
ツムラは9日、20代〜60代男女3000人に聞く「生理に関する意識と実態調査」結果を公表した。同調査は、2021年に発足した「#OneMoreChoice プロジェクト」における生理のつらさを我慢しなくていい社会を目指した活動の一環として実施されたもの。
その結果、生理を経験したことのある人の68.5%が生理・PMS(月経前症候群)に伴うつらさでの隠れ我慢(心身の不調を我慢していつも通りに仕事や家事を行う)を経験しており、56.8%が周りから理解されにくい症状があると感じている。
また、生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響する人の91.9%が、生理・PMSに伴うつらさが人によって違うことを「知ってもらいたい」と望んでいる。
調査結果について、産婦人科専門医の稲葉可奈子氏は、「生理・PMSに伴うつらさは、身体的・精神的症状を合わせて数十種類。女性同士であっても症状の個人差が大きいため、無理解が生じることがある」と明言。その上で、「だからこそ“個人差が大きい”前提で話す・聴く姿勢が重要となる」と指摘する。調査概要および詳細な調査結果は次の通り。
【調査概要】
◆実施時期:2025年5月30日~5月31日
◆調査手法:インターネット調査
◆調査対象:全国の生理を経験したことのある20代~60代の女性1500人、同年代の男性1500人
◆調査会社:マクロミル
★同調査では月経について「生理」と表現している。
生理を経験したことのある人のうち約7割が“隠れ我慢”を経験している
❶生理・PMSに伴うつらさがあるとき、生理を経験した人の約7割は“隠れ我慢”している
20代~60代の生理を経験したことのある1500人と、同じ年代の男性1500人を対象に、生理やPMS(月経前症候群)に関する調査を行った。
まず、生理を経験したことのある1500人に、生理・PMSに伴うつらさを感じたとき、我慢していつも通りに仕事や家事をしたり学校に行くことがあるかと聞くと、68.5%が我慢した経験が「ある」(「頻繁にある」「時々ある」の合計値)と答えた[図1]。

ツムラでは、心身の不調を我慢していつも通りに仕事や家事を行うことを“隠れ我慢”と定義しているが、今回の調査では生理を経験した人の約7割が隠れ我慢を経験していることが分かった。隠れ我慢を経験した1028人に我慢することによる影響はあるかと聞くと、「趣味や外出などへの意欲低下」(34.9%)、「精神症状の慢性化・重症化」(31.4%)、「パフォーマンスの低下などによる周囲からの評価低下や信頼低下」(30.9%)が上位に挙げられた[図2]。

❷生理を経験したことのある人の約6割が生理・PMSに伴うつらさは「日常生活に影響あり」
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響を及ぼす度合いを聞くと、32.7%が「多少のつらさは感じるが、通常通り生活を送れる」、19.4%が「通常通りとはいかないが、通勤・通学、家事はできる」、5.8%は「立っているのもつらく、起き上がれず寝込んでしまう」と答え、生理を経験した人の57.9%は何らかの影響が「ある」と答えている[図3]。

影響があると答えた869人に生理前~生理終わりの期間のうちで影響を受ける日数を聞くと、「3~4日程度」が24.0%と多く、「5~6日程度」14.6%、「1週間以上」13.5%と合わせて、半数以上の52.1%が「3日〜1週間以上」も影響を受けており、約2割は「周期によってバラつきがある」(22.1%)と答えた[図4]。生理・PMSに伴うつらさやその期間は、人それぞれに違うようだ。

生理・PMSに伴うつらさは、人によって違うことを「知ってもらいたい」
❸生理・PMSに伴うつらさがあるときのパフォーマンスは普段からほぼ半減
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響すると答えた869人に、生理・PMSの症状に伴うつらさがあるときのパフォーマンスは普段と比べどの程度下がるのかを聞いた。
普段の状態を100%とした場合、生理・PMSに伴うつらさがあるときは平均で51.8%となり、ほぼ半減している。
図3の生理・PMSに伴うつらさの度合い別に見ると、「立っているのもつらく、起き上がれず寝込んでしまう」人ではパフォーマンスが28.7%と、普段と比べ約7割も減少しており、症状により日常生活のパフォーマンスに大きく影響している状態が明らかとなった[図5]。

❹生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響する人の約9割が生理・PMSに伴うつらさは人によって違うことを「知ってもらいたい」
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響すると答えた869人に、生理・PMSに伴うつらさが人によって違うことを知ってもらいたいかと聞くと、91.9%が「知ってもらいたい」(「そう思う」「ややそう思う」の合計値)と答えた[図6]。

知ってもらいたいと答えた799人に、生理・PMSに伴うつらさが人によって違うということが知られていないことで困った経験はあるかを聞くと、61.8%が困った経験が「ある」と答え、「周囲に相談しにくかった」(36.4%)、「職場や学校などで適切な制度や環境が整っていなかった」(23.2%)、「誤解や偏見をもたれた」(15.3%)が上位に挙げられた[図7]。

