患者の年収が前立腺がんの放射線治療選択に影響 日本放射線腫瘍学会

 日本放射線腫瘍学会事務局(JASTRO)は3日、健康成人・前立腺がん患者への調査結果を発表した。同調査は、健康成人と前立腺がん患者を対象に、日本におけるがんに関する知識・リテラシーならびに、治療と関連した生活状況の現状を明らかにすることを目的としたもの。
 放射線治療は、手術、薬物療法と並ぶがんの3大治療の一つだ。近年、がんに放射線を集中させる機器や技術の登場により治療の精度が上がり、「体への負担が少ないがん治療」として注目を集めている。
 だが、日本国内でがん患者に対する放射線治療の施行件数は依然として少なく、がん全体で見ても、2~3割程度にとどまっている。欧米では5~6割に上る患者が放射線照射を受けており、その比較でも隔たりがある。


 今回の「健康成人・前立腺がん患者への調査」は、この要因と影響について、人々のがん治療に関する知識量・リテラシーや、仕事・生活との関係を検証することを目的に実施された。「健康成人調査」では、がんと診断されたことがない20歳以上80歳未満の日本人の男女(3094人)を、「前立腺がん調査」は前立腺がん患者(206人)を対象としている。調査手法は、インターネット調査で、調査実施期間は、本年5月22日~23日の二日間。
 調査結果の主なポイントは、次の通り。


 1.「自営業・パートタイム・アルバイトで働いていた前立腺がん患者で、放射線治療を選んだ人は年収が低下する割合が少ない」
 通院で治療できる放射線治療は、休業に対しての保障に乏しいこれらの人々にとっても年収低下を防いでいる可能性があることが判明。治療の選択が患者の生活の経済的な側面を左右していることが分った。


 2.「手術と比べて、放射線治療と薬物療法に対して良いイメージを持つ人は少ない」


 その一方で、放射線治療のイメージは手術と比べて良くないため、手術と放射線治療の選択肢があった場合、仮に放射線治療の方が適切な場合でも、手術を選んでしまう可能性が示された。


 3.「放射線治療のイメージは、がんに関する知識量・リテラシーと関係」
 放射線治療のイメージはがんに関する「知識量」「リテラシー」と相関関係にあり、がんに関する正しい知識やリテラシーにより、放射線治療へのイメージも変わる可能性があることが分った。


■監修者のコメント
【調査の背景】


 がんは日本人の半数以上が生涯に発症するといわれており、身近な病気の一つである。だが、治療方法により体への負担が大きくなり、仕事やプライベートなど日常生活にも大きく影響を及ぼす可能性がある。そのため、病状はもちろん、ライフスタイルに合わせた適切な治療法を、患者自身が選択できることはQOLを上げるに当たり大切な選択となる。
 射線治療は、体への負担が少なく通院で治療できるため、生活や仕事への影響が少ない治療法である。だが、施行割合は欧米での5~6割に対し、日本は2~3割程度にとどまる。その要因は、日米で罹患するがん種別の割合の違いも推測されるが、医師主導の治療方針決定や手術偏重の考え方、放射線治療の知識不足や放射線治療医の不足などさまざまな理由が考えられる。
 このような中、本調査では、日本における一般の人々の、がんに関する知識・リテラシーが十分でないことが、放射線治療の実施割合の低さにつながっている可能性があるとの仮説を立てた。そこで、インターネット調査を通じてデータを収集し、リテラシーに応じた治療法の印象の差異や、がんの予防行動とのつながり等を検証した。がん患者の治療法選択の過程には、個人的な要因や環境要因、経済的社会的要因などが関係すると考えられており、それらを分析により、治療法の選択の差異が何に起因し、どのような影響を及ぼしているかを明らかにした。
【調査結果から】
 今回の調査では、正社員以外の自営業・パートタイム・アルバイトの前立腺がん患者では、治療法選択時に放射線治療を選択することで、年収の減少を避けられる可能性があるという、患者の仕事・生活に関わる重要なデータが得られた。がんに関する正しい知識とリテラシーを身に付け、放射線治療を活用することで、生活と前立腺がんの治療の両立に役立つ可能性が示されている。
 また、治療法の選択の差により、多くの不利益を被るのは社会的セーフティーネットの少ない人々であるという実態も見えてきた。放射線治療は、このような人々の生活の一助となり、病気により生ずる社会的な格差の克服に寄与すると考えられる。
【がんの放射線治療について】
 がん治療の3本柱は放射線治療、手術、薬物療法である。この中で、手術と放射線治療は、がんの病巣があるところだけに効果を示す局所療法である。白血病などを除く固形がんの完治には、原則、手術か放射線治療の局所療法が必要となる。
 放射線治療の特徴は、早期のがんを切らずに治し、臓器の形態や機能、美容を保てること、副作用が少ない点などが挙げられる。このほか、放射線による治療は通院で受けられることが多く、費用負担も少ないなどさまざまな利点がある。

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