「テネリア錠」(一般名:テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物錠)は、田辺三菱製薬が創製した日本オリジンのDPP-4阻害薬で、2012年9月に上市された。その後も同社は、患者のさらなる利便性や服薬コンプライアンスの向上を目的に、口腔内崩壊錠(OD錠)の開発を推進。本年、6月18日、DPP-4阻害薬初のOD錠「テネリアOD錠20mg、同錠40mg」を新発売した。
テネリアは、発売以来約10年を経過したが、この機会にこれまで培われてきた有用性と安全性に関するエビデンスを検証するととともに、OD錠への期待に言及したい。
DPP-4阻害薬は、その有用性や安全性から一般的に広く2型糖尿病治療で使用されている。テネリアも同様に作用メカニズムは、食事に応答して消化管から分泌されるインクレチンホルモンのひとつであるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)を分解する酵素DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)の働きを選択的に阻害して、活性型GLP-1の分解を抑制し、その血中濃度を増加させることにより血糖降下作用を発揮する。
DPP-4阻害薬の一般的な特徴では、GLP-1は血糖値に応じて分泌量が変わるため、血糖値が高い時にGLP-1は分泌されるので、DPP-4阻害薬単剤では低血糖が起こり難い。
また、DPP-4阻害薬は、血糖コントロールを安全に行う観点から、2型糖尿病治療において世界的にも一定の地位を築いた薬剤である。
特に、アジア人に関しては、「その効果がより期待できる」との報告もあり、日本でもDPP-4阻害薬は、多くの医療現場で繁用されている。
Y Gキムらの「アジア人と非アジア人の間のジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤のグルコース低下効果の違い:系統的レビューとメタ分析」(出展:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23344728/)では、アジア人2型糖尿病患者ではBMI<30kg/m2でインクレチン関連薬がより有効であり、DPP-4阻害薬はBMIが低いほど(痩せているほど)有効であると報告している。
その中で、テネリアは、腎機能が低下した患者に投与する時も減量の必要がなく、堅固な“J-shaped”構造により、持続的に安定した確実な血糖コントロールができるDPP-4阻害薬として、糖尿病治療に寄与している。
田辺三菱製薬が創製した日本オリジンのDPP-4阻害薬のテネリアは、ドラッグデザインの様々な工夫により編み出された持続的に安定した5つの環がつながった“J-shaped”構造というユニークな構造式を持つ「持続性の優れた薬剤」として開発された。
DPP-4には、GLP-1など基質のアミノ酸が結合する特異的なポケットが数種類存在することが知られ、基質のアミノ酸がそのポケットにはまることで基質を切断する。DPP-4阻害薬は、結合ポケットの違いにより3つのクラスに分類される。
テネリアは、S1、S2、S2拡張ポケットに結合するクラス3に属する薬剤で、独自の“J-shaped”構造により、DPP-4のS1、S2、S2拡張ポケットにしっかりと結合する。
同剤は、作用の強さと持続性から、1 日1回の経口投与によって、毎食後の血糖並びに空腹時血糖を改善する効果が認められている。Tenereはイタリア語で「保つ」、Liaisonはフランス語で「つなぎ」を意味し、商品名の「テネリア」には、1日1回投与により24時間効果を持続することで、「糖尿病治療の目標への懸け橋になる」願いが込められている。
テネリアは、“J-shaped”構造による安定性に加えて、腎臓だけでなく肝臓などの代謝排泄経路を持つ薬剤であり、優れた創薬技術が評価され、日本薬学会の「薬学部会賞」や、発明協会の「発明賞」を受賞している。
テネリアの通常投与量は20mgであり、2012年には「テネリア錠20mg」が発売され、2018年から「テネリア錠40mg」が発売されている。
さらに、本年6月、高齢の患者や嚥下機能が低下した患者、水分の摂取制限が必要な患者のさらなる利便性や服薬コンプライアンス向上を目指して、「テネリアOD錠20mg、同錠40mg」が上市された。
