血管肉腫治療薬開発への応用に期待
マンスフィールド財団・米国研究製薬工業協会(PhRMA)指定スカラーを中心とした岐阜大学高等研究院平島一輝 G-YLC特任助教らの研究グループは、イヌ血管肉腫を疾病モデルとして創薬に応用するために必要な要件を、基礎研究、臨床、薬事規制、獣医病理学の専門家を交えて包括的な観点から検討し、その成果を論文として公開した。
ヒトとイヌでは、共通する病理学的・分子生物学的異常(PIK3CA、TP53、RAS、KDR、VEGFA、KIT)があり、マウスでは再現できないがん微小環境における多様性と完全な免疫機能を保持している。ヒトの血管肉腫は極めて予後が悪い悪性腫瘍であるが、患者数が非常に少なく、治療薬の開発(創薬研究)が進んでいない。イヌの血管肉腫は、ヒトと異なり高頻度に発生するうえ、ヒトと似た臨床動態と病理学的性質を示すため(図1)、ヒト血管肉腫の疾病モデルとして有用と考えられてきた。
だが、現時点ではイヌ血管肉腫は創薬モデルとして確立されておらず、治療薬開発への応用は実現していない。血管肉腫は、5年生存率9%程度と極めて予後が悪い悪性腫瘍であるが、患者数が非常に少なく(日本で年間50人程度、人口の0.00004%)である。
血管肉腫はヒトだけではなく、イヌにも発生する。イヌ血管肉腫はヒト血管肉腫とよく似た臨床動態と病理学的性質を持つ一方で、特定の犬種に極めて高い確率で発生する。そのため、イヌ血管肉腫はヒト血管肉腫の疾病モデルとして新たな治療薬開発研究への応用が期待されている。
一方で、イヌ血管肉腫は現時点では創薬開発モデルとして確立されておらず、薬剤開発への応用を推進するためには包括的な観点からのモデルの評価と議論が必要であった。
こうした中、平島氏らの研究グループは、IDEXXラボラトリーズ平島瑞希獣医師(米国獣医病理学専門医 解剖病理)と協働し、基礎研究・臨床・薬事規制・病理学の観点からイヌ血管肉腫の有用性を評価し、総説論文として公開した。
論文は、日本時間2023年12月7日14時00分にFrontiers in Oncology誌(Impact Factor 6.24)のオンライン版で発表された。同成果により、イヌ腫瘍モデルを用いた創薬研究推進の議論がさらに活性化し、新たな治療薬開発研究への応用が期待される。