ナノスケールの箱庭でペプチド分子の草原作りやDNA分子伸長によるナノサイズの花の育成に成功 岐阜大学

医療・化粧品用材料開発分野での応用に期待

 池田将岐阜大学工学部化学・生命工学科教授、河野慎一郎名古屋大学大学院理学研究科講師、鈴木健一岐阜大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE) 糖鎖分子科学研究センター(iGMOL)の研究グループは、ナノスケールの箱庭でペプチド分子を集めた草原をつくり、DNA分子を伸長してナノサイズの花を咲かせることに成功した。
 ペプチド分子を集合させた繊維状のナノ構造体であるナノファイバーと、DNAナノフラワーと呼ばれる環状DNA分子から得られるフラワー状のナノ構造体を、水中かつ温和なプロセスで、それぞれの構成要素となる複数の分子を同一空間に共存させた混合状態から規則正しく組み立てることを実現したもの。今回開発された材料は、ナノ構造体としての特性を活かすことで、医療・化粧品用材料の開発分野における応用が期待できる。
 これらの研究成果は、イギリスの王立化学会 (Royal Society of Chemistry, RSC) 刊行の学術雑誌「Nanoscale」のFront Coverに選ばれ、1月21日付出版号(2023年、15巻、3号)に掲載された。Nanoscaleは、ナノテクノロジーとナノサイエンス分野における実験的・理論的研究をカバーする査読付きの学術雑誌。
 NanoscaleのFront Coverに選ばれたCG (Computer Graphics) では、同研究成果を、岐阜県の県花でもある蓮華草(れんげそう)の花などを用いて表現している。なお、CGは同研究内容とイメージ案を元に、サイエンス・グラフィックスの辻野貴志氏によって制作された。

今回の研究成果を岐阜県の県花でもある蓮華草(れんげそう)の花を使って表現し、学術雑誌NanoscaleのFront Coverに選ばれたCG
(Reproduced from Reference (doi:10.1039/D2NR04556G) with permission from the Royal Society of Chemistry.)

 分子を規則正しく集合させることによって組み立てるナノスケールの構造体は、新しい材料開発につながるユニークで有用な機能や性質を秘めている可能性がある。
 同研究は、ペプチド分子から繊維状のナノ構造体である「ナノファイバー」と、環状のDNA分子からフラワー状のナノ構造体である「DNAナノフラワー」を、それぞれの構成要素となる複数種類の分子が同一空間に共存した混合溶液状態を出発にして、規則正しく作り出せることを実験的に証明した最初の例になる。

図1 ペプチド分子ナノファイバーとDNAナノフラワーを水中かつ体温程度の温和なプロセスで規則正しく組み立てる仕組みを示した模式図、および共存状態を可視化した蛍光顕微鏡画像(緑色部位がナノファイバーを、マゼンタ色部位がDNAナノフラワーの存在をそれぞれ可視化している)

 同研究のように、複数種類のナノスケールの構造体を、その構成要素となる複数種類の分子の共存・混合状態から規則正しく組み立てる方法論は、学術的に未だ発展途上で、化学者に興味を持たれている研究対象の一つだ。
 今回開発された材料は、ヒドロゲルとよばれる95%以上が水でできている素材であるため生体適合性が高く(人の体は約60%が水とされている)、ペプチドやDNA、酵素など主に生体由来の分子を活用して水中かつ温和なプロセスで作り上げられているため材料開発の持続可能性も高いと期待される。
 さらに、ナノ構造体としての特性を活かすことで、医療・化粧品用材料の開発分野における応用が期待できる。

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