
本年4月、柏の葉ライフサイエンスフロンティアに拠点を置く国立がん研究センター(NCC)・三井不動産・Texas Medical Center(TMC)Innovationの連携によるJapan Accelerator for Cancer Therapeutics(J-ACT)の2週間にわたる現地プログラムがついに米国・ヒューストンで開幕した。
同連携は、約2年前の野村俊之氏(三井不動産柏の葉街づくり推進部)とTMCとの出会いを起点に始まり、現在もNCC・三井不動産・TMCの3者による定例連携を継続している。

この連携が目指すのは、「日本で育て、米国で実証し、日本に還流する」双方向の成長モデルである。その基盤となるのが、NCCが運営するSeeds Acceleration Program (NCC SAP)だ。研究段階から設立初期まで各フェーズに応じ、研究開発・薬事・事業計画・資金調達を産官学の協働で包括的に支援する伴走型モデルで、J-ACTはその海外展開支援の中核を担う。
J-ACTは、米国でのがん治療薬開発を目指す日本のアントレプレナーを対象としたアクセラレータープログラムである。第1期コホートには、NCC SAPで採択された11チームの中から選抜された代表4名が参加。プログラムは全7モジュールで構成され、3月のバーチャルセッションを皮切りに、9月のTherapeutics Summitまで約7ヶ月にわたって展開される。
今回の現地プログラムには、NCC SAPで採択された11チームの中から選抜された石﨑秀信氏(がん研究会センター長)、河知あすか氏(国立がん研究センター医師)、本田雄士氏(東京科学大学総合研究院助教)、宮本寛子氏(愛知工業大学准教授)の代表4名が参加した。4名の研究テーマと概要、現地プログラムの進行状況、プログラムの今後は次の通り。
【4名の研究テーマと概要】
◆石﨑秀信氏

【テーマ】抗悪性腫瘍薬RK-582の実用化を目指すスタートアップの設立
【概要】切除不能進行・再発大腸がんを対象に、独自開発したタンキラーゼ阻害剤RK-582 により、これまで「Undruggable」とされてきたβ-カテニンの分解を誘導。既存の後方ライン治療薬を代替する新規治療薬の実用化を目指す。(清宮啓之氏が率いるがん研究会がん化学療法センターのプロジェクト)
◆河知あすか氏

【テーマ】新規標的がんmRNAワクチンの社会実装プロジェクト
【概要】がん細胞に特異的に発現する「Dark Transcriptome」をPublic neoantigenとして標的化したmRNAワクチンを開発。がん種横断的に有効な汎用性の高いoff-the-shelf型治療ワクチンの実現を目指し、将来的にはがん予防ワクチンへの展開も見据える。(吉見昭秀氏が率いる国立がん研究センター研究所がんRNA研究分野のプロジェクト)
◆本田雄士氏

【テーマ】ポリフェノール導入高分子/金属イオン錯体DDSを用いた細胞内標的抗体医薬の創製
【概要】ポリフェノール高分子と金属イオンからなるDDSナノ粒子に抗体を内包し、細胞内への効率的な送達とエンドソーム脱出を実現。既存の抗体医薬では届かなかった細胞内抗原を標的化し、難治性がん治療の新たな選択肢を目指す。
◆宮本寛子氏

【テーマ】腫瘍治療を指向した核酸医薬用ナノテクノロジーの開発
【概要】脂質フリーの独自技術を用いた核酸医薬のDDS(ドラッグデリバリーシステム) を開発。既存の脂質ナノ粒子(LNP)が課題とする肝臓集積を回避し、高い腫瘍集積性を実現するナノ粒子RIONにより、難治性がんへの核酸医薬送達を目指す。
【現地プログラムの進行状況】
現地プログラムは、4月20日、ヒューストンのTMC Innovation Factoryで始動した。同プログラムでは、バイオテック企業の創業・売却(エグジット)経験を持つ実務家や、米国の医療・投資エコシステムに精通した専門家が、講師・メンターとしてセッションを担当している。
◆Day 1(4月20日)

午前中はJennifer Roohiによるオリエンテーションでプログラムの目的・構成・スケジュールを共有。午後はTMC Chief Innovation OfficerのTom Lubyによる米国バイオテックエコシステムに関する講話に続き、TMC Innovation Factoryの施設見学が行われた。
夕方には、Modulus Discovery共同創業者のRoy Kimuraと、TMCでがん治療アクセラレーターを立ち上げたEmily Reiserによるファイアーサイドチャット「日本バイオテックvs. 米国バイオテック」を実施。資金調達環境の違いや投資家へのストーリーテリングについて率直な対話が展開された。最後はTMC InnovationプログラムコーディネーターのAmelie Ayaka Uryuが、米国における効果的なネットワーキングについて講話した。
◆Day 2(4月21日)

午前中はMarch BiosciencesのCEO・Sarah Hein氏が登壇。TMC発のCAR-T細胞療法スタートアップを立ち上げ、現在フェーズ2臨床試験を実施中のSarah氏が、アカデミアから会社設立・資金調達・米国市場参入に至るまでの実体験をもとに、スタートアップの事業化に向けた実践的な知見を共有した。
午後は各参加者との個別相談会の後、TMC Helix ParkにあるTMC3 Collaborative BuildingとCTMC(細胞製造施設)を見学した。
【プログラムの今後】
現地2週間のプログラム終了後も、5月以降バーチャルでModule 3(製造・医薬品開発)、Module 4(事業開発・事業拡大)、Module 5(規制対応・法務)、Module 6(資金調達・リーダーシップ・成長戦略)が続く。プログラムの集大成として、2026年9月30日にTherapeutics Summitの開催が予定されており、全参加者がステージに立ち成果を発表する可能性も示されている。
◆土原一哉国立がん研究センター理事のコメント

日本とヒューストンを結ぶTMC Japan BioBridge/JACTプログラムの現地プログラムがついに実現したことを大変光栄に思う。
このプログラムは、テキサス・メディカル・センターと国立がん研究センターの献身的な協力の成果である。私たちは共に、日本の起業家が世界の舞台で成功できるよう、このカリキュラムの構築に長い時間をかけて取り組んできた。
参加者の皆様は、未知の領域に大胆に飛び込む先駆者である。ヒューストンでの現地プログラムがいよいよ始動した今、ここで学んだことを活かし、真に世界中に羽ばたいていただけることを心から願っている。このプログラムが、日本の科学者にとって実り多い、変革的な学びの機会となることを願っている。
◆TMC Innovation Jennifer Roohi, Program Manager コメント

J-ACTの現地プログラムが無事に始動したことを、TMC Innovationチーム全員とともに大変嬉しく思っている。このプログラムは、NCC・三井不動産との長年にわたる協力の成果であり、その取り組みがこうして形になったことを誇りに思う。
ヒューストンの現地プログラムでは、参加者の皆様は、Strategic Advisory Session(SAS)や投資家・KOLとのネットワーキング、施設見学など、TMCのエコシステムを最大限に活用したプログラムを通じて、米国市場参入に向けた実践的な学びを得られたと思う。各チームが米国市場への次のステップを踏み出せるよう、私たちは全力でサポートしていく。9月のTherapeutics Summitでの発表を楽しみにしている。