生理・PMSに伴うつらさが人によって違うことを知ってもらうことは「助けになる」
❺生理・PMSに伴うつらさが人によって違うことを知ってもらうことは「助けになる」
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響すると答えた869人に、生理・PMSのつらさが人によって違うことを知ってもらうことは、助けになると思うかと聞くと、92.1%が「助けになると思う」(「そう思う」「ややそう思う」の合計)と答えた[図8]。

❻生理を経験したことのある人が普段感じる生理・PMSの症状は「イライラ感」「腹痛」「眠気」周りから理解されにくいと感じる生理・PMSの症状は「イライラ感」「情緒不安定」「眠気」
生理を経験したことのある1500人に、腹痛や頭痛など生理・PMSの症状を複数提示し、普段つらいと感じる生理・PMSの症状を聞いた。その結果、「イライラ感」(41.3%)、「腹痛」(39.3%)、「眠気」(28.5%)、「腰痛」(28.4%)、「情緒不安定」(27.2%)が上位に挙げられた[図9]。
また、周りに理解されにくいと感じる生理・PMSの症状があるかと聞くと、56.8%が「ある」と答えている[図10-1]。


周りから理解されにくいと感じる生理・PMSの症状として、「イライラ感」(25.1%)、「情緒不安定」(17.9%)、「眠気」(13.7%)、「疲れ・だるさ」(12.9%)、「腹痛」(12.1%)が上位に挙げられた[図10-2]。

生理・PMSの症状として「眠気」を感じる人は多いものの、周りからは理解されにくい症状と感じているようだ。
生理・PMSの症状に関する理解は人によって差がある
❼生理・PMSとして知られている症状TOP10
生理・PMSとしてどのような症状が知られているのか、先に提示した生理・PMSの症状を男性(1,500人)にも提示し、答えてもらった。すると、男女全体(3,000人)では「イライラ感」(50.1%)、「腹痛」(41.6%)、「情緒不安定」(37.7%)、「疲れ・だるさ」(33.4%)、「腰痛」(30.9%)が上位となった。
性別で比較すると、女性は38.0%が「胸の張り」を上げていますが男性は10.1%と27.9ポイント差、「眠気」は女性44.9%に対し、男性11.7%と33.2ポイント差と認識が生じている[図11]。

❽生理・PMSの症状認識している種類の数は性別で差あり
生理・PMSの症状として認識している種類を性別で比較すると、提示した症状のうち男性が認識しているのは平均3.5種類ですが、女性は平均7.3種類と倍以上も多くなっています[図12]。生理・PMSの症状への理解は、性別により差があるようだ。

生理・PMSに伴うつらさのコミュニケーションへの影響
❾生理・PMSに伴うつらさは、周囲の人とのコミュニケーションにも影響を及ぼす
生理を経験したことのある1500人に、生理・PMSに伴うつらさが原因でコミュニケーションに悪影響を及ぼした経験を聞いた。
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に支障がまったくないと答えた631人では周囲への悪影響を感じた人は22.3%であるが、生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響すると答えた869人では、コミュニケーションに悪影響を及ぼしたと感じた人は61.4%と約3倍を示している。
悪影響を及ぼしたと答えた675人にその相手を聞くと、「配偶者・パートナー」(61.0%)が最も多く、次いで「母親」(26.1%)となり、「職場の上司や先輩」(17.6%)、「職場の同僚」(16.9%)など職場にも影響が及んでいる[図13]

❿生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響する人の約7割が生理・PMSに伴うつらさは「周囲に伝えにくい」。伝えにくい理由として「我慢すべきだと思っているから」が約3割も
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響すると答えた869人に症状について周囲の人への伝えにくさを聞くと、72.0%が「伝えにくいと感じた」(「頻繁にある」「時々ある」の合計値)と答えた[図14]。

伝えにくいと答えた626人にその理由を聞くと、「自分の症状やつらさを分かってもらえないと思うから」(51.8%)、「気を遣わせたくないから」(43.0%)、「自分の症状やつらさを表現・説明しにくいから」(42.8%)という理由に次いで、約3割が「我慢すべきだと思っているから」(31.6%)と答えている[図15]。

生理・PMSでつらそうな人に対する周囲の対応
⓫生理・PMSでつらそうな人に対し、周囲は「我慢しなくていい」と共感するものの、男性の約8割、女性でも約7割が「対応の仕方が分からない」
図14の通り、生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響する人の約7割が生理・PMSに伴うつらさについて周囲に伝えにくいと感じているが、周囲の人は生理・PMSでつらそうな人に対し、どのように感じているのか調べてみた。
生理・PMSで困ったりつらそうな人に対し、全体の89.0%が「無理に我慢する必要はないと思う」と寄り添っているが、男性の82.2%、女性も70.5%は「サポートしたいが対応の仕方が分からない」と答えている。
生理・PMSに伴うつらさは人により異なることから、同じ女性でも周囲にいるつらそうな人への対応の仕方が分からない人が多いようだ。また、全体の76.4%が「そのつらさを理解したい」と思っているものの、78.6%が「経験したことのないつらさを想像するのは難しい」と感じている[図16]。男女ともつらそうな人をサポートしてあげたいという気持ちはあっても、どう行動すべきかが分からない人が多いようだ。

