データでみる医療・医薬の世界 八野芳已(元兵庫医療大学薬学部教授 前市立堺病院[現堺市立総合医療センター]薬剤・技術局長) 第4回

第1節:食生活と栄養
(1)食生活の変遷(in19.5.28/Tue.寄稿済)
(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7.3/Wed.寄稿済)
(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省] (in19.8.25:Sun.寄稿済)
(4)食生活に重要な栄養素 ―種類とそのはたらき―
われわれ人間は、日々の生命活動に必要なエネルギーや栄養素を日常の食生活を通していろんな飲食物から摂取している。その生命活動に不可欠な栄養素には、①主として生体の構成成分になるたんぱく質、②生体の活動源となる脂質と糖質があり、これらは三大栄養素(エネルギー産生栄養素)とよばれる。さらに、代謝過程で調整役を果たすビタミンや生体の構成成分となり同時に調節にも一役果たすミネラルがある。また、これらのほかにも植物繊維や水なども生体に必要な栄養素である。
今回は、生命活動そして維持に不可欠な栄養素について、その種類と働きについてまとめてみる。

I.栄養素の3つの働き(1、2、3)

必須物質を栄養素と規定されている。その体外から摂取した「栄養素」を原料として、消化、吸収、さらに代謝することにより、生命を維持し、成長に必要な成分をつくるといった一連の流れのことを栄養とも言える。
栄養素は、食べ物の中に含まれているさまざまな物質のうち、人間のからだに必要不可欠な成分であり、食品中の栄養素は、身体の中に吸収された結果、次のような3つの大きな働きを示す。

1.エネルギー源になる
2.体の組織(筋肉、血液、骨など)をつくる
3.体の調子を整える

II.栄養素の種類とはたらき(1、2、3)
まず、エネルギー源になる栄養素としては、「タンパク質・脂質・糖質」の3大栄養素がある。さらに、3大栄養素に「ビタミン・ミネラル」の2つを加えて、5大栄養素といい。これらは全て生体にとって必要な栄養素である。主に3大栄養素は、体内でのエネルギー源となり、また、からだの組織をつくる働きをしている。一方、ビタミン・ミネラルは体の調子を整える働きをする。

栄養素の
種類
栄養素のはたらき
たんぱく質  ・たんぱく質は、筋肉や内臓、髪、爪などを構成する成分で、ホルモンや酵素、免疫細胞を作る役割もある。また、体内ではアミノ酸となり、これが細胞の基本成分であり、遺伝子情報のDNAの合成にも使われる。アミノ酸は大きく分けて、体内で合成できるアミノ酸と、合成出来ないアミノ酸の2種類ある。合成できないアミノ酸は9種類あって、食物から摂取して補う、この9種類の特別なアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼ぶ。食品中に必須アミノ酸が1つでも不足していると、タンパク質としての栄養的価値が下がってしまう。食品中のたんぱく質の品質を評価するための指標に「アミノ酸スコア」があって、食品中の必須アミノ酸の配合バランスを点数化して評価に使われている。この点数が100に近いほど「良質なたんぱく質」であることを示していて、「卵、鶏肉、鮭、牛乳など」のアミノ酸スコアは100で、大豆は86と少し低くなっている。主食である米は65点、パンなどの材料となる小麦は37点である。例えば、穀類は必須アミノ酸のリジンが不足しているが、リジンが豊富な鶏肉などの動物性食品などと一緒にとることで、アミノ酸バランスが改善され、アミノ酸スコアを高めることが出来る。

 

・このようにたんぱく質は重要な栄養素で、過不足によってからだに変調が生じる。①不足すると、成長障害、浮腫、腹水、食欲不振、下痢、疲労感、貧血、精神障害、感染症への抵抗力の低下などの様々な障害が生じる。発展途上国の子どもにみられる「クワシオルコル」はたんぱく質欠乏症として有名である。②過剰摂取は腎臓への負担を重くし、腎臓の老化を早めたり、腎臓病を悪化させたりする。

