アイトラッキング式認知機能評価法の実用化が順調に進捗 アイ・ブレインサイエンス

左から武田氏、森下氏

 大阪大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の森下竜一寄附講座教授や武田朱公寄附講座准教授らの研究グループが開発した世界初の「アイトラッキング式認知機能評価法」の実用化が、順調に進捗している。
 同評価法は、数分間映像を眺めるだけで、その視線の動きから低ストレス、簡易、客観的に認知機能を簡便に評価できるのが特徴で、認知症の早期発見・予防への活用に期待が大きい。今後の開発スケジュールは、医療機器のソフトウェアとして本年12月末より臨床試験を開始し、2022年の上市を目指す。
 また、一般用スクリーニングのアプリとしては、既に、介護施設での試験的な活用が始まっており、今後、スポーツジム、保険会社、食品会社、薬局なへの活用先拡大を図っていく。アイトラッキング式認知機能評価法は、認知機能検査だけでなく、ADHDやうつなどの神経系疾患や、他の疾患領域への応用も可能で、製薬企業を始めとする共同研究の相手を幅広く募集して同領域の評価法の開発を推進する。


 アイトラッキング式認知機能評価法は、図形などの認知機能評価タスク映像を提示し、視線検出技術を用いて被験者の目の動きを定量記録するソフトで、iPadの画面を3分間眺めるだけで認知機能が評価できるシステムだ。

(図1)


 より信頼性の高いスコアリングを行うための工夫として、アイトラッキングの精度が十分かどうかをアプリが自動的に確認した後に検査がスタートし、結果が出てくる。結果画面は、記憶力、判断力などのスコアがレーダーチャートの形で示され、バランスが判る。また、実際の目の動きがプロット図で判る仕組みになっており、それぞれのスコアが脳のどの機能を現わしているのか図で示される(図1)。これらのデータを自動解析して、高精度の認知機能スコアが短時間で算出される。
 武田氏は、「個々人の経時変化を自動的に記録するため、現在と数ヶ月前の数字を簡単に比較できるのも特徴の一つである。アプリ機能は、昨年の開発時より確実にバージョンアップしている」と話す。
 このアイトラッキング式認知機能評価法の実用化を進めるのが、昨年11月に設立された大阪大学発ベンチャーのアイ・ブレインサイエンス(社長:高村健太郎氏)だ。

高村氏


 同評価法の実用化は、「医療機器のソフトウェア」と「一般用スクリーニングのアプリ」の開発を並行して進められている。医療機器のソフトウェア開発は、従来の認知機能検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)や長谷川式簡易知能評価スケールの設問にある脳の記憶・注意・構成・言語の評価をトレースしたもの。その上で、低ストレス・簡便・客観的・定量的な検査を実現し、現行の認知機能検査と親和性のある製品としての開発を推進している。今年の年末から治験を開始し、2022年内に医療機器製造販売承認を取得した上での販売開始を目指す。
 認知機能検査の従来法は、医師との対面による問診形式で被験者の精神的ストレスが大きく、15~20分程度の長時間を要する。加えて、医師などの専門知識を有する熟練した検査者を必要とするなどの課題がある。
 こうした課題を解決するため、医療機器のソフトウェアの治験は、認知機能検査の従来法との相関を証明することを目的としている。武田氏は、「相関が証明されれば医療機関で使えるようになる」と強調する。」
 また、製造販売取得後の販売方法について高村氏は、「内科系の一般クリニックを中心に考えている。現在、クリニックとのインフラを有する製薬会社との販売ライセンス契約を募っている」と明かす。


 一方、一般用スクリーニングアプリは、“見るだけ”の簡単な検査という特徴をあらわした「MIRUDAKE」(商標登録中)の名称で開発が進んでおり、既に介護施設での試験的活用を開始、1か月後にはスポーツジムでの活用もスタートする。来期は、保険会社、食品会社、薬局なへの活用先拡大を図っていく。
 介護施設での活用について武田氏は、「通所者に対して認知機能をチェックを行うことで、認知症の早期予防や、重点的な見守りによる介護スタッフの労働効率化が図れる」と訴えかける。
 気になる費用について高村氏は、「本アプリはソフトウェアなので、初期費用無しの導入で、使う頻度による課金形式での設定になる」と説明する。
 スポーツジムでは、運動による認知機能維持を目的とする利用者も多く、同アプリの運動効果の客観的評価への活用が期待される。スポーツジムの中には、同アプリによる認知機能検査イベント開催を予定している施設もある。
 保険会社は、認知症のオプションを契約した人、食品会社は会員ユーザーに対するサービス的な使い方での活用で検討が進められている
 超高齢化社会が進む中、地域の薬局は、「健康サポート薬局」としての期待が大きい。従って、薬局店頭で同アプリを活用した認知機能評価は非常に有用性が高いと考えられる。
 森下氏は、「薬局店頭での一般用スクリーニングアプリの活用は、認知症の早期予防・早期受診勧奨に繋がることが大きい」と言い切る。
 さらに、「認知機能に関する製品の販売促進の切っ掛けになる」と指摘し、「本アプリと小型AIロボットを組み合わせて店頭で認知機能をチェックすれば、その結果に応じて顧客に合致したOTCやサプリメント、健康食品をAIロボットが選んでくれるシステムも構築できる」と紹介する。
 認知症予防には、医学的に運動や食事による予防効果が証明されているが、アイ・ブレインサイエンスでは「アイトラッキング式認知機能評価法をプラットホームにして認知症予防に繋がるコンテンツの提供」も予定している。
 薬局でのアプリ使用料については高村氏が、「月額数万円程度になるので、アイ・ブレインサイエンス(http://www.ai-brainscience.co.jp/)まで問い合わせてほしい」と話す。
 そのほか、一般用スクリーニングアプリは、「高齢者の運転免許の適性検査」、「住民健診でのスクリーニング検査」、「公衆衛生の疫学調査」などへの活用が可能である。 こうした活用における母集団データを大阪大学とアイ・ブレインサイエンスで解析し、一般集団の中の平均値を算出して、「被験者がどの位置にいるのか」を提示する試みも実施する。
 さらに、アイトラッキング式認知機能評価法は、映像に簡単な設問を組み込んだ客観的な認知機能検査であるため、言語の介在をあまり必要としない。従って、認知症患者の顕著な増加が予測されるアジア地域を重点とした海外展開を図るため、CEマーキングの取得も進めていく。
 アイトラッキング式認知機能評価法は、認知機能検査だけでなく、ADHDやうつなどの神経系疾患や、他の疾患領域への応用も可能だ。アイトラッキングを用いた評価法は、もともと阪大連合小児発達学研究科の片山泰一氏らのグループが、被験者の目の動きで小児の発達障害を評価するシステムとして開発が進んでいた。その研究からヒントを得て高齢者用認知機能検査が作成された。
 森下氏は、「このシステムをADHDやうつなどの検査法として活用するには、それぞれの疾患に合致した映像の作製がポイントになる。そこさえクリアできれば、システムは基本的に同じなのでipadやスマートフォンで検査が可能になる」と説明する。
 さらに、「精神系疾患の従来の問診検査形式は、30分から1時間の時間を要する。加えて、客観的な精神状態の評価がボトルネックとなっているが、アイトラッキング式機能評価法を用いれば5分~10分でかなり詳しい検査ができる」と強調。その上で、「これらの疾患を対象としたソフトウエアを開発するため、製薬企業を始めとする共同研究の相手を幅広く募集している」と呼びかける。

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