ALT値が示す新たな脂肪性肝疾患リスクを検証 岐阜大学

 岐阜大学保健管理センター山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、職域健康診断における脂肪性肝疾患(MASLD)の同定についてALT(alanine transaminase)値との関連を明らかにした。
 2023年にMASLDの新定義が提唱され、日本肝臓学会では肝疾患の早期発見・早期治療を目的として「奈良宣言2023」を提唱し、ALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めている。山本氏らの研究により、MASLDを特定するためのカットオフ値としてALT 29 IU/Lが算出され、日本肝臓学会の推奨は健康診断におけるMASLDの観点からも妥当であることが明らかになった。
 今後ALTを指標としたMASLDの把握が、食生活あるいは運動習慣の是正につながり、脂肪性肝疾患の改善と健康寿命延長への寄与が期待される。これらの研究成果は、本年6月17日にJGH Open誌で発表された。
 肥満人口の増加に伴い、代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、世界的に増加傾向であり、本邦でも増加することが見込まれている。また、日本肝臓学会は肝疾患の早期発見・早期治療を目的として「奈良宣言2023」を提唱し、ALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めている。
 だが、健康診断の場において、奈良宣言における提言がMASLDの拾い上げの観点で有用かは十分に検討されていない。
 そこで、山本氏らは、職域健康診断受診者を対象としてMASLDの実態とALTを含むバイオマーカーとの関連について検討した。
 同研究では大学職員健康診断を受診した627名を対象とし、通常の健康診断項目に加えて腹部超音波検査を行い、MASLDの実態とALTを含むバイオマーカーとの関連について検討した。参加者の年齢中央値は46歳、body mass index(BMI)中央値は23 kg/m2であった。
 腹部超音波検査と健康診断結果により、28% (男性38%、女性18%) がMASLDと判定された。MASLDを有する受診者ではそうでない受診者と比較して有意にALT値が高いことが明らかになった(27 vs. 15; P < 0.001)。
 RCS解析ではALT値の上昇とともにMASLDのオッズ比が上昇することが明らかであり、男性および女性のサブグループにおいても同様の結果であった(図1)。
 ROC解析では、MASLDに対するALT値のAUCは、全体で0.79、男性で0.81、女性で0.69であり、MASLDに対する特異度が90%以上となるALTのカットオフ値は29 IU/Lが算出された。 従って、奈良宣言の提唱するALT値が30以上の受診者では、MASLDのリスクが高く、MASLDの精査あるいは食事療法・運動療法を含む生活習慣改善を要する対象者であることが示唆された。

 次にFatty liver index(FLI)7)とHepatic steatosis index(HSI)についても同様に検討した。FLIはBMI、腹囲、中性脂肪、γGTPから、HSIはAST、ALT、BMI、性別、糖尿病の有無からそれぞれ算出される指数であり、脂肪性肝疾患のバイオマーカーとしてそれぞれ有用であることが報告されているが、MASLDの観点からは検討されていない。
 ALTと同様にMASLDを有する受診者はそうでない受診者と比較して有意にFLI (54 vs. 7; P < 0.001)、HSI (37 vs. 28; P < 0.001) が高値であることが示された。RCS解析ではFLIあるいはHSIが上昇するにしたがってMASLDのオッズ比が上昇することが示された。
 また、男性および女性のサブグループにおいてもFLIおよびHSIの上昇とともにMASLDのオッズ比が上昇する結果であった(図2)。

 ROC解析では、MASLDに対するFLIのAUCは、全体で0.90、男性で0.87、女性で0.93であり、HSIのAUCは、全体で0.88、男性で0.86、女性で0.90であり、FLIとHSIの間でMASLDの検出能に有意差はなかった(図3)。
 一方で、HSIでは男女間のカットオフ値の差が小さいのに対し、FLIでは男女間のカットオフ値の差が大きいことが示された。このことからFLIとHSIはともに健康診断におけるMASLDの拾い上げに有用であることが示されたが、FLIを用いる際には男女別のカットオフ値を検討する必要性があることが示された。

 これらのことから、年齢中央値46歳の大学職員において28%(男性38%、女性18%)にMASLDがあり、ALTが有用なマーカーとなることが示唆された。
 また、MASLDを特定するためのカットオフ値としてALT 29 IU/Lが算出され、日本肝臓学会の提唱する「奈良宣言2023」においてALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することの推奨は健康診断におけるMASLDの観点からも妥当であることが明らかになった。
 加えて、FLIおよびHSIは診断能の高いMASLDの指標であることも示唆された。同研究結果により、職域健康診断においてMASLDを効率的に拾い上げる方法が確立され、MASLDの早期発見・進展予防への寄与が期待される。
 同研究により、職域健康診断における奈良宣言の有用性が明らかとなった。今後ALTを指標としたMASLDの把握が、食生活あるいは運動習慣の是正につながり、脂肪性肝疾患の改善と健康寿命の延長に寄与することが期待される。

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