発売後、約10年を経過したテネリアは、豊富な国内エビデンスを蓄積している。特に、2019年に発表された1万例を超える特定使用成績調査のRUBYスタディでは、最長3年間にわたって日本人におけるテネリアの有効性・安全性が確認されている。
RUBYスタディは、テネリア錠20mgの使用実態下における長期の安全性および有効性について検討した特定使用成績調査である。対象は、2013年5月から2015年2月の期間にテネリア20mgを初めて服用した2型糖尿病患者1万1677例で、安全性解析対象症例数は1万0696例であった。 方法は、テネリア20mgを1日1回経口投与し、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら40mgを1日1回まで増量可とした。登録患者を、2018年8月まで、最長3年間にわたり追跡した結果、日本人におけるテネリアの有効性・安全性が確認された。同スタディでは、多数の高齢者や腎機能が低下した患者に対する安全性も確認されている。
テネリアは、韓国やタイでも発売されており、海外の様々な臨床試験の論文においても有効性と安全性が確認されている。田辺三菱製薬では、今後もアジアを中心にテネリアのグローバル販売を展開していく意向を示している。
ここで、今話題のGLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬との使い分けにも触れておきたい。GLP-1受容体作動薬は薬剤により異なるが、心血管イベント抑制効果が報告されており、様々なガイドラインでも推奨されるようになってきた。一方、DPP-4阻害薬は、少なくとも心血管イベントを増やさないというエビデンスは多くの試験で証明されており、安全に使える薬剤であると考えられる。
また、心不全に関してはGLP-1受容体作動薬でもニュートラルとの報告が大半を占めており、両者に大きな違いはないと思われる。GLP-1受容体作動薬は消化器症状の有害事象が多く、また、体重減少効果があることから、BMIが高い場合はGLP-1受容体作動薬を、低い場合にはDPP-4阻害薬を優先的に選択する使用方法も考えられる。
さらに、DPP-4阻害薬であるテネリアは1日1回の経口投与という事で、投与経路の違いや使い勝手という面でも注射薬のGLP-1受容体作動薬と使い分けされるだろう。
糖尿病におけるテネリアOD錠の意義
糖尿病患者は、高齢化やポリファーマシーにより、服薬アドヒアランスが低下傾向にある。服薬アドヒアランスの改善では、OD錠に期待するところが大きい。
高齢者の服薬アドヒアランスの向上のみならず、嚥下機能が低下した患者や水分摂取制限が必要な患者も、OD錠によってその課題が解決できる。実際、薬剤が喉から胸につかえたという経験がある高齢者において、OD錠が望ましいというアンケート調査結果があるため、テネリアOD錠は意義深いと言えよう。
田辺三菱製薬ではこれまで、テネリアの錠剤に製品名を印字するなど、患者や医療従事者の利便性を向上する工夫を行ってきた。
DPP-4阻害薬初OD錠の開発もその一環で、テネリアのOD錠化を実現した。
その根底には、同社の「服薬アドヒアランスの改善や、患者に対する選択肢の提供、少しでも飲みやすさに貢献したい」との強い思いが横たわっている。
テネリアは、一日1回どのタイミングでも服用できるので、OD錠化によってより患者のライフスタイルに合わせた服用が可能になった。
その一方で、「糖尿病患者がたくさん薬を服用する中で、OD錠が1剤だけ入ってもあまり意味がないのでは」という指摘もある。
だが、OD錠は、服用性を良くする薬剤であるため、実際、「他の薬剤と水で服用した場合、喉を通過する前に口の中で溶けるので飲みやすい」という報告がある。さらに、「ポリファーマシーの患者では、1錠でもOD錠になれば、飲みやすくなる」という評価もある。
また、水分の摂取制限が必要な患者や、多忙で飲み忘れの多い患者に対しても、少ない水や水無しで服用できる点でアドヒアランスの向上に繋がる。
服薬指導では新型コロナ感染に伴うシックデイにも留意
糖尿病患者の服薬指導で特に注意を要するのは、治療中に発熱、下痢、嘔吐、食欲不振のため食事が取れなくなるシックデイである。
テネリアを始めとするDPP-4阻害薬は、比較的低血糖を起こし難い薬剤ではあるが、低血糖についても留意するよう心がけたい。
また、テネリアを服用する際は、飲み忘れた時の対処や低血糖症状があらわれた際の対応等のために、指導箋を配布することも忘れてはならない。