肌表面の水分蒸散制御で乾燥肌の見た目を早期改善    花王

 花王のスキンケア研究所、解析科学研究所は17日、肌表面の水分蒸散の制御が、健全な角層形成に必要な多くのタンパク質の発現、および乾燥した肌の見た目を早期改善すると発表した。
 同社は、2018年に、直径がサブミクロンの極細繊維を肌に直接噴きつけることで、軽く、やわらかく、自然な積層型極薄膜を肌表面につくる「ファインファイバー(Fine Fiber)技術」を公表している。
 同技術は、専用のポリマー溶液を小型の専用装置から肌に直接噴射し、肌表面に極細繊維からなる積層型極薄膜を形成する役割を有する。
 直径1μm以下の細さの繊維が折り重なってできるこの極薄膜は、軽く、やわらかいだけでなく、極細繊維による高い毛管力を特長とする。
 今回の研究は、このファインファイバー(Fine Fiber)技術と水分蒸散制御製剤を併用して形成する膜の透湿度に着目し、肌表面の水分蒸散の制御が、健全な角層形成に必要な多くのタンパク質の発現、および肌状態を改善することを明らかにしたもの。
 肌の最外層にある角層には、皮膚の恒常性を維持するために重要なバリア機能があり、外的刺激物質の体内への侵入を防いだり、水分蒸散を抑えたりする働きがある。だが、環境や加齢などの影響で、角層バリア機能が低下し、見た目の美しさが損なわれるのは珍しくない。
 同社は、これまで、角層機能を補う研究を進めてきたが、従来の製剤で形成される膜は、微細な隙間が存在するため透湿度が高く、水分蒸散の制御には限界があった。
 また、ファインファイバー膜単独でも、極細繊維の積層膜に隙間が存在するため、透湿度のレベルは従来の製剤による膜と大きな違いはなかった。
 今回、このファインファイバー膜と液状製剤を併用することで、毛管力が向上して製剤が膜全体に速やかに均一に広がり、膜の中でしっかりと保持される性能が確認された。
 昨今、創傷治療の場面では、湿潤環境を人工的に作り出し、体が持っている「自己治癒力」を発揮させて傷を治す「湿潤療法(モイストヒーリング)」が広く用いられている。
 今回の研究も、創傷治療の分野で活用される「湿潤療法」に着想を得て、ファインファイバーと水分蒸散制御製剤との併用が検討された。


 具体的には、乾燥肌、または乾燥意識のある30~40代の女性45名を2グループに分け、2週間の連用試験を実施した。試験には、ファインファイバー膜の構造を壊さずに、水分蒸散性をコントロールする製剤(水分蒸散制御製剤)を用い、この製剤のみを使用するグループと、この製剤を使用した後にファインファイバーを併用するグループを設定し、比較を行なった。
 角層内部の様子をより短い期間での変化まで詳細に把握するため、質量分析を用いたプロテオーム解析法を応用した「時系列プロテオーム解析法」を独自に開発。使用開始前と連用後における245種の角層タンパク質の発現挙動を網羅的に解析した。さらに、肌の水分量、肌表面の見た目の質感(明るさ、ツヤ)も観察した。
 使用開始前と連用7日後、14日後の角層内部のタンパク質種の発現状況を解析したところ、ファインファイバーと水分蒸散制御製剤を併用したグループは、製剤のみのグループに比べて、短期間で多くのタンパク質種の発現が増加した。
 中でも、ファインファイバーと水分蒸散制御製剤を併用したグループは、使用開始前に対して連用7日後に、NMF(天然保湿因子)の原料の産生を促進するタンパク質(CAPN1、BLMH)が製剤のみよりも増加した。


 また、連用7日目に対して14日後には、NMFの産生を促進するタンパク質(GGCT、HAL、ARG1)の増加が促進され、さらに肌のバリア機能に深く関与するラメラ顆粒の産生を促進するタンパク質(SBSN)の特異的増加も確認された(図2)。
 肌の水分量は、ファインファイバーと水分蒸散制御製剤を併用したグループ、製剤のみを使用したグループいずれも、使用開始前に比べ、3日目以降で有意に上昇した。
 一方、見た目の肌状態のうち、明るさ、ツヤについては、ファインファイバー膜と水分蒸散制御製剤を組み合わせて使用したグループが、製剤のみのグループよりも早く、3日目の時点で有意に変化することが確認された(図3)。


 これらの試験結果から、角層からの水分蒸散(透湿度)のコントロールは可能であり、さらに、その膜を肌に使用すれば、角層内で肌を良好な状態に導く複数のタンパク質種の発現が短期間で増加し、乾燥した肌の見た目が早期に改善することが判明した。
 このように、ファインファイバー技術を応用すれば新しい切り口の商品提案の可能性が考えられるため、花王では、「今後、さらに治療分野での応用も視野に入れた技術の開発を進めていく」意向を示している。
 なお、同研究内容は「日本香粧品学会第44回年会(2019/6/28-29、東京都)」、「日本プロテオーム学会2019年大会(2019/7/24-27、宮崎県)」、「第25回 IFSCC ミラノ大会(2019/9/30-10/2、イタリア)」で発表された。

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