メルクの日本法人であるメルクバイオファーマは、日本における、不妊治療を含む妊活ならびに子育てと仕事の両立に関する意識と実態について、20~40代の男女を対象に実施した調査結果を発表した。
事前調査は、20~40代の男女3万人、本調査は、不妊治療を経験した20代〜40代男女400人を対象に、4月28日~30日まで実施された。不妊治療経験者の内訳は、保険適用せず治療した男女300人、保険適用して治療し卒業した男女100人。
その結果、①44.1%が「子どもを授かりたいとは思わない」。理由のトップは「経済的に難しい」、②出産・育児があっても「働き続けたい」58.8%、③不妊治療経験者の42.0%が、妊活・不妊治療により「退職」「休職」「職場での居心地悪化」など経験したーなどが判明した。主な調査結果は、次の通り。
1、【将来設計】20代男女の52%が子どもを望んでいる。一方、望まない人の理由は「経済的に難しい」
・男女3万人の33.0%が「子どもを授かりたい」。20代では52.0%が子どもを望んでいる。
・一方、44.1%は「子どもを授かりたいとは思わない」。理由は「経済的に難しい」(29.7%)がトップ。
2、【不妊】妊活~受診に「1年2ヵ月」。妊活~妊娠といった全体では「2年7ヵ月」を要している
・「自身またはパートナーが不妊治療をした」人は全体の10.7%。
・妊活から産婦人科受診まで平均14.0カ月、産婦人科受診から妊娠まで平均17.1カ月。妊活から妊娠までトータル平均31.1カ月。
・妊娠するための力=妊孕性に関する教育、81.7%が受けていない、またはわからないと回答し、28.8%は「受けたかった」と希望。
3、【仕事との両立】20代女性の6割が出産・育児を経ても「働き続けたい」
いずれの制度においても、勤めている会社に対する「ロイヤリティがある層」は、「ロイヤリティがない層」に比べて、会社に不妊・出産・育児に関する制度が「ある」と回答した割合が高い
・出産・育児を機に仕事を辞めるのではなく「働き続けたい」58.8%。20代女性では61.3%が仕事の継続を希望。
・今の企業を選ぶ際に企業の出産・育児制度を「重視した」24.9%、「今後、重視する」39.4%、20代では50.2%とさらに高い。
・自社に対するロイヤリティがある層は、「産休」や「時短勤務」など出産・育児制度がある企業で働く人が多い傾向。
4、不妊治療の保険適用から1年、「経済的負担」や「心理的負担」の軽減効果を実感
・不妊治療の保険適用で、治療費などの「経済的負担」は、保険適用を受けた人では48.0%、受けていない人は33.3%が「軽減」。
・不妊治療の保険適用で、治療や通院に対する「心理的負担」は、保険適用を受けた人で37.0%、受けていない人で28.3%が「軽減」。
・一方で、職場で相談する際の心理的負担は「軽減されていない」と答えた人が不妊治療経験者全体の36.8%。
5、不妊治療経験者全体の42%が、妊活・不妊治療により「退職」「休職」「職場での居心地悪化」など経験
・妊活や不妊治療は仕事にマイナスの影響が「あった」36.3%、「なかった」27.5%。
・不妊治療経験者の42.0%が妊活や不妊治療を理由に、「退職」「休職」「職場での居心地が悪くなった」「給与ダウン」などを経験。
6、勤めている会社に妊活・出産・育児に関する制度が「ある」人の4割が、「制度を利用したことがない」。理由は「制度を知らなかった」が最多
・勤めている会社に妊活・出産・育児に関する制度が「ある」と回答した人の43.3%が、「制度を利用したことがない」と回答。理由は「制度があることを知らなかった」が最多。
・何らかの制度を「利用」:保険適用を受けていない53.0%<保険適用を受けた67.7%(保険適用を受けていない+14.8%)
・会社の妊活・出産・育児に関する制度、「会社からの周知がある」42.9%、保険適用を受けた人では53.8%が回答。
・会社に妊活・出産・育児に関して相談できる環境が「ある」37.3%。保険適用を受けていない人は「相談できる場所はないが周囲に相談できる」が保険適用を受けた人より高く、適用を受けた人は「会社提携の第三者機関」や「相談する社内部署」を活用している割合が高い。
◆永井暁子日本女子大学 人間社会学部教授(現代女性キャリア研究所所長)のコメント
2023年6月に発表された女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1.26で過去最低となり、出生数は過去最少を更新し、子どもを産み育てる環境の改善は喫緊の課題である。今回の事前調査の結果では、現在子どもがいない20代から40代の男女の4割が将来子どもを“授かりたい”と回答しているが、現在子どもがいる人もいない人も、授かりたいと思わない理由のトップとして「経済的な問題」が最も高い割合を占めた。
子どもを授かりたくない理由の2番目は「年齢的な問題」であった。これは、特に子どものいない30代以上の人に多い回答であった。結婚・出産について真剣に考えているか、という設問では「真剣に考えたことがない」が62.5%に上る一方、妊娠するための力、つまり「妊孕性(にんようせい)」に関する教育を「受けたことがある」は18.3%にとどまっている。
「結婚適齢期」に多くの人が結婚していた時代とは異なり、多様なライフスタイル・ライフコースを生きることを考えると、一人ひとりが結婚・出産に関する知識を身に付け、自分自身のライフプランを真剣に考える機会を持つことも重要であろう。
また、男女とも約6割が「出産・育児で仕事を辞めずに働き続けたい」と回答しているが、不妊治療を経験した男女の36.3%は、妊活や不妊治療が仕事にマイナスの影響が「あった」と回答し、実際、不妊治療に取り組むことによって退職、休職などの仕事上の変化を42.0%が経験している。
さらに、今後職場を選ぶ際に、「妊活・不妊治療を含めた出産・育児に関する制度」を重視するか、という設問では、約4割が“重視する”と回答している。企業は、今後ますます、子どもに恵まれたい社員がキャリアを損なったり諦めたりすることなく、安心して妊活や不妊治療、出産や育児に取り組めるよう、制度を充実させていくことが求められる。
制度の充実とともに大事なのが、制度の社内への周知である。不妊治療経験者のうち、職場に支援制度があるのに利用しなかった人は43.3%で、利用しなかった理由のトップは「制度があることを知らなかった」で、会社からの周知徹底もまだ十分といえる状況ではないことが判明した。企業は、制度を作るだけでなく、必要な人が必要なときに利用できるような空気・環境を整えることが重要である。
働く人の仕事と家庭(生活)の両立に十分配慮し、多様でかつ柔軟な働き方の選択を可能とすることを経営の基本にしている企業のことを「ファミリーフレンドリー企業」と呼ぶ。育児と仕事が両立できるような制度を持っていることも、ファミリーフレンドリー企業の条件であり、このような企業では多様性があり柔軟な働き方を従業員が選択できると、社会的にも高く評価されている。
今後の職場選びにおいて、妊活・不妊治療を含めた出産・育児に関する制度の有無や内容など、仕事以外の生活の尊重について、企業のファミリーフレンドリーな取り組みがさらに重視されるようになるだろう。
◆YELLOW SPHERE PROJECT/YSP
YSPプロジェクト概要
妊娠を希望してもなかなか叶わないという“社会課題”に対し、製品やサービス提供にとどまらず、妊活や不妊治療をする人々を支援し応援するプロジェクトである。目指すところは、より多くの人に適切な情報を伝えて、サポートの輪を広げ、人々の充実した暮らしという未来をつくることへの貢献だ。新しい命を宿す為の努力を、皆が応援する社会へ。それが、YELLOW SPHERE PROJECTの先にある未来である。