
第25回日本抗加齢医学会総会(会長中神啓徳氏、大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学講座寄附講座教授)が13~15日の3日間、大阪国際会議場で「抗加齢医学4半世紀頑張ろうぜ!」をメインテーマに開催され、次の25年間に向けた抗加齢医学の最先端研究の発表が相次いだ。
メインテーマの「抗加齢医学4半世紀頑張ろうぜ!」には、これからの人生100年時代を見据え、豊かな未来創造を皆で達成する気持ちが込められている。2025年大阪・関西万博に合わせて開かれた今年の総会は、未来のアンチエイジング医療を描く斬新なアイデアが多数発表され、参加者の興味を引いた。
その中で、会長特別企画「日本抗加齢医学会四半世紀 Legend talk」では、これまでの抗加齢医学会における学術面での歩みや今後の方向性が示された。

「フリーラジカルから抗加齢医学へ」をテーマに講演した吉川敏一氏(日本抗加齢医学会名誉理事長)は、1973年京都府立医科大学卒業後、がんをはじめとした疾患の原因を探り、治療に役立つ研究研究として酸素の毒性に着目した。
酸素は生存に不可欠であるが、酸素を誘引して細胞やDNAを損傷して疾患を引き起こす。この障害因子がフリーラジカルである。ラジカルとは、ペアになっていない電子を持っているものを意味する。また、酸化は電子を失う、還元は電子を得ることで、ラジカルは電子がペアになっていないので安定するために他の電子を奪ってくる。
タンパク質、細胞膜がラジカルにより電子を奪われて酸化されると様々な障害が惹起する。これを酸化ストレスといい、最近、フリーラジカル学会が酸化ストレス学会に名称を変えた。
吉川氏は、これまでのフリーラジカルの研究の経緯を紹介した後に、「老化細胞を作らず、除去することで、アンチエイジングが可能になった。エイジングクロックの概念が登場し差な座な場手法でクロックを操作して若返ることも可能になってきた」と解説。その上で、「この実現には私が長年取り組んできたフルーラジカル研究が必ず役に立つと確信している」と言い切った。
吉川氏は自らの経験を元に研究者として成功するための心得にも言及し、「サイエンティストゲーム、続サイエンティストゲームを参考にする」重要性を指摘した。具体的に同ゲームには、①上の人の命令は間違っていてもひたすら従う、②学会の発表を聞くのもいいが、最も重要なのはバンケットへの出席、③大物と話すには乾杯の直後がいいーなどの有益な話が満載されている。
①について吉川氏は、「時にはそれが新発見に繋がる場合がある。逆らえば干される」、③は、「乾杯の直後には大物の周りには一瞬誰も居ないのでその隙を狙う。しばらくすると取り巻き連中が集まるので近寄れない」とその理由を説明。最後に「残念ながら私は教授になってこれを読んだので、参考にならなかった。だが、それを無意識に実践していた。国際学会にも積極的に参加することが重要である」と振り返った。

坪田一男氏(日本抗加齢医学会元理事長、坪田ラボ)は、「光でアンチエイジング」をテーマに講演した。2000年より眼科医としてアンチエイジングを実践してきた坪田氏は、当初は全身のアンチエイジングが眼の健康に与える影響を研究し、途中から逆に光が生体に与える視点でアプローチするようになった。
1000万人のうち30万人がゴルフをしているコホートにおいて、ゴルフをしている人の寿命は5年も長い。坪田氏は、屋外で過ごすことの健康効果として、①がんの発生率の低下、②うつの低下、③血圧低下、④血糖低下、⑤睡眠の改善、⑥認知機能改善、⑦近視予防、⑧その他、たくさんのメリットーを挙げ、ゴルフの特徴として「屋外滞在時間が長い」ことを指摘した。
坪田氏は、「ブルーライトがOPN4を介してサーカディアンリズムや気分に影響を与えることが、光でアンチエイジングを与えるきっかけを与えてくれた」と振り返った。
その後、坪田氏は、バイオレットライトがOPN5を介して近視予防やうつ改善に効果をもたらすことを発見し、光で網膜の感受性GPCR(OPN5など)を刺激して脳や全身の血流を改善しアンチエイジングに繋がる可能性を追求している。
最後に、「屋外の光は健康に必須だが、現代人は屋外光不足である。具体的には、現在人はバイオレットライト不足であり、OPN5を活性化するアンチエイジング戦略が成り立つ」と総括し、「光でアンチエイジング!を基礎に抗加齢ベンチャー坪田ラボは、世界にチャレンジする」と訴求した。

「抗加齢医学の地平を拓く:内分泌、選食、生物時計による創造長寿への旅」をテーマに講演した堀江重郎氏(日本抗加齢医学会前理事長)は、①内分泌調節(特にテストステロン)、②選食、③生物時計の3つの軸を通じて「創造長寿」の新しい概念に至った道筋を紹介した。
堀江氏は、ホルモンの観点から抗加齢学会に関わってきた。男性ホルモン(テストステロン)は、①冒険のホルモン(狩猟、旅、新しいことへのチャレンジ)、②社会性のホルモン(仲間、家族、他人との関わり、縄張り)、③競争のホルモン(ゲーム[麻雀、囲碁、将棋]、スポーツ、仕事、達成感)として大きく生体に関連している。
選食は、①食に多様性をほどよい制限をする(質と量を選ぶ)、②自分に合った食を選ぶ(価値を選ぶ)、③食を楽しむ(機会を選ぶ)に深い関わりがあり、「自分に本当に必要なものを量・質ともに見定め、接種することが重要である」
生物時計は、若返りという抽象概念を科学的・定量的に評価するための新たな指標であり、これにより抗加齢の取り組みが医学的に検証可能となる。
堀江氏は、「老齢マウスに若年とマウスの血清を入れると神経細胞、血流、筋肉の活性が見られ、実験動物では若返りが可能である」と紹介。
その上で、「テストステロン、選食、生物時計を組み合わせることで創造長寿、すなわち時間をデザインする医療が可能になる。生物時計による測定で、人生の残り時間も判るようになり、健康への取り組みも評価できる。長寿を創造する時代が来る」と訴えかけた。

パネルディスカッションでは、次期日本抗加齢医学会理事長に就任する森下竜一氏(大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授)が、「これからの抗加齢医学会は、従来の食い止めるという考え方から一歩進んで、老化を巻き戻す視点で挑戦し、皆さんと共に歩んでいきたい」と抱負を述べた。
会長講演では中神氏が生活習慣病治療ワクチンの実用化研究紹介

中神啓徳氏は、「抗加齢医学4半世紀を経て、2050年の未来予想図」をテーマとした会長講演で、基礎研究で同氏らが開発した独自の治療ワクチンの実用化研究を紹介した。
中神氏らは、2050年に向けて年に数回のワクチン治療で、脂質異常症、心不全、認知症などの様々な老化関連疾患の管理実現を目指している。
これらの老齢化研究を実用化するには、老化指標の確立が必須であるが、メチル化DNAなどの生物学的年齢が確立されることにより、2050年には老化に対する有効な介入治療が実践されていることが期待される。
また、生活習慣の改善に加えて、今後、生活環境の重要性が増してくるものと予想される。中神氏は、「我々も住宅環境と血圧などの生体情報との臨床研究に着手しており、パーソナルヘルスレコードの活用を含めたデジタル医療の有効活用による未来医療を想起している」と報告。
AIを含む科学・医療技術の進歩にも言及し、「2050年の医療は、予測不能なレベルに到達している可能性が高い。その中で、個々の幸せとのバランスも次の25年で重視されると考えられる」と予測した。
