10月9日の閣議後にウェブカメラを介したオンライン診療の初診の恒久的な解禁が発表されました。当院でも数年前から導入していますが、個人的には今回の解禁で劇的に何かが変わるとは考えていません。
新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)流行前までは、オンラインの保険診療は再診のみ可能で、例えば風邪をひいた、急にお腹が痛くなった等の初診では使えませんでした。
医療機関でのコロナ拡大防止策としての、今年4月の暫定的な初診認可を第一次解禁とすると、今回の恒久的な認可は第二次解禁と言えます。
第一次解禁直後に、これは収益アップにつながるかと浅ましい考えがよぎったのですが、実際はそうでもありませんでした。その際はカゼ症状でオンライン診療を希望する方が増えましたが、ご心配は主にご自分がコロナかどうかでした。直接対面診察をしても検査しない限りは確定診断ができない病気です。カメラ越しに顔を見たところで分かるはずもなく、お役にたてることはあまりないのです。
実際にできたのはカウンセリングのみで、それも「今のところ心配は低そうですが、もっと調子が悪くなったら保健所に連絡してください。」と言うしかありません。薬も詳しい診察もしないで安易に処方できるものでもありません。
それを繰り返すうちに虚しく、心苦しくなり、予約が入ると予診票を読んで、コロナが心配と言う方には正式な診察前に無料のチャットシステムで「具体的にお役に立てず結局保健所へのご連絡をお願いするだけで診察料をいただくことになってもよろしいですか?」と尋ねることにしたところ、大半の方は診察をキャンセルしてくださいました。
対応したのは、それでもいいからとにかく医師と話をしたい、コロナに関する詳しい情報が欲しいという方だけになりました。病気の詳しい情報が欲しいという明確な目的があれば、オンライン診療によるカウンセリングも悪くありませんが、多くの急性疾患への対応はなかなか難しいものです。
熱のある人は当然コロナ以外の病気も、お腹が痛い人は場合により虫垂炎も考えなければなりませんし、のどが痛い人は溶連菌の検査も考慮しなければ、必要かつ適切な治療には繋げられません。
結局ウェブカメラがあったところで電話だけよりましになるのは、見るからにしんどそうか、顔色・表情はどうか、肩で息をするような呼吸困難がありそうかが分かるぐらいです。
急病の診療ツールとしては不十分と言わざるを得ず、それにより責任をもって大丈夫ですと言えるケースはほとんどないのが実情です。よほど豪気な医師なら気にしないかもしれませんが、少なくとも私にとっては大変なストレスになりますので、これによる急性疾患の初診数の増加はあまり望むところではありません。
一方、活用法が少し見えてきたのは、当方の得意分野のケガややけど・皮膚トラブルの診療です。ウェブカメラの解像度では実際の状態の観察は難しいのですが、システム内の機能できれいな写真も事前に送ってもらえますし、実際にどのような治療材料を用いて、どのような処置をすればよいかはライブで指導出来ます。
今回一番お役に立てたと感じたのは、赤ちゃんのお尻の皮膚炎でした。一週間他で貰った薬をつけても改善せず、再診の指示はうけているが、コロナ拡大の中を外出したくないという当院初診の方でした。ウェブカメラではよくわからず、ちゃんと撮った写真を転送してもらうと典型的なカンジダ皮膚炎で、すぐに塗り薬をご自宅近所の薬局にファックスし、その日のうちに塗り始めてもらい5日後の再診の際はきれいに治っており、とても感謝していただきました。
今後初診のオンライン診療に関しては、内科的な急性疾患よりも、外科的・皮膚科的疾患での運用に重点を置いて行きたいと考え始めています。