脱自粛生活による筋肉減少が脱水やサルコペニアの危機に
加齢によって筋肉は減少する。自然に任せれば、40代以降は年に1%程度筋肉量が減少し、80代の高齢者なら、若い頃のピークから50%程度落ちているともいわれている。女性は、その量がより多い。筋肉は、一度落ち始めるとそのスピードが速くなっていく。
また、コロナ禍を通しての自粛生活は、筋肉減少をさらに加速させるリスクがある。2年に及ぶコロナ禍の自粛生活を経て、年齢を問わず筋肉が減少してしまっている恐れもある。
そこで、教えて!「かくれ脱水」委員会が啓発する「コロナ禍の筋肉減少による脱水症リスク」をテーマとした吉村芳弘氏(熊本リハビリテーション病院)の解説を紹介したい。
吉村氏は、解説の中で次の3点をポイントとして指摘する。
①自粛による高齢者の筋力低下→サルコペニア(身体機能低下)のリスクにつながる!
②食欲減退・やる気の減退→フレイル(虚弱状態)のリスクにつながる!
③下半身のエクササイズと水分補給の仕方をマスターしよう。
コロナ禍が筋肉の質と量の低下に拍車をかけ熱中症リスクに
長い自粛生活は、高齢者のみならず、運動量が減ってしまった人すべての筋肉に影響を与えている可能性がある。一般的に通勤通学、散歩程度しか運動していない人が、約一年の自粛生活の中でほとんど運動をしないでいると、どうなるのか?
例えば、6〜7週間ベッドの上での安静が続くと、骨格筋の量が減少する。とりわけ、下肢の筋力低下は著しく、20%程度が減少することがわかっている。
残念ながら、一度落ちた筋肉が元に戻るには、筋力低下を自覚したうえで応分の筋トレを行なったとしても、落ちた期間の2〜3倍かかるといわれている。高齢者の筋肉が長期間の運動不足によって一度落ちた場合、その回復には時間と努力が必要になるわけだ。
筋肉は、安静を指示されたお年寄りなら0.5%の量、一般の成人でも1日中寝たきりだと1~2%もの筋肉量がたった一日で落ちてしまう。数十日間放置すれば、回復するのに数年かかるくらいの筋肉が落ちる場合もある。
また、長く続く自粛生活はとても怖いと思われる。今年だけではなく、来年、再来年に日本中で、要介護の高齢者が増えるかもしれない。
実は、2016年の熊本震災の後、翌年に急に要介護の高齢者が増加した。筋肉と水分の関係を今とても重要で必要な知識として捉えて、筋力の低下を防ぐ食生活と水分補給、エクササイズを生活習慣に取り入れて過ごしてほしい。
特に高齢者は、サルコペニアのリスクも
サルコペニアとは、高齢者の骨格筋量が減少し、筋力もしくは歩行速度などの身体機能の低下を指す。コロナ禍での長い自粛生活は高齢者に筋肉の量と質の低下をもたらしたが、身体の水分貯蔵庫でもある筋肉量低下は、サルコペニアのリスクを増加させるだけでなく、その後に潜む脱水症リスク、暑い季節の熱中症リスクの増加に繋がっていく可能性がある。
サルコペニアはフレイルの引き金にも
また、サルコペニアは、体重の減少や倦怠感などを伴い、高齢者の要介護の前段階ともいわれるフレイル(虚弱状態)につながる。筋肉量減少や、それに関連するエネルギー代謝の低下、食欲減退など、生活の質の低下につながってゆく。
秋以降は食事の水分量も減るので脱水にも注意
筋肉が衰えていれば、高齢者はもちろん年齢を問わず身体は様々な影響を受けやすくなっている。筋肉は、水分の貯蔵庫であるため、脱水を起こしやすくなるのもその1つである。
また、秋冬になると、一般的に食べるメニューに含まれる水分量が減ってしまい、加えて今年はマスクをする機会が多く、口渇を感じにくいために、さらに水分を摂りにくくなっている。
これらが影響し合って運動不足による筋力低下でパフォーマンスが落ち、運動しないから食事量が減少、口腔が乾きがちだから、味覚が落ちる…という脱水への負のスパイラルになるというわけだ。つまり、今、誰もが脱水しやすい身体になってしまっている。
中でも高齢者は、ただでさえ加齢によって喉の渇きを感じにくくなっている。
筋肉量が減って脱水を起こしやすくなっているため、自粛期間中外出を控えたりトレーニングを減らしていた人が急に運動をする時も、以前よりより水分補給を意識して運動する必要がある。
また、筋力が低下すると免疫力も落ち、疲労感が増える。高齢者の筋力低下は、少し散歩に出ても、歩く距離が短くなったり、外を歩いていてもちょっとしたことで倒れやすいなど、パフォーマンスに如実に現れるようだ。
疲労物質である乳酸代謝のサイクルも落ち、疲れが残りやすくなるために、ヤル気も落ちてくる。当然、パフォーマンスの低下にも拍車がかかる。
筋肉がある人は脱水しにくく、筋肉を付けることが脱水をしにくい身体をつくる
自粛生活であても、筋肉を刺激するエクササイズを生活習慣の中に取り入れていくことで、筋力の低下を防いだり、落ちた筋肉を早く戻せる可能性がある。
特に、抗重力筋(地球の重力に対して姿勢を保持するために働く筋肉)が重要で、なかでも下半身の筋肉を鍛えることがポイントである。ちょっとキツイくらいの負荷で、無理なく一日の出来る時間にゆっくり行うのがコツ。エクササイズの前後に、汗をたっぷりかかなくても、100ml〜200mlの水分を必ず摂る。
さらに、運動をした後にたんぱく質の入った食事を摂ろう。1食のたんぱく質量は高齢者で20~30g、一般の成人であっても高齢者と同じくらいのたんぱく質が必要と言われている。1食に、だいたいこぶし1つ分の肉や魚を摂取するイメージだ。
例えば、椅子から立ち上がるスクワットであれば、10回、朝昼夕方。食前食後どちらでも良い。できる時に無理なく行うことが生活習慣にしていくコツである。
大量の汗で失った水と電解質を保つことが出来るので、高齢者なら運動の後、3回に一回、電解質を含む経口補水液などを飲むことを推奨する。パフォーマンス維持にも効果的だと考えられる。