脂質 ・脂質は、エネルギー源・細胞膜や臓器、そして神経などの構成成分・ビタミンの運搬を助けたりするなどの役割がある。その他、体温の保温、肌の潤い、正常なホルモンの働きを助ける(とくに女性ホルモン)といった働きもある。そのため、脂肪の減らしすぎには注意が必要で、特に女性は美容や健康を損なうことになりかねず、美しい肌や髪のためにも、ある程度の脂質が必要であるが、摂取量が多すぎると脂肪として蓄えられ、肥満の原因ともなる。

 

・脂質の特徴としては、①エネルギー値が9kcalと、糖質・たんぱく質の4kcalに比して、2倍以上高く、食事の摂取量が少量でよく、胃への負担が軽減される、②エネルギーの産生過程でビタミンB1が不要で、ビタミンB1の節約になる。一方、糖質は酸化されてエネルギー源となるステップで補酵素としてビタミンB1が必要である、③食品中の脂質の約90%以上は中性脂肪で、残りがリン脂質、コレステロールなどで、細胞膜の主要成分となる。また、コレステロールはステロイドホルモンや胆汁酸の前駆物質となる。

糖質 ・糖質は最もエネルギー源として使われやすく、からだや脳を動かす即効性の高いエネルギー源として使われる。糖質が足りなくなると、脳に必要な栄養素が届かなくなったり、足りないエネルギーを補うためにからだの筋肉や脂肪が分解される。逆に、糖質を過剰に摂取してしまうと、エネルギーとして使われずに余り、中性脂肪に変換されて脂肪となる。また、糖質をエネルギーに変えるにはビタミンB1が必要で、豚肉やレバーのような、ビタミンB1が豊富に含まれている食品とうまく組み合わせて食べる事で代謝が高まる。

 

・糖質の特徴としては、①日本人の1人1日あたりの摂取量がエネルギー比で約60%で、最大のエネルギー源であること、②不足すると、「組織へのエネルギー供給不足」、「糖新生による、たんぱく質の利用効率の低下」、「ケトーシス状態への移行」、「相対的なエネルギー不足」といった問題が生じる。一方、糖質が有する「甘味」は食事の嗜好性を高め、人が持つ基本的欲求の中で「甘味に対する欲求」が一番強いとされている。

ビタミン  ・ビタミンは、3大栄養素のようにエネルギー源や体の構成成分にはならないが、体の機能を正常に維持するために不可欠な栄養素で、血管や粘膜、皮膚、骨などの健康を保ち、新陳代謝を促す働きをする。必要量はごくわずかですが、体内でほとんど合成されないか、合成されても必要量に満たないために必ず食品から摂取しなくてはならない。さらにビタミンは溶解性の違いで水に溶ける「水溶性ビタミン」と油に溶ける「脂溶性ビタミン」に分類される。水溶性ビタミンは、尿などと一緒に排泄されるため、必要な量を毎日取る必要があるが、過剰にとっても体内に蓄積されずに尿と一緒に排泄されてしまうので、とり過ぎの心配はない。一方、脂溶性ビタミンはその性質から油と一緒に摂ると吸収率が上がるが、肝臓に蓄積されるため摂り過ぎると過剰症を起こすものがある。通常の食生活では摂り過ぎる心配はないが、サプリメントなどで大量に摂り過ぎることがあるため、要注意。

 

ミネラル ・ミネラルは、微量ながらも体の健康維持に欠かせない栄養素で、カルシウム、鉄、ナトリウムなどの16種類の必須ミネラルがある。ミネラルの主な働きとしては、骨・歯など体の構成成分になったり、からだの調子を整える働きがある。また、ミネラルは体内で合成することができないので、食事から補うことが必須である。不足すると、鉄欠乏性貧血、ヨウ素不足による甲状腺腫などの欠乏症が惹き起こされる。また、カルシウム不足で骨粗鬆症になるなど、さまざまな症状が発生する。逆に、取り過ぎた場合も過剰症が惹き起こされる。鉄や亜鉛をとり過ぎると中毒を起こしたり、ナトリウムをとり過ぎると高血圧症に繋がるので注意が必要である。

