新型コロナ感染症早期終息に最優先で尽力  塩野義製薬手代木功社長

新型コロナワクチンは年内供給開始を目標に

 塩野義製薬の手代木功社長は10日、Webによる2021年3月期決算説明会で会見し、「新型コロナワクチンの年内供給開始に向けて、エビデンスの構築と生産の増強、規制当局・省庁との協議を継続していく」考えを強調した。
 さらに、「これから年末までの6カ月間を新型コロナ感染症への取り組みの山場」と位置づけ、「純国産ワクチンや低分子治療薬を中心に、診断薬や検知・流行予測も含めた開発を推進し、新型コロナ感染症早期終息に最優先で尽力する」と訴え掛けた。
 塩野義製薬では、BEVS技術による遺伝子組換えタンパクの新型コロナワクチン開発を推進している。同ワクチンは、抗原のデザインそのものが完了しているため、「変異株への対応も難しくない」 現在、 国内P1/2試験実施中で、これと並行する形で第一期生産体制構築が完了し、増産に向けた第二期工事へと移行している。手代木氏は、「新型ワクチンの年内供給開始に向けて、第一期生産体制が構築されたのは非常に大きい」と自負する。
 今後は、「日本人が期待できる十分な有効性・安全性が担保できるということで、中和抗体生成、細胞性免疫の誘導、日本人における安全性の積み上げをベースにした大規模P3試験を実施しながら、市販後調査実施を前提とした“条件付き承認”を国に働きかけていく」方針を明かした。
 また、同社のワクチンは、冷蔵保存かつ1人1バイアル( 現状のワクチンは5~10人に1バイアル )の規格で製造されるため、「通常の流通ルートで開業医に届けられるので、ほぼ全例の市販後調査ができる」との見解を示した。

新型コロナワクチンは5~10年単位で毎年摂取を予測

 新型コロナワクチンの毎年接種の必要性についても言及し、「現時点」と限定した上で「5~10年の単位で毎年摂取しなければならない」との考えを示した。
 ファイザーのワクチンは6カ月程度抗体が保持されるが、変異の早い新型コロナウイルスに対してどの程度体内で作られた抗体が効果を示すのか、あるいは細胞性免疫がどの程度継続できるのかは定かではない。こうした中、手代木氏は、「コロナ禍の影響が非常に大きい現況を鑑みると、当面の間は、一冬に1回、または2回程度の接種が必要になるだろう。毎年接種しなければならないとなると、通常の医療の中でワクチン接種が組み込まれる重要性がより増してくる」と断言する。
 加えて、現況のワクチン接種では、「2回目の副反応がかなりきつい」との報告があり、「3回目、4回目のワクチン接種で副反応がどうなるのかをきちんとチェックしいていかねばならない」と指摘する
 現在は非常事態のため、集団接種や各医療機関に5~10人集めて1バイアルを開けるワクチン接種方法が余儀なく実施されている。だが、今後、何年もワクチン接種を続けるとすれば、希望者一人でもワクチンを打ってもらえる“通常の医療に則ったワクチン供給”が重要になるというわけだ。
 手代木氏は、「わが国において、2年目、3年目、4年目の新型コロナワクチンの維持を考えると、国産ワクチンが不可欠になる」と断言する。さらに、「日本特有の変異株が発生した時に素早く対応するためにも、国産ワクチンは欠かせない」と述べ、国産ワクチンの重要性を訴えかけた。
 一方、新型コロナ感染症治療薬は、「変異株対応も見据え、強みとする低分子創薬から選出された細胞内でのウイルス複製を防止する経口の有望化合物を1stランナーとして開発する」と報告。
 さらに、「ファイザーのプロテアーゼ阻害剤は、本年3月に臨床試験を実施し、9月~10月の実用化を目指している。当社の治療薬も、今年度内に勝負を付けたい」と語った。
 新型コロナ感染症における無症状・軽症患者の重症化抑制では、BioAge社による米国・ブラジル・アルゼンチンでの高齢者を対象としたasapiprantのp2試験を開始した。同剤は、「海外での治験成績をもとに、国内開発を判断する」
 新型コロナ感染症の重症化を予測できるHISCL TARC試薬(診断マーカー)では、「重症化に至る患者を早期に見極めるのが難しく、入院・隔離患者の増加による医療崩壊のリスクが顕在化している」と指摘。
 その上で、「陽性患者の血清中TARC値の測定により、注視すべき患者を予測し、経過観察することで、医療資源の有効活用が可能になる」と説明した。同試薬は、本年4月16日に、重症化予測の補助を使用目的とする適応追加承認申請を実施している。
 同社では、北海道大学、RBI、iLACと協力してCOVID-19の流行状況や収束判断、変異株の侵入・発生動向を早期に検知する「下水中のSARS-CoV-2の検査体制」も構築しており、6月中のサービス提供開始を予定している。

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