胆道がん治療決定では患者・医師のより良いコミュニケーションで患者の後悔度が低下 アストラゼネカの胆道がん患者調査

 アストラゼネカは3日、 胆道がんと診断されたことのある74名を対象に7月に実施したインターネットでの胆道がん患者調査において、治療選択肢が限られている胆道がんであっても「医師と十分に共有し、意思決定した患者」は、自身の治療選択を後悔せず、納得して治療と向き合えることに繋がっていたことが判ったと発表した。
 同調査は、患者と医師が一緒に意思決定をしていくシェアード・ディシジョン・メイキング( SDM) の考え方に基づき、治療にあたっての患者と医師のコミュニケーションにおける実態と課題を明らかにすることを目的としたもの。同調査結果から、胆道がんの治療決定において、患者と医師のコミュニケーションがよりなされている場合、患者の後悔度は低かったことが示された。
 胆道がんは、胆管および胆のう、十二指腸乳頭に発症するがんの総称である。2023年に日本では2 万3000 人以上が新たに診断され、年間死亡者数は約1万8000人で、死亡率は膵がんに次いで2番目に高いとされている。
 胆道がんは50代から増え始め、70~80代に多く発症する。初期症状が出にくく、黄疸などの症状に気づいた時には進行しているケースが多くみられる。
 進行した胆道がんでは、治療選択肢が限られており、予後も不良のことが多く、そのため診断後は、患者がこの先の人生において何を大事にしていきたいと考えているかを医療者と共有し相談することが、納得した治療を進める上で重要となる。
 調査の概要、調査結果サマリー、調査結果の詳細、同調査の監修医師である中山健氏(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野教授)のコメントは、次の通り。

【調査の概要】
◆目的:胆道がん患者と医療者の治療決定に関わるコミュニケーションの実態把握などについて調べるインターネット調査

◆調査期間:2024 年 7 月 3 日(水)~2024 年 7 月 24 日(水)

◆調査対象:5年以内に胆道がんと診断されたことのある人、または再発された人74名
(早期:59 名 進行・再発:15 名)

◆調査方法:インターネット調査(調査委託先:株式会社メディリード)

【調査結果サマリー】
1、 胆道がんと診断された経緯について、「体調の変化があったため」と回答したのは、進行ステージの患者の50%、早期ステージ患者の37%、また、「健康診断・人間ドック等で異常を指摘され、診断に至った」と回答したのは、進行ステージでは19%、早期ステージでは29%であった。

2、 診断後、治療において患者が大事にしたいと思ったことでは、「家族になるべく負担をかけたくない」が57%と最多だった。大事にしたいと思ったことを「医師と話した」割合は低く、なかでも家族に関する項目については、大事にしたいと思ったと回答した人のうち、それを医師と話した人の割合は半分以下であった。

3、 患者と医師の共有意思決定(SDM)に関する質問に対しては、「医師と私は、今後の治療の進め方について合意した」と回答した患者は 88%であったのに対し、その合意におけるプロセスに関する項目である「一緒に治療上の選択肢を選んだ」は72%、「それぞれの治療方法について徹底的に比較検討した」は 57%と相対的に低かった。

4、 治療の決断に対する後悔度が低い患者の共有意思決定(SDM)スコア平均は 34.5 点であり、後悔度が高い患者の平均26点より高かった。SDM スコアと Decision Regret Scale(DRS)には中程度の負の相関関係がみられ、SDM スコアの平均が高い、すなわち、患者と医師のコミュニケーションがよりされている場合、患者さんの後悔度は低かった。

【調査結果の詳細】
① 胆道がんと診断された経緯について、「体調の変化があったため」と回答したのは進行ステージの患者の50%、早期ステージの患者の37%、また、「健康診断・人間ドック等で異常を指摘され、診断に至った」と回答したのは、進行ステージでは19%、早期ステージでは 29%だった。
 診断の経緯を診断時のステージ別に見た場合、「体調の変化」がきっかけとなるケースが、早期ステージ(0~Ⅱ期)、進行ステージ(Ⅲ~Ⅳ期)ともに最も多く、それぞれ 37%、50%であった。なお、「健康診断・人間ドック等で異常を指摘され、診断に至った」患者は、早期ステージでは 29%、進行ステージでは 19%と、早期ステージのほうが健康診断がきっかけとなっている患者が多いことが示された。
 胆道がんは、50 代から罹患者数が増えるが、初期症状が出にくく、黄疸などの症状に気づいた時には進行しているケースが多くみられる。
 血液検査の数値や腹部超音波(お腹のエコー)は、胆道がんの早期発見の手がかりとなる可能性があることから、症状がなくても、定期的に健康診断などで腹部超音波検査を受けることが重要である。

