がん治療や抗がん剤開発に期待
大阪大学産業科学研究所の山口哲志教授、京都大学医学系研究科の山平真也特定講師らの研究グループは、細胞を望みの配置に並べて調べられる光応答性培養基材を開発した。
同基材は、免疫細胞とがん細胞との相互作用を一つずつ観察して治療効果の高い免疫細胞を探すプラットフォーム技術で、がん治療への応用やがん細胞を殺傷するための薬剤開発に期待できる。
山口教授らは、独自に開発した光応答性の高分子材料を培養基材表面に修飾することで、光を照射したところにだけどんな細胞も瞬時にくっつく基材を開発した。
この表面では、複数種類の細胞を望みの光パターンに応じて配置できる(図A)。また、光によって精緻に短時間で配置できることから、多くの種類の細胞を簡単に1細胞レベルの精度で配置でき、浮遊性の細胞もくっつけることができる(図B)。
血液の細胞など、体内を循環している細胞は浮遊性の細胞であり、他の技術では基材にくっつけることができない。そこで、この基材を用いて、浮遊性の免疫細胞とがん細胞とを一つずつペアにして並べ、その相互作用を観察する技術を開発した(図C)。
その結果、免疫細胞ががん細胞を殺傷する様子をリアルタイムで観察でき、そのがん細胞傷害性の不均一性を可視化できた(図D,E)。
さらに、膨大な数の観察画像の解析データを機械学習にかけることで、がん細胞傷害性の異なる免疫細胞を1細胞ずつ自動分類できる(図F)。
また、今回、並べて観察した細胞を光に応じて1細胞ずつ回収し、その遺伝子を調べる技術の開発にも成功した。
近年、細胞集団の中の個々の細胞の性質は同じではなく、その不均一性が病気の重篤化や治療効果に大きな影響があることが分かってきた。今回、免疫細胞のがん細胞傷害性を1細胞観察し、殺される細胞の画像データから、どのような殺し方をする免疫細胞がどれで、それがどれくらいいるのか、が初めてわかるようになった(図G,H)。
このような未知の情報を得ることができる本技術は、がんの治療に最適な人工免疫細胞の開発や品質管理、がん細胞を殺傷するための薬の開発へ応用が期待される。