HIV製品の特許切れ乗り越えさらなる飛躍目指して 塩野義製薬新中期経営計画

手代木社長

 塩野義製薬は1日、2030年のビジョンおよび、その達成に向けた成長戦略となる新中期経営計画「Shionogi Transformation Strategy 2030(STS2030)」を発表した。STS2030は、2028年からのHIV関連製品の特許切れを認識して策定したもの。2020年度を起点とする2024年度までの5年間のSTS Phase1、以降2030年度までをSTS Phase 2と位置づけ、ビジネス変革による新たな成長戦略でHIV製品のパテントクリフを乗り越え、さらなる飛躍を目指す。
 STS Phase 1の最終年度となる2024年度経営目標は、売上収益5000億円、コア営業利益1500億円、コア営業利益率30%以上、海外売上高比率50%以上、自社創薬比率60%以上、EPS480円以上、DOE4%以上、ROE15%以上。2030年度は売上収益6000億円、コア営業利益2000億円。
 その間、海外ビジネスの拡大や新規ビジネスの立ち上げなど新たな成長ドライバー事業に5000億円規模の投資を行う。加えて、国内事業投資やIT投資など、既存ビジネスの収益性向上に向けた事業投資の積極化も図り、研究開発費は過去5年比で20%以上の増額を見込んでいる。
 東京で開かれた中期経営計画説明会で会見した手代木功塩野義製薬社長は、「我々を取り巻く環境の変化は大きくて早い。ITの進化等で2030年には患者・医師がどのような環境変化を受けるのかを考え、我々は社会の変化に伴うSDGsへの貢献を踏まえたヘルスケアを提供しなければならない」と言い切る。その上で、「今回の新型コロナ感染症も、それを気付かせてくれた。妥当なサービスをどのくらいの価格で提供するのかが大きなポイントになる」と、STS2030のバックグラウンドとなる考え方を説明した。
 STSPhase1での塩野義の目指す方向性として、「自社の創薬型製薬企業としての“強み”を磨き続けて、異なる強みを持つ他社・他産業化から選ばれる存在となり、ヘルスケア領域の新たなプラットフォームを構築し、ヘルスケアプロバイダーとして新たな価値を社会へ提供する」を掲げる。
 従来の医療用医薬品を中心に提供する「創薬型製薬企業」から、ヘルスケアサービスを提供する「ヘルスケアプロバイダー」へと変革し、社会に対して新たな価値を提供し続けていく。
 STS Phase 1では、グループ一丸でビジネスの変革を強力に推し進め、「Transformation」の具現化に取り組む。手代木氏は、その具体的な戦略として、①新たな価値創造に向けた「R&D戦略」②「トップライン(売上)戦略」③価値創造を実現するための「経営基盤戦略」ーを挙げる。
 「R&D戦略」では、「感染症、精神・神経疾患をコア疾患に経営資源を集中」する一方で、「がん領域など社会的ニーズの大きい疾患に対する挑戦を継続し、アライアンスの活用も含めて創製・獲得したパイプラインの潜在的価値に応じて柔軟かつ大胆に注力プログラムの優先度を変更していく」
 現在、注力している8つのパイプラインには、「制御性T細胞阻害剤」(抗腫瘍効果)、「S-005151」(表皮水疱症、急性脳梗塞など)、「S-600918」(難治性慢性咳嗽、神経障害性腰痛など)、「S-637880」(精神・神経系疾患)、「S-8122187」(うつ病)、「S-540956」(免疫療法有効性向上プラットフォーム)、「BPN14770」(認知機能改善)、「S-874713」(依存症など)ーがある。手代木氏は、「中計期間中にはこれらのうち3~4つは出てくる。また、ポストコロナは、認知症との戦いになる。精神神経疾患も間違いなく増える」との見解を示す。
 こうした中、認知機能改善薬(BPN14770)について、「Tetra社が実施した臨床試験は、MCIと軽度のアルツハイマーの患者が半分ずつ入っている。試験期間は13週と短かったが、高用量における軽度のアルツハイマーで統計的な優位差が出るほどの効果が示された」と強調。さらに、「国内で、きちんと服薬ができているかや画像診断などを行ってじっくりと見れば、相当面白い結果が得られると思う」と大きな期待を寄せた。

 また、がん領域については、大きな長所として「抗CCR8抗体とそれを強化するアジュバント」を指摘し、「多剤併用治療が行われているがん領域において、1剤、2剤を持っていてもエースにはなれない。我々の有する剤を最大限活用できる組み合わせを考慮しながらパートナーを探しを進めて行く」方向性を示した。
 「トップライン戦略」は、①疾患戦略②グローバル戦略③パートナリング戦略ーを柱とする。新たなトップライン戦略として「最適な疾患戦略を地域に応じたパートナリングを通して実現する」を指針に掲げて、同社の重点疾患である感染症、精神・神経・疼痛疾患をベースに、日本・米国・中国を強化地域として取り組んでいく。なお、2024年度の海外売上高比率50%の内訳は、欧米と中国・東南アジアで半々を見込んでいる。
 その中で、グローバル戦略は、国内では「インフルエンザ疾患戦略による拡大」、「ADHD疾患戦略の実行」、「ワクチンビジネスへの参入(日本から世界へ)」を推進する。
 米国は、セフィデロコル(シデロフォアセファロスポリン抗菌薬)をベースに、持続的かつ収益性のある病院・専門医事業を確立。M&Aや新しいビジネスモデルによる成長を目指す。
 中国は、中国平安保険グループとの協業によるビジネス基盤を構築し、OTCも含めた既存の医薬品販売や、ジェネリック、新薬開発も視野に入れた事業を展開する。
 「経営基盤戦略」については、「STS Phase 1でTransformationの具現化を早期に実現するには、ダイナミックな経営基盤改革が必要不可欠である」と力説。その根幹を担うエレメントとして「変革の仕組み」と「人材の成長」を挙げた。株主還元政策は、「安定的な配当」、「自己株式取得等を通じた機動的な還元」を実施していく。
 手代木氏は、現在のロイヤリティが主流を占める収益構造にも言及し、「今後、パテントクリフの影響を軽減させるため、自社開発・自社販売4、ロイヤリティ4、その他サービス2の割合に移行していきたい」考えを明らかにした。
 新型コロナウイルス関連では、治療薬は「デムデシビルは、毒性用量と薬効用量が極めて近い。当社は毒性用量と薬効用量のセパレーションが大きい化合物を同定しており、より強い効果が期待できる」とし、「年内に臨床試験を開始する予定にある」と報告した。
 ワクチンも「来月の後半から物作りに入って、出来上がり次第動物実験を行い、年内の早い時期に臨床試験を開始する。このまま製造設備投資が順調にいけば、来年1月以降1000万人分の供給が可能になる」と明言した。
     

タイトルとURLをコピーしました