早稲田大学高等研究所の武藤慶講師、および理工学術院の山口潤一郎教授らの研究グループは、パラジウム触媒を用いて、芳香族化合物を壊しながら2つの炭素ー炭素結合をつくる「脱芳香族的二炭素官能基化反応の開発に成功した。
複数の置換基をもつシクロヘキサンなどの脂環式化合物は、三次元骨格をもち、医薬品にも頻出する重要な構造で、医農薬の新規合成法として注目されている。
同研究では、平面構造であるベンゼンなどの芳香族化合物を「三次元構造前駆体」として活用すべく脱芳香族的合成法の開発を目指した。だが、芳香族化合物は、芳香族安定化効果を持つため、脱芳香族化の達成にはこの安定化効果の打破が課題となる。さらに、脱芳香族化と同時に化学修飾する「脱芳香族的官能基化」は、置換基をもつ脂環式化合物の直感的な合成法であるものの、既存法はいくつもの制約を要するため最高難度の分子変換法の一つとされてきた。
今回研究チームは、芳香族化合物に対する触媒的な脱芳香族的官能基化反応の開発を試みた。その結果、パラジウム触媒条件下、ジアゾ化合物とマロン酸エステルを炭素官能基化剤とすることで、ブロモアレーンを脱芳香族させ、同時に2つの炭素–炭素結合を形成する本反応の開発に成功した。複素芳香環を含む様々なブロモアレーンで本反応が効率よく進行する。
さらに、同反応の後に還元や環化反応など種々の化学反応を施すことで、高度に化学修飾された脂環式分子の短工程合成にも成功した。
これらの研究成果は、英国王立化学会誌『Chemical Science(ケミカルサイエンス)』に7月29日(現地時間)に掲載された。