寝具が睡眠中の暖かさに与える影響の定量化で良質な睡眠獲得に寄与 早稲田大学スマート社会技術融合研究機構

 秋元瑞穂早稲田大学スマート社会技術融合研究機構 研究助手、田辺新一同大学理工学術院教授、およびデンマーク工科大学の研究グループは、寝具が睡眠中の暖かさに与える影響を定量化し、良質な睡眠を得るための環境条件についての新たな知見を明らかにした。
 寝具が睡眠中の暖かさに与える影響についてサーマルマネキンおよび人体モデルによる測定と検証を行ったもの。その結果、寝具の熱抵抗や周囲温度に応じた暖冷房の効果を部位ごとに求め、同じ着衣および掛布団の組み合わせでも寝姿勢や掛布団のかけ方によって皮膚温が異なることが判明した。実験では、22.6℃の環境下で着衣や掛布団の種類およびかけ方の組み合わせにより8.5℃相当の調整が可能であることが分かった。
 これらの研究成果は、Elsevier社発行の国際学術誌「Building and Environment」の2025年7月1日発行号に掲載される予定で、オンライン版が2025年4月26日に公開された。
 睡眠の質の低下は免疫力や日中のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが報告されており、良質な睡眠の確保は喫緊の課題となっている。寝床内環境は、良質な睡眠に必要とされる快適な温熱条件を確保する上で重要だ。
 この寝床内環境を形成する要素には、周囲の温度や湿度、人体から発生する熱、そして寝具の保温性能が含まれる。
 同研究では、サーマルマネキンによる測定と、人体体温調節モデルJOS-3を用いたシミュレーションを通じて、これらの要素の相互関係を検討した。
 周囲温度、睡眠時の姿勢、着衣、掛布団の種類およびかけ方についてさまざまな組み合わせの影響を検討し、寝具の熱抵抗※5を調査した。また、サーマルマネキンに基づく等価温度を算出することで、寝具の熱抵抗や周囲温度に応じた暖冷房の効果を示し、JOS-3モデルに基づく等価温度の算出により発汗の影響も考慮した。
 さらに、寝具による全身および局所の熱的影響について、その結果を考察。例えば、図1に示す通り、全身平均の熱抵抗は身体とマットレス・枕・掛布団の接触体表面積割合が高くなるほど上昇する傾向(図1赤枠内)が確認された。
 部位ごとの比較では仰臥位において腰部 背面、頭頂部、首後部、左右の背部といったマットレス接触面で熱抵抗が大きくなる傾向がみられる一方で、より掛布団との接触面が大きい側臥位では全体的に熱抵抗があることがわかる。
 寝具の熱抵抗は全身一様ではないため、寝姿勢・着衣・掛布団の種類およびかけ方に応じた局所的な温熱環境の評価が重要であることを明らかになった。
 また、サーマルマネキンによる測定とJOS-3シミュレーションを用いて、発汗を伴わずに寝具だけでどれだけの暖かさの調整ができるかを検討した(図2)。たとえば、22.6°Cの環境下において、1.10~2.16 cloの範囲(図2赤枠内)で着衣や掛布団の種類およびかけ方を調整することは、等価温度で14.5~23.0°Cに相当し、寝具だけで約8.5°Cの調整が可能であることが読み取れる。

図1:ブランケット使用時、周囲温度22.6°Cにおける裸体マネキンの寝具の熱抵抗の比較

仰臥位(上段)および側臥位(下段)、ならびに接触体表面積割合ごとの結果を示している。 パジャマ、羽毛布団の組み合わせの結果についても同様の傾向が確認された。

図2:JOS-3モデルに基づく発汗を考慮した等価温度の周囲温度別比較

基準条件は、仰臥位のサーマルマネキンがパジャマを着用し、ブランケットを使用(接触体表面積割合54.4%)した状態で、周囲温度が22.6°Cの場合である。


 同研究の成果は、寝室の温熱環境と寝具の熱抵抗について定量的な測定を行い、その影響を明らかにしたことだ。近年の気候変動による夜間の気温上昇を背景に、寝室環境におけるオーバーヒート対策は優先すべき課題である。睡眠中の暑熱ストレスのリスク評価にあたり、寝具の熱抵抗やその影響に関する知見は非常に実用性が高いといえる。
 同研究グループでは実際の寝室での実態調査も行っており、これらの調査と同研究で得られた寝具の影響を組み合わせることが重要になると考えている。
 また、近年、高い吸湿性能をもつ繊維素材を含んだ寝具が開発されていることを踏まえると、今回使用したものとは異なる特性をもつマットレスや着衣、掛布団を用いたさらなる調査が必要である。水分含有量や相対湿度が寝具の断熱性に与える影響についても、より詳細な検討が期待される。
 今後、今回の実験から得られたデータを用いて、より実際に近いシミュレーションモデルを作成するなどして、良質な睡眠に関してより幅広く研究を進めていく。

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