ドクタートラストは、2022年度にストレスチェックの実施を受託した1162の企業・団体における集団分析データをもとに、[高ストレス者率][健康リスク]の業種別ランキングを算出した。
同社ストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者163万人超のデータを活用し、さまざまな分析を行っている。
今回の調査結果では、高ストレス者率の高い業種として、「製造業」、以下「宿泊業、飲食サービス業」、「卸売業、小売業」が明らかになった。
また、健康リスクの高い業種としては、総合的な健康リスクでは、「製造業」「医療、福祉」、「仕事の負担」において健康リスクが高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」、「教育、学習支援業」、「仕事のコントロール」で健康リスクが高い業種は「医療、福祉」、「運輸業、郵便業」、「上司・同僚からのサポート」で健康リスクが高いのは、「運輸業、郵便業」、「製造業」であった。
ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促すこと、また、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定され、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。
今回の調査は、2022年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した方のうち、41万0352人の最新結果を分析したもの。調査対象、調査結果の詳細、まとめは次の通り。
【調査対象】
◆調査期間:2022年4月1日~2023年3月31日
◆調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2022年度契約企業・団体の一部
◆企業・団体数:1162
◆有効受検者数:41万0352人
【調査結果の詳細】
高ストレス者率ランキング
高ストレス者率とは、実際に受検をした人のなかで、高ストレス者と判定された人がどれくらいいるかを示した割合で、2022年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した企業・団体の高ストレス者率の平均は15.5%であった。
<高ストレス者とは>
・ ストレスの自覚症状が高い人
・ ストレスの自覚症状が一定程度あり、かつ仕事の負担と周囲のサポート状況が著しく悪いと判定された人
表1は、高ストレス者率を業種ごとに算出したもので、高ストレス者率が高い順に示している。
高ストレス者率が高い業種は「製造業」、以下「宿泊業、飲食サービス業」、「卸売業、小売業」と続く。
高ストレス者率が最も高かった「製造業」は、全業種平均と比較すると3.9%高い結果となった。また、「製造業」の高ストレス者率は2020年度以降、増加傾向が続いている。(表2)
健康リスクランキング
1、最も総合健康リスクが高い業種は「製造業」、「医療、福祉」
ストレスチェックの結果を部署や、事業場ごとに分析した集団分析では、集団の「健康リスク」が示される。健康リスクとは、企業や団体の中で仕事のストレス要因から起こり得る疾病休業などの健康問題のリスクを、標準集団の平均を「100」として示す指標である。たとえば、健康リスクが「120」の集団は、その集団で健康問題が起きる可能性が、平均より「20%多い」ことを示している。
総合健康リスクを業種別に算出、リスクの高いものから順に並べたものが「表3 業種別・総合健康リスクランキング」である。「総合健康リスク」は、「仕事の負担・コントロール」リスク、および「上司・同僚からのサポート」リスクという 2つの指標をかけ合わせた数値である。2つの指標への意味の理解と「現状の数値から何を読み取ることができるのか」が健康リスクを扱う上で、非常に重要なポイントとなっている。
表3のとおり、総合健康リスクが最も高かった業種は「製造業」「医療、福祉」で、以下「運輸業、郵便業」が続く。
表1で見たように、「製造業」は高ストレス者率が最も高い業種であったが、健康リスクも最も高いことがわかる。
総合健康リスクが同率トップである「製造業」と「医療、福祉」のうち、「製造業」は「上司・同僚からのサポート」において、「医療、福祉」は「仕事の負担・コントロール」において高いストレス負荷がかかっていた。
さらに、「運輸業、郵便業」は「上司・同僚からのサポート」において、全業種の中で最も高いストレス負荷がかかっていた。
2、 健康リスクが高い上位3業種、前年度より改善がみられる
表4は、総合健康リスクについて、2022年度と2021年度を比較したものだ。2021年度より総合健康リスクが高くなった場合は赤、低くなった場合は青で示している。
2022年度の健康リスクが高い「製造業」と「医療、福祉」と「運輸業、郵便業」を2021年度と比較するとリスク値は下がり、改善がみられた。
3、「仕事の負担」で最も健康リスクが高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」、以下「教育、学習支援業」
総合健康リスクを算出する1つ目の指標「仕事の負担・コントロール」リスクとは、個人ごとの仕事量の負担と、仕事量をいかにコントロールできているか、そのバランスがストレスに及ぼす影響を示している。
たとえば、仕事の量が多かったり困難な業務内容であったりしても、自分なりのやり方やペース配分で行うことができればストレスは高くならず、リスク値は低く算出される。ところが仕事の負担はそれほどではなくても、順番ややり方が固定され、自らの裁量が生かせない状況では、ストレスは高まり、リスク値は高く算出される。
「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事の負担」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表5業種別・仕事の負担ランキング」である。
表5は、数値が大きいほど「仕事の負担が多い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
