マゴットセラピーのためのハエの幼虫を独自技術で提供 ジャパンマゴットカンパニー

糖尿病等での足切断患者の 一人でも多くの 救済目指して

 岡山大学医学部発のベンチャー企業であるジャパンマゴットカンパニー(本社:岡山市)は、ハエの幼虫(マゴット)を用いたマゴットセラピーという治療を行うため、医療機関などに独自の技術開発で管理された幼虫を提供している。
 国内産の医療用マゴットを生産し、病院や診療所と連携しながら、糖尿病の合併症や高血圧、腎不全の影響で足が壊死した患者、やけどなどで負傷した部位などにマゴットセラピーを実施し、一人でも多くの患者を救うために国内での発展を促進している。
 ハエの幼虫、つまり一般に「うじ虫」と言われている虫だが、そう聞くと「えっ!」と感じる人もいるかもしれない。だがこのうじ虫、いやマゴットが我々の命を守る働きをしてくれる。
 2004年、ジャパンマゴットカンパニーは岡山大学医学部において、オーストラリア産ハエ幼虫を使用したマゴットセラピーを実施した。「マゴットセラピー」とは、古来より傷の治療方法のひとつとして利用されている手法だ。
 傷口に意図的にハエ幼虫をわかせることで傷治療を行う。抗生物質と外科治療が発展する第2次世界大戦以前までは、世界中の医療機関において傷口治療の有用な方法としてマゴットセラピーは導入されていた。
 現代においては、抗生物質の効かない感染症の潰瘍が出現し、このマゴットセラピーの有用性が再注目されている。イギリスやアメリカでは、保険診療としてマゴットセラピーが活用されている。日本国内では、自由診療として扱われており国内の事例はまだまだ少ないのが実情だ。

マゴットセラピーによる壊死部分の除去。足の切断を回避する方法としてマゴットセラピーが注目されている


 ジャパンマゴットカンパニーは、国内産の医療用マゴットを生産し、病院や診療所と連携しながら、糖尿病や腎不全の影響で足が壊死した患者、やけどなどで負傷した部位などにマゴットセラピーを実施している。
 実施には、病院などの医療機関の倫理委員会の承認を受け、また医師が患者に対して治療方法についての十分な説明を行い、患者の同意を得る「インフォームドコンセント」を経た後に実施される。

マゴットセラピーやビーフライに用いられるヒロズキンバエ。マゴットセラピーにはヒロズキンバエの幼虫(マゴット)を使用するがジャパンマゴットカンパニーの技術で無菌である


 マゴットセラピーの長所には、①禁忌症例がほとんどない、②麻酔が不要である、③副作用がほとんどない、④壊死組織のみ(死んだ蛋白質)が除去されるーなどが挙げられる。もちろん、患者が痛みを感じることはないうえに、処置は虫が24時間不眠不休で処理し続ける。なお、治療に使用されるマゴットは医療用の無菌のマゴットである。
 この無菌にする技術がジャパンマゴットカンパニーの持つ優れた技術のひとつでもあり、これによりマゴットからの感染という点を防ぐことができる。
 糖尿病によって壊死した足などを切断することは誰もが避けたい。できることなら切断せずに壊死した部分のみが綺麗に無くなればいいと考える。マゴットセラピーは、この願いを叶えるひとつの方法だ。

ハチ不足を解消! ハチより扱いが簡単な農業用受粉ハエも開発

 ジャパンマゴットカンパニーでは、マゴットセラピー用ハエ幼虫製造に加え、農業向けのハエ活用として、受粉用ヒロズキンバエ(ビーフライ)製造事業を展開している。

花粉媒介昆虫としてのヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)を利用したイチゴの促成栽培の例。イチゴ以外にマンゴーなどでも利用できる利点がある


 2008年頃より、農業では世界的なハチ不足により作物の受粉に欠かせないハチが手に入らない状況が続き、価格高騰が起き、農家は大きな被害を受けた。そこでジャパンマゴットカンパニーは、医療用ハエの製造技術を応用し、ハチと同様に花粉媒介昆虫であるハエを新しいハチとして提案した。「ビーフライ(BEE FLY)」とは、「ハチ(BEE)のように働くハエ(FLY)」から命名されている。
 ハエの活動温度帯は10~35℃と、ハチの15~25℃に比べて活動温度帯が広く、紫外線がなくても活動する。また、ハチは雨天や曇天時は活動しないが、ハエは天候に左右されることなく働くことができる。さらにサナギの状態での入荷が可能で、人に刺さないことから取り扱いがハチと比べて簡単であることが大きな利点として挙げらる。
 多くの農家からハチ不足の解決法として注目され、現在、ビーフライの導入農家は500軒を越え、その出荷は1000万個を越えている。このようにジャパンマゴットカンパニーでは、近未来型農法として注目されているビーフライの研究開発を促進しており、多種多様な企業などとの共同研究を強く求めている。
同社は、古来より傷口治療に有効なマゴットセラピーとハチより扱いが簡単な農業用受粉ハエを独自技術で開発し、SDGsにも貢献する新たな価値の提供を目指す。

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