細胞の活動に、①マイクロ シグナル分子miR-146aレベルの低下、②炎症の増加、③コラーゲンおよび細胞数の減少のの3つの変化をもたらすことを発見した。
 さらに、皮膚細胞をin vitroで特定の植物エキスにより処理したところ、細胞数やコラーゲン産生量の増加などが見られた。これは、細胞が若々しい生物活性を取り戻すことにより微小運動の影響を抑えようとする反応であると考えられる。
メカノバイオロジーとは、細胞が生み出し、経験する目に見えない物理的な力が、体の組織の形態や機能をコントロールする分子や細胞の活動に対してどのような影響を与えるかを研究する学問である。
 細胞は、周囲の環境と常に対話している。これまでの細胞に関する科学研究では主に化学的な要因に注目してきたが、メカノバイオロジーでは、細胞が周囲の物理的な力も感知しており、この情報を用いて行動をコントロールし、周囲の力に耐えられるようにダメージを減らそうと反応を試みることがわかっている。 このメカノバイオロジーは、顔の皮膚、特に常に動いている眼の周りの皮膚と深く関わってくる。まばたきのような反復する動作がもたらす皮膚細胞の歪みは、その皮膚細胞の生物学的な性質を変える物理的なきっかけとなる。
 表情による動きに加えて、まばたきだけで毎日約1万~2万回もの肌の動きが発生する。こうした眼筋の収縮と弛緩の繰り返しは、やがて皮膚の細かな小ジワやヨレとして現れ、細胞の喪失や、細胞を支えるコラーゲン マトリックスの破壊につながり、最終的にシワとなる。
 こうした明らかな影響が眼の周囲に現れるのは、この部分の皮膚が顔の他の部分に比べて約40%も薄いという事実に因るところが大きい。
 このため、眼窩周囲のシワは顔の他の部分よりも早くできる傾向にある。だが、こうした微小運動やそれに伴う物理的な歪みが皮膚細胞の動きや機能に及ぼす影響については、ほとんど報告されていなかった。
 エスティローダーの科学者たちは今回、新しいモデルを開発することで、従来のin vitro研究手法の限界の突破を可能にた。この新モデルは、微小運動によって生じる物理的ストレスに対する皮膚細胞の動きや反応を理解する一助となるだろう。
 エスティローダーの研究者は、微小運動が皮膚細胞に及ぼす生物学的影響を明らかにするため、異なる年齢層(19歳、42歳、62歳)の皮膚線維芽細胞をin vitro(試験管内)で培養し、新たに開発したアイストレス シミュレーターを用いて、まばたきが繰り返された際に細胞が経験する物理的な動きを再現した。


 若年者の皮膚細胞に繰り返し張力がかかると、細胞はこの動きに適応し、ストレスによって引き起こされるダメージを最小限に抑えるために物理的な伸びの方向に対して垂直に向きを変えた。若い細胞は、21 時間のまばたきシミュレーション(1万8900回のまばたき)後、向きを変えることができたが、細胞の加齢とともにこうした適応変化は明らかに減っている。
 また、まばたきシミュレーションは細胞数の著しい減少を引き起こした。まばたきの回数が増えるにつれ細胞数の減少が顕著になり、この現象はすべての年齢層の細胞で観察された。
さらに、これらの細胞においてIL-8(インターロイキン-8)などの特定の炎症性サイトカインのレベルを測定した。IL-8は、外部からのストレスに反応するときに皮膚細胞によって産生される物質で、炎症を引き起こすシグナル伝達カスケードにおいて重要な役割を果たしている。
 まばたきが皮膚細胞の炎症反応に及ぼす影響を定量化するため、異なる年齢層の細胞をアイストレスシミュレーターに配置した。まばたきの持続時間の長い状態を再現したシミュレーション下に置かれた細胞は、より多くのIL-8を発現した。
 この結果はすべての年齢の細胞で明確で、まばたきの微小運動が細胞の損傷を誘発し、炎症カスケードの一因となっていることを示す。加えて、反復運動やそれによる炎症が、細胞外マトリックスの損傷を引き起こすということも分かった。
 若年者の皮膚線維芽細胞においてアイストレスシミュレーターでまばたき(1万0800回)を再現した結果、コラーゲンレベルが大幅に減少した。
 エスティローダーの研究者たちはこれまで、特定の生物学的シグナル分子であるマイクロRNA、miR-146aの減少が、コラーゲンの減少など目に見える皮膚のエイジングサインにつながる、自然な細胞の変化に関連していることを明らかにしてきた。
 これらの発見と一致するように、今回のまばたきのシミュレーション下において、若年者の年齢層の皮膚線維芽細胞でmiR146aのレベルが有意に低下した。
 さらに重要なことに、皮膚線維芽細胞のmiR-146aの発現を高めることがすでに判明している特定の植物エキスが、まばたきのシミュレーションによるコラーゲンの減少について完全に緩和させることが分かった。
 コントロール細胞(未処理の細胞)と比較して、植物エキスで処理した細胞は、まばたきのシミュレーション後でもコラーゲンレベルが高かったことが明らかにされた。

◆Dr.ドナルド E. イングバー氏(ハーバード大学BiologicallyInspired Engineeringウィス研究所創設博士、同大学医学部教授、ジョン A. ポールソン工学応用科学大学院生体工学教授)のコメント
 こうした物理的な力は、細胞や組織、臓器の健康と機能をコントロールする上で、化学物質と同じく重要なものである。実際、我々の体全体は、常にこれらの物理的な合図を感知し、反応している。このことはとても重要である。
 筋肉細胞を含む、すべての細胞は、物理的な張力の発生や変化に晒されている。すなわち、我々の体の組織は体の内側からのプラスまたはマイナスの影響を受けている。
 エスティローダーの科学者の今回の研究成果は、素晴らしいものと言える。生物学では、すべてのことに相互に影響しあう多くの調節因子のネットワークが関わっており、それにより組織の複雑な反応をコントロールしている。彼らの見つけたマイクロRNAは、加齢に伴いさまざまな機能が低下する肌において、コラーゲンの再構成や細胞の成長をコントロールするのに関わるネットワークの重要な伴であると考えられる。この発見は、肌のバランスを取り戻す可能性をもたらす、一連の変化のトリガーとなる方法を提供してくれるだろう。

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