東京女子医科大学とNTTドコモは21日、商用第5世代移動通信方式(商用5G)を活用した遠隔手術支援システム、および移動型スマート治療室「SCOT」を用いた実証実験を本年10月より開始すると発表した。
同実証実験は、商用5Gを介してスマート治療室と遠隔地の専門医を接続し、高精細な手術映像など大容量データの双方向通信を検証するもの。SCOTは、Smart Cyber Operating Theaterの略で、東京女子医大が主導して、広島大学、信州大学、デンソー、日立製作所など11社と共に、IoTを活用して各種医療機器・設備を接続・連携させ、手術の進行や患者の状況を統合把握する「戦略デスク」の導入により、手術の精度と安全性を向上させる「スマート治療室」を指す。
商用5Gとドコモのクラウドサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」を活用した遠隔医療実験は国内初となる。ドコモオープンイノベーションクラウドは、5G時代に求められる低遅延、高セキュリティなどMEC(Multi‐access Edge Computing)の特長を持つクラウドサービスだ。
これにより、緊急の脳外科手術などで熟練医が不在の時や感染症などで入室可能な医療スタッフが限定された状況でも遠隔からの手術支援が可能となる。社会的問題となっている高度医療従事者不足に伴う医師の負担増大や地域医療における医師偏在などの課題解決を目指す。
実験では、IoT技術を活用して各種医療機器・設備を連携させるスマート治療室「SCOT」を活用し、東京女子医大にあるスマート治療室と、専門医がいる「戦略デスク」を商用5Gと「ドコモオープンイノベーションクラウド」で接続。スマート治療室内で脳外科手術を行う執刀医の手元映像や、4K外視鏡の高精細映像などの大容量のデータを、専門医のいる「戦略デスク」へリアルタイムで送る。
遠隔の専門医が手術の状況を俯瞰的に確認し、手術時の指導や支援を行う。実証実験を通じてシステムの有用性を確認し、先進医療の現場での活用をめざして検討を進める。
また、移動型スマート治療室「モバイルSCOT」と専門医がいる「戦略デスク」を商用5Gで接続し、車載医療機器の高精細リアルタイム画像伝送実証も行う予定。
データの伝送には、ドコモのクラウドサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」を使用する。これにより手術のデータを高セキュリティに、また大容量データの低遅延での伝送が可能だ。スマート治療室内の複数の医療機器データ管理は、医療情報統合プラットフォームの「OPeLiNK(オペリンク)」を活用する。OPeLiNKは、ORiN協議会の管理する産業用ミドルウェアORiN(Open Resource interface for the Network)を医用に転用したもので、通信規格やメーカーを問わず、各機器を接続・統合できる。なお、同実証のSCOT内の4K外視鏡はオリンパス社製を使用し、医療情報統合プラットフォームの運営はOPExPARK社が行う。
東京女子医大とドコモは2019年11月に東京女子医大が保有するスマート治療室で5Gを介した遠隔手術支援に関する共同実証実験を行う覚書を締結。この覚書における取り組みの一環として、AMED(日本医療研究開発機構)からの採択案件である「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の事業課題名「8Kスーパーハイビジョン技術を用いた新しい遠隔手術支援型内視鏡(硬性鏡)手術システムの開発と高精細映像データの利活用に関する研究開発(事業機関:国立がん研究センター)」の枠組みのもと実証実験を推進する。
東京女子医大とドコモは、社会問題化している医療スタッフ不足や医師偏在の解消による医療水準の高度均てん化や先端技術の導入による医療分野でのデジタルトランスフォーメーションの実現に貢献していく。
実証実験の概要は次の通り。
1.目的:実証実験を通じてさまざまな診療科における遠隔手術支援の実現可能性を検討する
2.実験内容
①研究開発の目的及び内容
4K外視鏡を用いた脳神経外科手術を対象とした遠隔手術支援システムを構築し、高精細映像 データを用いた遠隔手術支援の臨床的有用性の評価および技術的課題の整理を行う。
②当該年度における研究開発項目、研究開発方法及びマイルストーン
‧ 大容量・低遅延通信が行える固定通信および5Gを用いたセキュアなネットワークの構築
‧ 医療情報統合プラットフォームを活用した遠隔手術支援システムの構築
‧ 大学内および大学間(研究協力先)における遠隔手術支援システムの臨床的評価