1、 非常にたくさんの仕事をしなければならない
2、 時間内に仕事が処理しきれない
3、 一生懸命働かなければならない
このように仕事の量・処理速度・熱量などを問う設問から構成されており、数値が大きいほど仕事の負担が大きい、すなわち不良であることを示している。
1位は「宿泊業、飲食サービス業」、2位「教育、学習支援業」、3位「卸売業、小売業」であった。
この分野で最も健康リスクが高かった「宿泊業、飲食サービス業」は、コロナ禍で大きなあおりを受けた業種の一つだが、行動制限の解除や、国による旅行支援施策など需要回復に向けた取り組みもあったことから、仕事量の増加を感じたのではないかと推察される。
4、「仕事のコントロール」で最も健康リスクが高い業種は「医療、福祉」、次いで「運輸業、郵便業」
次に「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事のコントロール」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表6 業種別・仕事のコントロールランキング」である。
表6は、数値が小さいほど「仕事のコントロールがしづらい」を意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
8、 自分のペースで仕事ができる
9.、自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
10、 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
仕事をする際に個人がどれくらい仕事をコントロールできるか、または、自分で決めた順序や方法でしてよいか、その自由度が問われており、コントロールが困難な業種ほど上位にランキングされている。
1位は「医療、福祉」、2位「運輸業、郵便業」、3位「製造業」であった。
1位の「医療、福祉」は、患者に対し医療行為を行ったり、施設の利用者から求められることに迅速に応じたりすること、次に続く「運輸業、郵便業」は時間通りの運行や配達が求められることなど、業務の性質上、仕事を進める際の自由度が低いことが考えられる。
5、「上司からのサポート」で最も健康リスクが高い業種「運輸業、郵便業」、以下「製造業」、「医療、福祉」
総合健康リスクを算出する2つ目の指標「上司・同僚からのサポート」リスクとは、職場の上司や同僚とのコミュニケーションがストレスに及ぼす影響を示している。一般に仕事量が多く、裁量権が少ない職場でも上司や同僚からのサポートが得やすい職場はリスク数値が良好傾向にあり、逆に仕事量が少なく、自分のやり方で仕事を進められても、上司や同僚からのサポートが得られにくい職場はリスク数値が不良傾向になる。
「上司・同僚からのサポート」のうち、「上司からのサポート」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表7 業種別・上司からのサポートランキング」である。
表7は、数値が小さくなるほど「上司からのサポートが少ない」を意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
47、 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/上司
50、 あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/上司
53、 あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/上司
1位は2020年度、2021年度に続き「運輸業、郵便業」、2位「製造業」、3位「医療、福祉」であった。
6、「同僚からのサポート」で最も健康リスクが高い業種「運輸業、郵便業」、以下「製造業」、「学術研究、専門・技術サービス業」
次に「上司・同僚からのサポート」のうち、「同僚からのサポート」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表8 業種別・同僚からのサポートランキング」である。
表8は、数値が小さいほど「同僚からのサポートが少ない」を意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
48、 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/同僚
51、 あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/同僚
54、 あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/同僚
「上司からのサポート」と同様、1位は「運輸業、郵便業」、2位は「製造業」でした。3位には「学術研究、専門・技術サービス業」が続く。
「運輸業、郵便業」は3年連続1位、「製造業」は2年連続2位となっており、トラックやバス、タクシー運転手や配達業務など、業務を1人で担うケースや、製造工程での品質管理や安全上の問題からコミュニケーションをとることが難しい状況であることが考えられる。
【まとめ】
以上のように、「製造業」が高ストレス者率と総合健康リスクともに最も高い業種であった。「製造業」においては業務を1人で担うケースがあることや、業種特性上、コミュニケーションをとることが難しい状況であるためと考えられる。
また、オフィスワークと異なり立ち仕事であることや、扱う製品によって温度や騒音などの物理的な作業環境によるストレスから、疲労感やイライラ感などの身体的な負担につながっている可能性もある。こうした点が高ストレス者率などに表れているのではないかと考察される。
この「製造業」のように、負荷がかかりやすいポイントやストレスの傾向は、業務上の特性が大きく関わっているため、業種ごとに異なる結果が見られる。
業種を問わず大切にして欲しいのは、業務の特性上、結果が不良であったとしても、決して諦め感を抱かないことだ。業務特性や傾向を理解したうえで、「改善できるポイントはあるか?」という視点をもち、自社の実態に即した職場環境の把握と改善に取り組んで頂きたい。