開発品進捗で会社の価値を高め早急に再度上場申請へ ファンペップ三好稔美新社長に聞く

三好社長

 「市況状況が悪かったので、昨年末に上場申請を取り下げた。今後は、パイプラインの開発をより進捗させて会社の価値をさらに高め、できるだけ速やかに再度上場申請してマザーズ上場を目指したい」開口一番、こう力強く抱負を語るのは、本年1月23日に「ファンペップ」(大阪府茨木市)の新社長に就任した三好稔美氏だ。ファンペップは、昨年12月20日にマザーズ市場での新規上場を予定していたものの上場申請を取り下げ、今後の動向が注目される。そこで、三好新社長と、ファンペップ創設者で同社科学技術顧問の森下竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄附講座教授)に、再度上場申請に向けての意気込みや、パイプラインの進捗状況、今後の展望を聞いた。
 上場申請取下げの理由について三好氏は、「内部統制や法令順守など社内でトラブルがあったのではなく、あくまでもバイオベンチャーに対するマザーズ市場の状況が悪く資金調達が十分できそうになかったので延期した」と説明する。
 再度、「基本的な問題はなかった」と強調した上で、「パイプラインの臨床的意義や社会的貢献度も含めた会社の知名度も足りなかった。今後、知名度の向上にも尽力し、さらなるパイプラインの進捗を図って社の価値を高め、できるだけ早い時期に上場を再度目指したい」と意気込む。
 大阪大学発のバイオベンチャーのファンペップは、森下教授と中神啓徳教授(大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座)の機能性ペプチドの研究成果の実用化を目的として2013年10月に設立された。
 森下教授と中神教授らの機能性ペプチドの研究は、大阪大学が新規血管新生因子の探索研究で創製した抗菌ペプチドAG30を基盤に、各種機能性ペプチドを合成するというもの。
 AG30は、30個のアミノ酸で構成される抗菌ペプチドで、広範囲な抗菌活性、血管新生作用、線維芽細胞増殖作用を有する。研究の結果、森下教授、中神教授らは、創傷治療効果と抗菌活性を併せ持つ20残基の「SR-0379」、アジュバント機能を有する「AJペプチド」(20残基)、強い抗菌作用を発揮するキュアペプチン(20残基)を見出した。
 ファンペップは、これらの機能性ペプチドを活用した医薬品、化粧品で財務基盤を確立しながら、炎症性疾患、花粉症、高血圧などに対する夢の次世代医薬品となる抗体誘導ペプチドの開発を進めている。
 AG30の発見は、昨年9月上市されたHGF遺伝子治療薬「コラテジェン」(田辺三菱製薬・アンジェス)の後継品となる血管新生遺伝子を探索するための大阪大学のプロジェクトを起源とする。
 同プロジェクトにおいて、AG30は血管新生作用だけではなく抗菌作用も有する抗菌ペプチドの特徴を持つ物質であることが判ってきた。抗菌ペプチドは、ヒトの皮膚のディフェンシンがよく知られている。ディフェンシンは、生体内の様々なところで産生されている。挿し木をしても木が腐らなかったり、ヤモリやイモリのシッポが土中で切れても感染しないのも、傷口から産生される抗菌ペプチドの抗菌作用によるもので、生態系に備わった防御システムの一つだ。