生理・PMSに伴うつらさを我慢しない・させない社会に向けて
⓬生理・PMSでつらいとき「周囲の人からの言葉で我慢せずに済んだ」63.8%
生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響すると答えた869人に、生理・PMSでつらいとき、周囲の人の言葉のおかげで我慢せずに済んだ経験を聞くと、63.8%が「我慢せずに済んだ言葉がある」と答えている。
具体的な声掛けとしては、「無理しなくていいよ」「休んで大丈夫だよ」など体調に配慮してくれた言葉(45.3%)が多く、次いで「代わるよ」「できることある?」など実際に力になってくれようとした言葉(23.0%)、「私もそういうときあるし、休むと楽になったよ」といった自分の経験を共有して思いやってくれた言葉(20.1%)の順となった[図17]。

⓭生理・PMSに伴うつらさを我慢しない・させない社会となるためのアイデア
全員に生理・PMSに伴うつらさを我慢しない・させないために、どんな社会にしていく必要があると思うか、自由に答えてもらった。「症状に関する知識を幅広い世代の人々に認知させる」(男性25歳・北海道)といった生理・PMSの認知促進、「生理の話をタブーにしない」(女性47歳・福岡県)などオープンな環境づくり、「学校でPMSの症状についても詳しく教育」(女性28歳・埼玉県)などの教育・啓発施策まで、さまざまな意見が寄せられた[図18]。

◆産婦人科専門医・稲葉可奈子氏
生理・PMSに伴うつらさの個人差を社会全体が理解することが重要
生理・PMSに伴うつらさは「多少しんどくて当たり前!?」「我慢するもの!?」ではない
生理・PMSに関連する症状は、身体的・精神的症状を合わせると数十種類に及ぶ。今回調査で提示された症状は代表的なものであるが、これに限らずさざまな症状が現れる場合がある。
症状の有無や程度の違いなどの個人差は、ホルモン分泌の変動、体質、遺伝的素因、ストレス、生活習慣など複数の要因が絡み合って生じる。だが、どういう人にこういう症状が出やすいなど正確な原因はまだ解明されていない。「立っているのもつらく、起き上がれず寝込んでしまう」ほどのつらさがあるケースも決して珍しいことではないが、適切な治療により症状を軽減できる。
さらに大事なのは、「そこまで症状が重くならないと治療できないわけではない」ということだ。生理は「多少しんどくて当たり前」「我慢するもの」ではない。休むしかない、無理して頑張るしかない、パフォーマンスが下がることを受け入れるしかない、そんなことは決してなく、あなたに合った選択肢があるはずだ
周囲の人 生理・PMSに伴うつらさは「個人差が大きい」前提で話す・聴く姿勢が重要
「生理やPMSに伴うつらさには個人差がある」ことを社会全体が理解するのは、相互の不必要な誤解や軋轢(あつれき)を防ぐために重要だ。周囲の人が本人の訴えを尊重し、無理をさせない、相談しやすい雰囲気などの心理的安全性を作り、社会全体で柔軟な対応を心掛けることが縦横である。
今回の調査では、生理・PMSに伴う「眠気」は周囲から理解されにくい症状と考えられている。だが、排卵後の黄体期にプロゲステロンが増加すると、それを代謝してできるアロプレグナノロンという物質が眠気を誘うため、生理前に眠気が強くなる傾向がある。
また、体温が上昇すれば睡眠の質が低下し、ホルモン変動が自律神経に影響する場合も日中の眠気が生じると考えられる。周囲の人は「怠けている」と誤解せず、自分の努力ではコントロールできない症状として理解することが重要です。眠気は、休むしか方法がないわけではなく、適切な治療により症状は軽減できる。
女性同士であっても症状の個人差が大きいため、自分とは異なる症状やつらさに対して「なぜ?」という無理解が生じる場合がある。だからこそ「個人差が大きい」前提で話す・聴く姿勢が重要である。
「サポートしたいが対応の仕方が分からない」といった場合は、無理に何かをしてあげようとしなくても、「何かできることある?」と声をかけるだけでも支援になる。
職場・学校でも、理解と配慮が当然の文化になるよう、女性だけでなく、男性や管理職も対象とした研修などの「知る機会」の提供と、体調不良時の短時間勤務や休憩取得などの「制度の整備」が求められる。
生理・PMSに伴うつらさは一人ひとり違う、自分に合った適切な治療を
生理・PMSでは精神的症状も伴うため、対人コミュニケーションにも影響を及ぼす場合がある。普段は気にならないようなことにイライラしてしまったり、家族や周囲の人に当たってしまったり…、自分自身もそのことで自責の念にかられてしまうケースがある。そんな時、周囲は「今は体調が優れないのかも」と一歩引いて受け止める心の余裕を持ち、本人は体調の波を周囲に伝えよう。
生理・PMSに伴うつらさは目に見えにくく、また個人差が大きく、自分の努力ではいかんともしがたいものだ。まずそのことを理解した上で、適切な治療により症状が軽減され得ると知っていることも重要である。 「受診すれば楽になるでしょ」と突き放すのではなく、「受診するともしかしたら楽になるかもしれないよ」と優しく声をかけて貰えれば、救われる女性が増えると思われる。