FCAJ(Future Center Alliance Japan)は2日、小泉英明氏(日本工学アカデミー栄誉フェロー)、 安井正人氏(慶應大学GRI所長)による「 COVID-19あるいは新たなパンデミックにおける科学的思考の重要性」を骨子とした緊急提言を発表した。同提言は、8月27日のウェビナー(オンラインによるセミナー)の内容に基くもの。
FCAJでは、本年4月21日及び5月3日のオンラインによるシンポジウム、セミナーで「COVID-19パンデミック」を契機に、変容する今後の社会のあり方として「共感 利他 共通善」が非常に重要であるとの提言を行った。だが、それから3ヶ月超経った今、いまだ混乱から抜け出していない社会を前に改めて、緊急提言を発表したもの。
緊急提言のサマリーは、次の通り。
COVID-19は一過性のものではなく、短期的視野の対応は人類にとって未来のリスクを生むため長距離走を覚悟する必要がある。このリスクに立ち向かうために我々は多くのデータ(ファクト)をベースに「科学的視座」を持ち、ニューノーマルにいち早く備え、確たる「倫理」に基づき行うべきことの優先順位を決めていく必要がある。そのためにも社会と科学の対話の重要性を唱えたい。
◆小泉英明氏
1)大規模分析工場の提案〜経済活動と自粛のジレンマの解決
経済・文化活動を進め、同時に保護(隔離)を適切に進めるためには、高い正確度(Accuracy)で大量の検査を実現する仕組みづくりが肝要である。大規模検査工場(Large Analysis Factory=LAF)は、人々の唾液などの検体や下水試料を集約して、一挙に全自動・廉価なPCR検査や高正確度抗原・抗体検査を迅速に実施する。LAFは緊急時以外にも未来のリスクに柔軟に対応できる社会システムとなり得る。また、IoT技術を使いバーチャル検査工場を急ぎ稼働させる検討も必要だ。
今後、感染爆発を防ぎつつ経済・文化活動を可能にし、弱者が犠牲にならない社会を実現するために、実証基調(Evidence-based)の施策と、一人一人が倫理観と科学的リテラシーを持つことが必要である。同時に、倫理・科学・経済など異分野を横断する社会システムが強く求められている。
◆安井正人氏
2)ポストコロナで変わる医療〜在宅モニタリングを通した予防の医学へ
現在、新型コロナウイルス感染症に対する様々な治療薬・ワクチンが開発されているが、長距離走になる可能性が高い。また、コロナ禍において、「コロナ鬱」や「ゲーム依存」等新たな問題も生じている。
その一方で技術革新により新たな医療の方向性も見えてきた。医者を頼る診断・診療の医療から、新たなIoT技術を駆使し、予防を中心とした「在宅モニタリング」という方向に舵が切られる可能性が高い。そのためには、正確かつ簡易な生体モニタリングの技術開発が必須である。
例えば、我々は身体の3分の2を占める水の動態をモニタリングし、生体システムの変容をデジタル描出する革新的技術を開発することで、感染症の予防診断等も行い、「潜伏期」にウィルス感染を把握できるような社会を目指している。
一方、これらのバイオデータは個人情報をどう扱うかと言う倫理的な課題も内包している。医療・経済・法律など横断的な対話の場がますます重要になってきている。COVID-19は医療におけるイノベーションの契機であると感じている。