森下教授


 大阪大学のプロジェクトでは、様々な機能性を有する抗菌ペプチドを同定しており、AG30もその一つに数えられる。ただし、AG30は、生体内には存在しない人工化合物のため、「改変しても問題はない」と考えた森下氏らは、有用性やコスト面を視野に入れた機能性ペプチドの合成を推進。血管新生作用、抗菌作用を有する20残基の機能性ペプチドSR-0379を創製した。
 「SR-0379の血管新生作用・抗菌作用を活用した褥瘡及び糖尿病性潰瘍の皮膚潰瘍の治療薬の開発を目指して、大阪大学で医師主導治験を開始した」と振り返る森下氏。同治験で「潰瘍の縮小傾向」が認められたたため、2015年10月、塩野義製薬とライセンス契約を締結。塩野義製薬は、2018年7月に皮膚潰瘍を対象とする国内でのP2試験を開始し、2019年末に終了した。
 ファンペップのパイプラインの中で、今、最も開発が進んでいるのがこのSR-0379で、国内P2試験では、比較的大きな皮膚潰瘍に対して、プラセボ群と比較して、皮膚の肉芽形成の評価指標となるDESIGN- R合計スコアで有意差が示された。
 褥瘡治療で問題となっているのは大きな潰瘍だ。その理由は、これを塞がないと感染を起こしやすくなるからで、できるだけ早く植皮をして傷口を塞ぐ必要があるが、そのためには患部の肉芽形成が不可欠となる。
 森下教授は、「SR-0379は、肉芽形成を優位に促すため、早い植皮に繋げられる」と強調し、「今回のP2試験結果を踏まえて、比較的大きな皮膚潰瘍に対して早期植皮を可能とするという観点からP3試験を進めて行く」方針を示す。また、「米国でも速やかにSR-0379の治験をスタートさせる」とする。
 SR-0379の抗菌作用も見逃せない。SR-0379の抗菌作用は、細菌の細胞膜を破壊するメカニズムによって得られるもので、抗菌薬と異なり耐性菌が発生し難い。加えて、抗菌力も強く、抗菌スペクトルも広い。
 実際、好気性菌のグラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌)、グラム陽性桿菌(枯草菌)、グラム陰性桿菌(大腸菌、緑膿菌、アシネトバクター)、嫌気性菌のグラム陰性桿菌(アクネ菌)などに対して、8~16μg/mlのMICを示す。薬剤耐性菌に対しても、変わらぬMICを示し、耐性菌に対する有用性も持っている。
 森下教授は、「糖尿病性潰瘍や褥瘡のような感染を起こしやすい疾患に対しては、肉芽形成作用と抗菌作用を併せ持つSR-0379の有用性は高い」と言い切る。
 また、ラット全層欠損を用いたSR-0379の創傷治癒促進効果の動物実験では、SR-0379は既存薬のゲーベンクリームに比べて有意な改善効果を示している。ラットの感染創モデルの薬効試験でも、競合薬のFGF2に対して有意な改善効果を示している。ゲーベンクリームなどの消毒剤は正常細胞にも影響を及ぼすため、創傷は一度大きくなってから縮小する。これに対して、SR-0379は正常細胞に対する影響がないため、塗布当初から創傷が小さくなるというメリットがある。
 皮膚潰瘍患者数は、日本で約100万人(褥瘡20万人、糖尿病性潰瘍80万人)、米国で230万人(褥瘡50万人、糖尿病性潰瘍180万人)と治療薬の市場規模は大きい。
 一方、AG30から幅広い抗菌活性作用だけを最適化した血管新生作用のないキュアペプチンは、化粧品や医療機器分野への応用に適している。