 

III.食事バランスガイドと従来の分類法との関連(4)
農林水産省から「食事バランスガイドと従来の分類法との関連」がまとめられている(4)ので下記に全文そのまま引用させていただく。

五大栄養素と食事バランスガイドの違い

これまでは「五大栄養素」や「三色食品群」のように、「食品」そのものに含まれている栄養素や、その働きごとに、食品群やグループなどで分類。これらを、日々の食事の中でまんべんなく食べるよう、消費者には伝えられてきました。
一方、「食事バランスガイド」は、「何を」「どれだけ」食べれば、偏りのない食事になるのか。それを、「料理」の組み合わせとして示しているものです。「食事バランスガイド」を使って料理グループごとに分類することで、どんな食品を食べたのか、また、どんな働きのある栄養を、どれだけ摂取できているのかを、消費者自身で知ることができます。「食事バランスガイド」と食品、栄養素との関係を理解することで、消費者が食品の摂取量とその構成を理解できるのが特徴です。

料理グループと栄養素、食品分類例の関係

食品に含まれている栄養素の分類は①「五大栄養素」、②「三色食品群」、③「六つの基礎食品」などがあります。
① 五大栄養素:食品に含まれている栄養素のこと。「炭水化物」、「脂質」、「たんぱく質」、「無機質」、「ビタミン」の5つを表します。

② 三色食品群:栄養素の働きから、3つの食品グループに分けたもの。

③ 六つの基礎食品群:

「食事バランスガイド」と合わせた活用法

栄養素のはらたきと「食事バランスガイド」とのつながりを理解することで、消費者自らが食生活の問題に気づき、行動することができます。ここでは「食事バランスガイド」と栄養素との関係を、どのように伝えたらよいか。その流れを紹介します。

「食事バランスガイド」→食品→栄養素を学ぶ

  1. 「食事バランスガイド」を使って、消費者自らがこれまでの食生活を再確認。5つの料理グループのバランスを振り返ることで、食生活に足りているものと足りないものを知る。
  2. 「食事バランスガイド」でおおまかな料理レベルでの食事の偏りを把握した後、「三色食品群」や「六つの基礎食品」によって分類。料理と食品をバランスよく組み合わせてとることの重要性を、消費者に再認識してもらう。

栄養素→食品→「食事バランスガイド」を知る

  1. 「三色食品群」や「六つの基礎食品」などから食品を組み合わせ、バランスよく食べる事の重要性を学ぶ。
  2. 実際に消費者自らが献立を考えながら、「何を」「どれぐらい」食べたらよいのか。また自分の選んだ料理のバランスがとれているのか。最終的な献立から「食事バランスガイド」を使って、消費者が考える。
栄養素と食品、バランスガイドのグループ

エネルギ―と栄養素:エネルギ―、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、無機質
六つの基礎食品と三色食品群との関係:

(注)いも類は炭水化物を多く含むエネルギー源ですが、同時に体の調子を整える働きのあるビタミンや無機質、食物繊維も含みます。食事の中では、ごはんやパンの代わりではなく、「おかず」として食べられることが多いので、「食事バランスガイド」では、「副菜」に位置づけられています。

「食事バランスガイド」での料理グループ

(注)油脂・調味料は調理のときに使うものなので、「食事バランスガイド」では、料理に含まれるものとして扱い、別立てに示していません。

参考資料
(1)食事を構成する栄養素|タニタ – タニタ TANITA :https://www.tanita.co.jp › health › detail
(2)新看護学3 専門基礎3 食生活と栄養 ㈱医学書院 2017.2.1 p.179-301
(3)輸液・栄養読本[水・電解質輸液編]  監修:日本医科大学腎臓内科名誉教授 飯野靖彦 2014年4月改訂 第5版 作成:株式会社大塚製薬工場 学術部
(4)栄養素と食事バランスガイドとの関係:農林水産省
www.maff.go.jp › … › 実践食育ナビ › 食事バランスガイド早分かり

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