経口投与の新型コロナ治療薬の国内供給準備年内に完了  塩野義製薬手代木社長

 塩野義製薬は29日、東京都内で「COVID-19に関する記者説明会」を開催した。説明会では、手代木功社長が、経口投与の新型コロナ感染症治療薬として開発中のS-217622について、「国内開発を優先する」方針を強調。
 その上で、「9月27日より開始した国内P2/3試験で、無症候・軽症患者を対象とした症状改善/発症低下率のデータを収集し、年内に国内申請準備を行う」スケジュールを示した。
 さらに、S-217622の国内供給準備にも言及し、「本年12月までに完了し、低用量で効果が確認できた場合は3月までに最低100万人分の製造キャパシティを確保する。患者数が多く治療ニーズの高い無症候・軽症患者が簡便に服用できるS-217622を可能な限り早急に供給したい」と訴求した。
 S-217622のグローバル開発は、「10月中旬から末にかけて最初の治験結果(70例程度)が出てくる。そのウイルス減少効果データをもとにFDAやEMAと協議した上でグローバル試験を開始する」予定にある
 一方、新製剤の国産ワクチンS-268019の実用化は、「2021年内の最終段階試験開始と2021年度内供給を見据えて、既存のコロナワクチンとの比較試験を中心に承認を目指していく」考えを強調した。
 現時点の新型コロナ治療薬には、レムデシビル(抗ウイルス薬)、COVID-19抗体(カクテル療法など)、重症化対応(デキサメタゾン等)があり、レムデシビル、COVID-19抗体はいずれも点滴静注剤である。
 一方で、特に、患者数が多く医療現場の負担が大きい感染拡大期において、無症候・軽症患者が簡便に服用できる経口の抗ウイルス薬のニーズは高い。だが、核酸、ペプチドなどの高分子を経口剤にすれば体内に吸収されないという問題があるため、低分子の抗ウイルス薬の開発が切望されているのが現状だ。
 S-217622は、これまで、ゾフルーザなど低分子の経口投与抗ウイルス薬開発の実績を持つ塩野義製薬と北海道大学が共同研究で創製した3CLプロテアーゼ阻害薬で、発見から約4カ月で臨床試験が開始された。
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、S-217622は3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、新型コロナウイルスの増殖を抑制する。
 これまでのワクチンや治療薬は、新型コロナウイルスが有するスパイク蛋白に標的を定めたもので、スパイク蛋白が結合するための体内レセプターに蓋をする形で疾患を防止するため、非常に速いスピードで変異株が発生した。
 だが、3CLプロテアーゼは、新たな変異ウイルスや次のコロナパンデミックにも対応できる創薬標的のため、今、社会的に問題になっているδ株を含め、幅広い株に対して活性を示す。
 同剤のSARS-CoV-2感染マウスを用いた非臨床試験では、若齢マウス(n=5)では、体内でウイルスが増殖している感染48~72時間において用量依存的なウイルス減少効果が確認されている。
 老令マウス(n=4)では、投与後2~3日で体重変動、生存率を改善し、重症化を抑制する効果が期待される。
 本年7月より開始されたS-217622の国内P1相臨床試験では、現時点で、安全性上の大きな問題は認められておらず、薬物動態も目標とする血中薬物濃度を上回る良好な結果が確認され、9月27日より、予定通り国内P2/3相臨床試験がスタートした。
 国内P2/3試験では、軽症の新型コロナ感染症患者または無症候の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者を対象に、プラセボ投与群を対照として、同治療薬を1日1回、5日間経口投与した際の有効性および安全性を評価する。
 具体的には、合計症例数2100例を、高用量群=1日、1回、5日間、低用量群=1日、1回、5日間、プラセボ群=1日、1回、5日間の3群に分けて実施する。主要評価項目は、軽症:症状回復までの時間、無症候:症状発症割合。
 今後は、「無症候・軽症患者を対象として症状改善/発症低下率のデータを収集し、年内に国内申請準備を完了する」。加えて、治験と並行して国内供給準備を年内で終える。手代木氏は、「原料の発注を行い、中間体・製品生産工場を空けており、低用量であれば3月までに最低100万人分製造できるので、可能な限り早急な供給を目指したい」と訴えかけた。
 S-217622のグローバル開発計画は、10月中旬から末にかけて出てくる約70症例程度のウイルス減少効果データをもとにFDAやEMAと協議し、欧米でのニーズに合わせて死亡率・入院率を主要評価項目にしたグローバルP3試験実施を加速する。
 他企業における経口の新型コロナ治療薬の開発状況は、メルクとロシュが「ポリメラーゼ阻害剤」、ファイザーが塩野義製薬と同じ「プロテアーゼ阻害剤」(1日2回投与)を開発しており、いずれもP2/3段階にある。
 手代木社長は、「海外はP2/3段階で2~3カ月程度先行しているが、あまり差はないと思っている。S-217622は、動物実験モデルでは、先行する3剤と同等かそれ以上の効果があると期待している」との見解を示した。
 一方、新製剤の国産ワクチンS-268019は、新たなアジュバントと抗原との組み合わせにより、回復者血清と同程度以上の中和抗体価が確認されている。
 P1/2試験(3群60例)の投薬を8月より開始しており、現在、P3試験として、既存の新型コロナワクチンとの比較による検証を規制当局と協議している。
 P1/2試験は、9月24日に全被験者60例のDay36観察が完了し、重篤有害事象や中止に至る有害事象は発現しておらず、10月下旬より国内P2/3試験に移行する予定だ。
 塩野義製薬では、新型コロナワクチンのブースター試験も国内外で計画している。
 「ブースター試験は、既にフォードと組んで英国を中心に、グローバルに実施していく。ブースター試験には、mRNAワクチン同士の組み合わせ、mRNAワクチンとアデノウイルスベクターワクチンの組み合わせなどいくつかの組み合わせがあるが、現時点は、中長期の副反応とどの程度中和抗体が持続するかを世界的に模索し始めた段階である」と指摘する手代木氏。
 さらに、各ワクチンの主な副反応について「mRNAでは若い男性における心筋炎、ベクターワクチンは若い女性を中心に血栓症が発症しているデータが少しずつ積み重なっている」とした上で、「その中で我々のワクチンが少なくとも中長期的に安全性が担保されているのであれば使用されるチャンスも増えてくる。今後、積極的にブースター試験を実施していく」と力説した。
 今後のS-268019の開発スケジュールは、「新型コロナワクチン開発は、東南アジアでの大規模なプラセボ比較対象試験を進めるとともに、国内では2021年内の最終段階試験開始と2021年度内供給を見据えて、既存のコロナワクチンとの比較試験を中心に承認を目指していく」
 最後に手代木氏は、「感染症のリーディングカンパニーとして新型コロナワクチンの早期終息に取り組む」と断言。その上で、「今、インフルエンザは流行していないので、ゾフルーザの売上はゼロに近い。感染症ビジネスの特殊性をご理解頂き、平時から国がインフルエンザ薬を買って備蓄するなどのご支援をお願いしたい」と訴えかけた。

SPRC_塩野義医薬研究センター


  

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