AJペプチドをベースとした抗体誘導ペプチドもパイプラインの柱に

 免疫原性を高める機能性ペプチドとして同定されたAJペプチドは、体内で抗体を誘導するのに非常に重要なアジュバントとしての作用を発揮し、さらに、抗体誘導ペプチドのキャリアとして応用される。
 抗体誘導ペプチドは、標的タンパク質に対する抗体を体内で産生させるペプチドだ。高価な抗体医薬に比べて安価で利便性も高く、その代替品としての期待が大きいため、AJペプチドをベースとした抗体誘導ペプチドは、ファンペップの重要なパイプラインの一つになっている。
 現在、抗体誘導ペプチドとして開発が最も進んでいるのがFPP003だ。FPP003は、炎症性疾患に関与する標的たんぱく質IL-17Aに対する抗体誘導ペプチドで、尋常性乾癬や強直性脊椎炎などの治療薬として注目されている。
 現在、炎症性疾患領域では、様々な標的タンパク質(TNF-α、IL-12/23、IL-17A及びIL-23)に対する抗体医薬が発売されており、市場規模も大きい。その中で、既存のヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤はいずれも薬価が高く(約5~10万円)、月1回投与を必要とする。一方、抗体誘導ペプチドのFPP003は、「製造コストは抗体医薬の約1/10程度で、3カ月から半年に1回の投与」であり、患者負担が軽減されることが期待される。。
 森下教授は、「FPP003は、長い投与間隔による利便性と価格面で差別化できるので、十分期待できる」とそのメリットを訴求する。
 FPP003は、昨年4月、豪州で乾癬を対象とするP1/2a試験が開始された。強直性脊椎炎は、日本では希少疾病として、AMED「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」の支援を受けた前臨床試験を実施している。
 また、大日本住友製薬との間で、FPP003の北米での独占的開発・商業権に関するオプション契約を締結している(北米以外の地域は、優先交渉権を供与)。
 抗体誘導ペプチドのFPP004も、昨年8月に花粉症を対象とする前臨床試験がスタートした。FPP004は、アレルギー反応に関する標的タンパク質IgEに対する抗体誘導ペプチドで、スギやヒノキの花粉による季節性アレルギー性鼻炎を対象疾患とする。
 IgEに対する抗体医薬としては、2003年より「ゾレア」がアレルギー性疾患(気管支喘息および慢性蕁麻疹)を対象に世界各国で発売されている。
 花粉症に対しては昨年12月、国内で効能追加されたが、薬価が高いために経験豊富な耳鼻科で、かつ既存の治療方法で効果のない重症な患者のみの使用に制限されているのが現状だ。花粉症患者数は、国民の25%に上ると言われており、多くの患者が存在するにも拘わらず使用できていないのが現状だ。
 「薬剤費が安いFPP004の開発がうまく進めば、多くの患者への使用が可能となり、投与間隔も3カ月から半年に1回(ゾレアは毎月1回)と長いため、花粉症で悩む人々の福音となる」(森下教授)。FPP004は、現在、提携活動中にある。
     
高いプラットフォーム技術で新規抗体誘導ペプチドの創生を推進

 ファンペップでは、抗体誘導ペプチドの開発を、同じターゲットで解決手法が異なる「バイオオルタナティブ」の名称で進めており、高いプラットフォーム技術を誇る。同社のノウハウが蓄積されたプラットフォーム技術「STEP UP」(Search Technology of EPitope for Unique Peptide vaccine)の活用により、「様々な標的タンパク質に対し、新規の抗体誘導ペプチドを次々と創製していく」(三好社長)。
 抗体誘導ペプチドの「エピトープ」(抗体が認識する抗原の一部分)を選定する技術ノウハウや、キャリアに独自のAJペプチドを利用できるのが同社の大きな強みだ。そこにAI技術で有名な東証一部上場企業のフューチャーとの間で開発したAIを活用することで、さらなるプラットフォーム技術の向上を目指している。既に、AI創薬で生み出されたエピトープが高い抗体産生を示す結果を得ており、複数のターゲットに対する抗体誘導ペプチドを得ているとのことだ。
 ファンペップの抗体誘導ペプチド研究の対象疾患は、「精神神経疾患」、「疼痛」、「高血圧」、「アレルギー性疾患」、「乾癬(標的IL-23)」、「抗血栓」、「家族性大腸腺腫症」-などが挙げられる。
 その中で、大日本住友製薬とは「精神神経疾患の新規の抗体誘導ペプチド研究」で、塩野義製薬とは「疼痛に関する共同研究」を推進している。
 IL-23に対する抗体誘導ペプチド研究は、昨年、経済産業省のNEDOの支援を得て、クローン病や潰瘍性大腸炎などの免疫性疾患の治療薬となるエピトープ選定のスクリーニングを進めている。また、メディパルホールディングスとは、研究開発支援で提携している。
 三好社長は、「低分子医薬品、抗体医薬の研究でターゲットが判っていれば、それに対する体内での中和抗体を作ることで、抗体誘導ペプチドを提供できる」と明言。さらに、「低分子が見つからない、抗体がうまく取れないなど、新しいターゲットに対する抗体誘導ペプチドを利用したい製薬企業があれば、是非お声掛けしてほしい」と呼びかける。

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