② 診断後、治療において患者が大事にしたいと思ったことでは、「家族になるべく負担をかけたくない」が57%と最多だった。大事にしたいと思ったことを「医師と話した」割合は低く、なかでも家族に関する項目については、大事にしたいと思ったと回答した人のうち、それを医師と話した人の割合は半分以下だった。
 胆道がんと診断された後、患者が大事にしたいと思ったことで最も多かったのは「家族になるべく負担をかけたくない」(57%)で、次に「つらい治療はしたくない」(43%)、「家族や友人と一緒に過ごしたい」(39%)が続き、治療開始後もこれまでと変わらない生活を送ることを重視していることがわかった。
 一方で、大事にしたいと思った各項目を、「医師と話した」割合はいずれも低い結果であった。

③ 患者と医師の共有意思決定(SDM)に関する質問に対しては、「医師と私は、今後の治療の進め方について合意した」と回答した患者は 88%であったのに対し、その合意におけるプロセスに関する項目である「一緒に治療上の選択肢を選んだ」は 72%、「それぞれの治療方法について徹底的に比較検討した」は 57%で相対的に低かった。
 治療決定のための患者と医師の共有意思決定評価指標(SDM-Q-9)には 9 つの質問がある。そのうち、「医師と私は、今後の治療の進め方について合意した」の 88%に比べて、「医師と私は、一緒に治療上の選択肢を選んだ」、「医師と私は、それぞれの治療方法について徹底的に比較検討した」などの合意に至るプロセスに関する項目のスコアが低かったことは、胆道がんの治療における患者と医師との共有意思決定(SDM)のプロセス上に、まだ課題がある可能性を示唆していると考えられる。

④ 治療の決断に対する後悔度が低い患者のSDMスコア平均は34.5点であり、後悔度が高い患者の平均26点より高かった。SDMスコアと Decision Regret Scale(DRS)には中程度の負の相関関係がみられ、SDM スコアの平均が高い、すなわち、患者と医師のコミュニケーションがよりされている場合、患者の後悔度は低かった。
 今回の調査では、治療決定のための患者と医師の共有意思決定評価指標(SDM-Q-9)の評価と、患者が関与した治療決定に対する『後悔度』との相関をみて、患者と医師の共有意思決定が、患者の治療決定に対する後悔度にどの程度影響するかを探索した。今回、後悔度の測定には、2003 年にカナダで開発されたDecision Regret Scale の日本語版(DRS スコア)を用いた。DRS スコア平均9.3 点(25 満点)を境に、後悔度が低い群(DRS スコア平均点未満)と、後悔度が高い群(DRS 平均
点以上)とを比較すると、後悔度が低い患者のSDM-Q-9スコア平均は34.5点であり、後悔度が高い患者のSDM-Q-9 スコア平均26点より高いことがわかった。
 また、SDM-Q‐9 スコアと DRS スコアには中程度の負の相関関係がみられ、治療後の患者の後悔度を低減するためには SDM が重要となることが示された。

【中山健夫氏のコメント】
 今回、胆道がん患者さんの治療の意思決定におけるプロセスについて SDM の指標(SDM-Q-9*)に基づいて分析したところ、治療選択肢が少なく、難治性のがんであるがゆえの課題が示唆された。いずれのがんにおいても診療ガイドラインに基づいて、医師は治療提案を行うが、胆道がん患者さんは、家族への影響や、治療のつらさ、この先の生活がどう変わってしまうのかを重要視している。
 医師は、そのような患者さんの気持ちに配慮して、丁寧に話し合いながら説明をすることが重要である。それによって、仮に選択肢が限られていても、その治療に対する胆道がん患者さんの後悔度を最小限にとどめ、納得して治療と向き合うことが期待できると考えられる。
 

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