ADHD中核症状緩和に効果的な認知行動療法の技法発見 福井大学等の研究チーム

図1ADHDの中核症状緩和に効果的な認知行動療法の構成要素を組み込んだ、子どもと保護者のためのインターネット治療プログラムのユーザーインターフェース

 福井⼤学⼦どものこころの発達研究センター情動認知発達研究部⾨ 濱⾕沙世助教、鹿児島大学病院 松本一記研究准教授らの研究チームは、ADHD(注意欠如多動症)の中核症状である不注意症状と多動性/衝動性症状を緩和させる認知行動療の技法を世界で初めて明らかにした。
 同手法は、システマティック・レビューにより検出された全世界43件のランダム化比較試験から抽出したデータを、コンポーネント・ネットワーク・メタアナリシスと呼ぶエビデンス統合のための統計解析手法を用いて行うもの。同研究成果により、ADHDを持つ人に最適な治療法の提案と、新規治療開発の推進が期待できる。
 今回特定された認知行動療法の構成要素を含む治療者用マニュアル(濱谷・松本, 未公開)の作成と、子どもと保護者のためのインターネット治療プログラムの開発を完了している(図1)。また、同研究成果は、2024年12月27日に国際学術誌BMJ Mental Healthに公開された。同研究成果のポイントは、次の通り。

・ADHDに対する認知行動療法の有効性を調べたランダム化比較試験について5つのデータベースで検索を行い、2024年2月29日までに公開された43試験に登録された3817症例の結果をネットワーク・メタアナリシスで統合した。

・ 治療レベルでは、第3世代療法(マインドフルネス認知療法、弁証的行動療法、アクセプタンス・コミットメント・セラピー)、行動療法、認知行動療法の順にプラセボよりも、ADHDの中核症状を緩和させることがわかった。

・ コンポーネントレベルでは、「組織化戦略」と「第3世代技法」が認知行動療法への治療反応性を高めることに関連しており、「問題解決技法」が不注意症状の緩和に関連することがわかった。

・ 認知行動療法は、さまざまな技法が組み合わせて提供される複雑な精神療法である。同研究におけるADHDに有効な認知行動療法の技法発見により、支援ニーズに応じた最適な治療の提案や新規治療プロダクトの開発が期待できる。
 ADHDの治療として薬物療法が有効とされている。だが、薬物療法による寛解は稀であり、ほとんどの症例でADHDの中核症状は残存する。他方で、精神療法、特に認知行動療法は、ADHDの中核症状の緩和に効果があるとされている。
 ただし、非常に多くの認知的・行動的技法が存在する認知行動療法で、どのような構成要素(コンポーネント)がADHD中核症状の緩和に有益であるのかは未知であった。
 そこで、濱谷氏らは、ADHDに対する認知行動療法の有効性を評価したランダム化比較試験を体系的に調べて、治療レベルとコンポーネントレベルのネットワーク・メタアナリシスを行った。
 具体的には、5つのデータベースで検索を行い、2024年2月29日までに英語で公開された43試験3817症例のエビデンスを統合した。治療レベルの解析から、第3世代療法(マインドフルネス認知療法、弁証法的行動療法、アクセプタンス・コミットメント・セラピー)、行動療法、認知行動療法の順にプラセボよりも、ADHD中核症状の緩和に効果的であることが判った。
 図1は、治療レベルのネットワークである。コンポーネントレベルの解析からは、「組織化戦略」と「第3世代技法」が治療反応性を高めることに関連しており、「問題解決技法」が不注意症状の緩和に関連していることが判明した。

図2治療レベルのネットワークグラフ

 今回の研究で、ADHDの中核症状を緩和に効果的な認知行動療法の構成要素が特定された。この成果がADHD支援に関わるすべての人にとって、治療方針を決定する上での有益な情報となることが期待される。
 今後は、これらの構成要素が含まれた認知行動療法プログラムの効果検証や、インターネットを介して効果的な治療へのアクセスを高める研究の実施が期待される。
 同研究を遂行した研究チームは、すでに今回特定された認知行動療法の構成要素を含む治療者用マニュアル(濱谷・松本, 未公開)の作成と、子どもと保護者のためのインターネット治療プログラムの開発を完了している(CARP, Children with ADHD Rescue Project: 図1参照)。
 将来的には、これらを活用した臨床試験を行い、得られた治験を学術成果としてまとめて、関連学会や学術誌に報告していく予定である。

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